10の低価値医療サービスの利用状況を通じて、日本において低価値/無価値医療サービスを頻繁に提供するプリマリケア医の特性を調べた横断研究
【JAMA Health Forum. 2025 Jun 6】
Primary Care Physician Characteristics and Low-Value Care Provision in Japan
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12144622/
この研究では、大規模な診療所レセプトデータベースを用い、約250万人の患者を対象に、次にあげる10の診療行為について低価値医療(Low-Value Care)と規定し、その提供実態を分析しています。
- 急性上気道感染症(AURI)に対する粘液溶解性去痰薬(カルボシステイン又はアセチルシステイン)の処方
(抗生物質が適切である可能性のある新しい診断がない場合、または慢性呼吸器疾患の併存診断がない場合) - 急性上気道感染症(AURI)に対する抗生剤の処方
(抗生物質が適切と思われる新たな診断がない場合) - 急性上気道感染症(AURI)に対するコデインの処方
(抗生物質が適切である可能性のある新たな診断がない場合、または慢性呼吸器疾患や慢性疼痛の併存診断がない場合) - 糖尿病性神経障害に対するビタミンB12の処方
- 腰痛に対するプレガバリンの処方
(線維筋痛症、糖尿病などの診断がない場合) - 短期、繰り返しの骨密度検査
- 甲状腺機能低下症と診断された患者の血清T3レベル検査
- 高カルシウム血症を示唆する診断を受けていない患者に対するビタミンD検査
- 腰痛と診断され、神経根障害を示唆する診断がない患者に対する硬膜外、椎間関節、またはトリガーポイント注射
- 嚥下障害、貧血、体重減少を伴わない消化不良または便秘と診断された患者に対する内視鏡検査
その結果、患者全体の10.9%に、年間に少なくとも1回、低価値医療/無価値医療を受けており、患者100人あたりでは年間約17.2回提供されていることが明らかになりました。
研究期間中にLVCを受けた患者数(%)と回数(一部抜粋)
- AURIに対する粘液溶解性去痰薬で28.8%
(患者100人当たり6.9回) - AURIに対する抗生物質で20.1%
(患者100人当たり5.0回) - AURIに対するコデインで8.4%
(患者100人当たり1.9回)
また、全ての低価値医療/無価値医療の45.2%は、医師全体の10%によって提供されていることが明らかになっていて、さらにその特性について解析したところ、特に年齢が高い、専門医資格がない、患者数が多いなどの傾向を明らかにしました。
この背景には、専門医資格を持たない医師や研修から長い時間が経過した医師は、医療の過剰使用に関する古い知識を持って診療を行っている可能性があり、現在のガイドラインを最新の状態に保つのが難しい場合があると指摘、また、患者が多い傾向については、日本の出来高払い診療制度が利益志向の強い医師に、より多くの患者を診察し、LVCサービスを提供するインセンティブを与えている可能性があると指摘しています。
また、西日本で多くのLVCが提供されていることも明らかにされていて、この点について研究者らは、西日本は開業医数が多く、より多くの患者を引き付けるためにヘルスケアサービスを過剰に利用する動機になっている可能性があると指摘しています。
持続性ある医療保険制度と医療提供体制が問われている今、OTC類似薬の保険適用のあり方をどうするのか、特にプライマリケアにおける医療提供体制がどうあるべきか、そして出来高払いの診療報酬の仕組みがこのままでよいのかを考えさせられる結果となっています。
参考:
プライマリケアで「低価値医療・無価値医療」を提供する医師の特徴を分析
(筑波大 2025.06.07)
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/medicine-health/20250607010000.html
2025年06月10日 14:44 投稿