論文・報告あれこれ 2012年5月

 今月のちょっと気になった論文や報告などです。誤りがあったらご指摘下さい。月ごとにまとめて随時追加する予定です。 

紹介日 論文・報告タイトル
(紹介記事・ブログ)
概要・コメント
05.31 Nonsteroidal anti-inflammatory drugs and the risk of skin cancer
Cancer Published online 29 MAY 2012)

NSAIDsが一部の皮膚がんの発症リスクを減らす可能性があるとしたデンマークの研究。デンマーク国内の患者データベースのうち約170,000人のデータを解析、その結果、2つ以上のNSAIDsを使っていた人の間で扁平上皮癌と扁平上皮癌の相対危険度が、それぞれ15%と13%減少したという。
05.31 Effects of the Great East Japan Earthquake and huge tsunami on glycaemic control and blood pressure in patients with diabetes mellitus
BMJ Open  Published 13 April 2012)
(オープンアクセス)

東日本大震災でカルテが失われた被災地の糖尿病や高血圧の患者の病状が震災後にどのような影響をうけたかを調べた東北大の研究。津波の被害にあった群(28人)と、津波に被災しなかった高台や内陸部の患者の群(35人)に分け、震災前と震災4カ月後の血糖値や血圧などのデータを比較したもの。日本での報じられ方が微妙に異なることが興味深い。(お薬手帳の有無うんぬんの朝日の見出しはちょっと行き過ぎ?)
05.31 がん治療と緩和ケア(1):在宅緩和医療の推進に障壁となっていることは?~薬剤師の視点から~
(日本医科大学医学会雑誌 7(4) p156-161,2011)
薬局の緩和ケアに関する業務の実態,意識や問題点などついて、全国3000の薬局にアンケート調査を行った報告。(回答率34.5%) その結果経口麻薬製剤の調剤や服薬指導を行っていると回答した施設は、全体の53.6% であったが、注射麻薬製剤の調剤や服薬指導を行っていると回答した施設は,全体の1% 未満にすぎなかった。(厚生労働科学研究の一部らしい)
05.31 緑内障治療薬としてのプロスタグランジンF2α誘導体製剤(プロストン系およびプロスト系)の特性について
(日本医科大学医学会雑誌 8(2) p134-142)
緑内障治療の第一選択薬となったプロスタグランジン(PG)系製剤にあついて、化学的構造とその薬理的特性などについてまとめたもの。
05.31 薬剤師の病棟業務進出に関する医療経済学的分析
(日本医療・病院管理学会誌 49(1) p9-17,2012)
薬剤師に注射実施を認め,病棟配置に診療報酬上カウントした場合の病院経営における影響についてのシュミレーション結果と、注射関連業務について看護師と薬剤師の認識を調べたもの。
05.31 英国における医療経済評価の政策利用と日本への示唆
(日本医療・病院管理学会誌 48(4) p211-219)
現在日本でも導入が検討されている医療経済評価(HTA)についての英国における利用状況と日本で政策利用をする際の課題についてまとめたもの。
05.24 Associations of dietary calcium intake and calcium supplementation with myocardial infarction and stroke risk and overall cardiovascular mortality in the Heidelberg cohort of the European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition study (EPIC-Heidelberg)
Heart 2012;98:920-925) 
(オーピンアクセス)

カルシウムの摂取と心臓血管病による死亡率や心筋梗塞の発症リスクとの関連を調べたコホートスタディ。ドイツ、ハイデルベルグの住民23,980人を11年間追跡調査、ホーートスタディ。カルシウムの摂取によっては心筋梗塞と心臓発作と心臓病による死亡率は優位に減ったが、サプリメントを併用した人では逆に心筋梗塞のリスクで1.86倍と上昇、またサプリメントのみの摂取の場合では心筋梗塞のリスクは2.39倍と優位に高くなった。やはりカルシウムはサプリメントではなく、食事でしっかりとることが健康によいということか。
05.24 Results of a national survey on OTC medicines, Part 3:Perceived time expectations for clinical encounters associated with over-the-counter medicines
CPJ May 2012, 145(3), pp116-118)
(オープンアクセス)
OTCに関する調査を行った第3弾の調査結果。今回の調査はOTC医薬品の販売時にどのくらいの時間をかけているかというもの。アスピリン81mg、コデイン配合咳止めシロップ、ロペラミド、ニコチンパッチなど日本でも販売されている商品が対象となっており興味深い。
05.24 Increasing Occurrence of Atypical Femoral Fractures Associated With Bisphosphonate UseAtypical Femoral Fractures and Bisphosphonate Use
Arch Intern Med. Published online May 2012)
(しばらくオープンアクセス)

ビスホスホネート製剤と大腿骨の非定型骨折(atypical fractures)や古典的骨折(classic fracture)との関連性を調べたスイスの大学病院のcase-control study。古典的骨折は47%減少したものの、非定型骨折は試用期間が長いほどリスクが多く上昇したが、絶対数としては非常に少ないとした
05.24 Annual direct cost of dry eye in JapanClinical Ophthalmology Published 21 May 2012)
(オープンアクセス)
成人ドライアイ患者の現状と点眼薬の使用量から、海外との治療コストを比較した国立東京医療センターの研究チームがまとめた報告。
05.24 A Prescription for Improving Drug Formulary Decision Making
PLoS Med 9(5): e1001220.Published May 22,2012)
(オープンアクセス)

公的機関や病院等が作成する医薬品集(Drug Formulary)について、作成の際の留意点をまとめたもの。必要性のエビデンス、有用性、安全性、潜在的誤用のリスク、コスト、決定までのプロセスの考え方など多岐にわたっている。
05.24 How and why chemicals from tobacco smoke can induce a rise in blood pressure
World J Pharmacol 2012 February 9; 1(1): 10-20 )
(オープンアクセス)
たばこの煙のどのような有害成分が血圧に影響を及ぼすかをまとめたもの。(中国に出版元がある新しい学術雑誌らしい)
05.24 Clopidogrel and proton pump inhibitors – where do we stand in 2012?
World J Gastroenterol. 2012 May 14; 18(18): 2161-2171.Published online 2012 May 14.)
クロピドグレル(プラビックス)とPPIの相互作用について、まとめたもの。クロピドグレルとPPIの相互作用への影響ははっきりとしたものがみられなかったが、12時間服用間隔をずらす必要があることや他の抗血小板薬を併用した場合は出血リスクを高めるとした。
 05.24 Effect of soy protein supplementation in patients with chronic hepatitis C: A randomized clinical trial
World J Gastroenterol. 2012 May 14; 18(18): 2203-2211.)
(オープンアクセス)
糖尿病でない慢性C型肝炎ウイルス患者に大豆サプリメント(Soy supplementation)を摂取した場合の影響を調べたブラジルの研究。使用でALTレベルを上昇させ、肝機能を悪化させる可能性があるとした。
05.13 Detection of fluoroquinolone-induced tendon disorders using a hospital database in Japan
(Pharmacoepidemiol Drug Saf Published online 24 APR 2012)
フルオロキノロン関連の腱障害(腱炎、腱断裂)の発症リスクをセファロスポリン系の抗生剤が処方された患者と比較した浜松医大の研究。1996年4月~2009年12月の同大病院のデータベースを調べたところ、腱障害の発症リスクはセファロスポリン系の抗生剤を処方された患者と比べ6.29倍となった。
05.13 Factors influencing purchase of and counselling about prescription and OTC medicines at community
pharmacies in Tallinn, Estonia.
(Acta Pol Pharm. 2012 Mar-Apr;69(2):335-40.)
エストニア、タリンの6薬局の1820人の利用者に行われたアンケート。処方せん医薬品とOTC医薬品が同じように購入されており、OTCでは鎮痛薬、かぜ薬・咳止めの購入者が多かった。処方せん医薬品とOTC医薬品いずれを選ぶ際に地域薬剤師によって行われているカウンセリングは非常に評価されているという。
05.13 Pioglitazone and bladder cancer: A propensity score matched cohort study
Br J Clin Pharmacol Online First  11 MAY 2012)
2型導尿病患者のピグリタゾンの使用と膀胱がんの発症増加の関連性を調べた英国のコホート研究。HR1.16(95%CI 0.83-1.62)で有意差はなかった。
05.13 Apple Juice Greatly Reduces Systemic Exposure to Atenolol
Br J Clin Pharmacol Online First  11 MAY 2012)
β遮断薬のアテノロールの薬物動態がアップルジュースの影響を受けるかどうかを12の健常人に行った韓国の研究。幾何平均比率(geometric mean ratios)はアップルジュース1200ml摂取で0.18、600mlで0.42と用量依存で影響を受けた。
05.13 An Overview of the Evidence and Mechanisms of Herb–Drug Interactions
Front Pharmacol. 2012; 3: 69 Published online 2012 April 30)(オープンアクセス)
ハーブ関連の薬物相互作用についてのレビュー。非常に多くの文献から引用されている。作用機序ごとにまとめられていて興味深い。
05.04 The Renin-Angiotensin Pathway in Posttraumatic Stress Disorder: Angiotensin-Converting Enzyme Inhibitors and Angiotensin Receptor Blockers Are Associated With Fewer Traumatic Stress Symptoms
J Clin Psychiatry Online First 2012.05.01)

ARBやACE阻害薬がPTSD(外傷後ストレス障害)を軽減する可能性があるとした研究。観察研究のレビューであり、RCTで臨床試験が実施されるべきとしながらも、症状を得点化したところ、ARBやACE阻害薬を服用している人では30%の得点の減少が見られたという。
05.04 Community pharmacists’ attitudes relating to patients’ use of health products in Japan.
Int J Clin Pharm. Online First 2012 Apr 25)
健康食品(Health pr0duct)を使用する患者への姿勢にについて薬剤師16人にインタービューを行た東大の研究。薬剤師の姿勢や考え方はバラバラであり、地域における薬剤師の役割について改めて考え直す必要があるとした。(フルテキストを見てみたい。日本語の論文もあるのかなあ)
 05.04 Review of services provided by pharmacies that promote healthy living
Int J Clin Pharm. Online First 2012 Apr 17)
地域薬局における Public Health サービスの可能性について、文献調査した結果の報告。377のPaper (うち35%はここ3年で発表されたもの)をレビュー。避妊・心血管疾病予防、糖尿病た禁煙などで全体の4割を占めた。禁煙、心臓血管疾患防止、高血圧と糖尿病では高いエビデンスがあったが、喘息と心不全への介入のエビデンスは一部に留まった他、weight managementやsexual health、骨粗鬆スクリーニング、薬物濫用、COPDに対してのエビデンスはまだ弱く、これからの取組が必要だとした。
05.04 ツロブテロールテープ製剤の銘柄間切り替えに伴う喘息症状,副作用,製剤使用感の変化に関する実態調査
(薬学雑誌 132(5) p617-627,2012)
ツロブテロール貼付剤の(後発品への)切り替えによる影響にういてのの経験事例などについて尋ねたアンケート調査の結果。医師138名、薬剤師390名から回答。このうち、製剤の切り替えによる治療効果の変化があった46例について検討を行っている。(具体的な商品名は出てこない)
05.04 エビデンスはいつも信用できるのか?
(耳鼻咽喉科臨床 105(5) 407-412)
(今のところフリーアクセス)
EBMの考え方について概説(これは参考になる)。そのうえで、欧米のガイドラインについて、中耳炎など耳鼻咽喉科領域の感染症はウイルス性とされているが、実際には急性中耳炎患児の中耳貯留液からウイルス単独で検出されるのはわずかで70%から細菌が検出されているなどとして、欧米のガイドラインを日本で適用しても適切な治療ができない場合があると指摘している。
05.04 コレステロール論争-上島氏の論文に対する反論
(脂質栄養学 21(1) p77-87,2012)
ファルマシアの2011年6月号掲載された『疫学から見たコレステロール問題 「コレステロールは高い方が長生きする」の誤謬』に対する反論の投稿(関連記事→TOPICS 2010.10.21

2012年05月31日 14:50 投稿

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