論文・報告あれこれ 2011年7月

  今月のちょっと気になった論文や報告です。誤りがあったらご指摘下さい。月ごとにまとめて随時追加する予定です。 

紹介日 論文・報告タイトル
(紹介記事・ブログ)
概要・コメント
07.31 薬系大学におけるOTC医薬品教育の現状調査
(医薬品情報学 12(4):163-167)
全国74の薬学部、薬系大学を対象に行われたアンケート調査の結果。(2009年8月に実施回収率70.3%) OTC医薬品に関する講義や実習の内容・方法について尋ねています。2009年の時点では実習教育を取り入れている大学は少なく(特に国公立大では1割)、研究者らはOTC医薬品を求めて薬局を訪れる生活者のさまざまなケースを想定し、幅広い教育が行われるべきだとしています。
07.31 先発医薬品と後発医薬品の風味に関する情報の調査
(医薬品情報学 12(4):158-162)
小児に適応のある抗菌薬111品目について、「イチゴ味」などの風味に関する情報がどの程度整備されているかを調べた研究。(具体的な品目は提示されていません)添付文書で具体的な風味の記載があったのは先発品12.8%、後発品16.9%とわずかで、その他紙媒体への記載も不十分で、メーカーに問い合わせて知りえたケースも少なくなかった。
07.31 保険薬局における後発医薬品への変更に対する患者意識調査
(医薬品情報学 12(4):149-157)
北海道内の50の保険薬局に院外処方せんを持参した全患者を対象に行われたアンケート調査の結果。GEの認知、知っている場合の情報源、希望の有無、希望しない場合の理由などを尋ねた。研究者らはGE選択の意思決定にはGEの認知の程度が影響することが示されたとして、薬局薬剤師による情報提供が重要だとしている。
07.29 Direct-to-consumer advertising (DTCA) for prescription drugs:
Consumers’ attitudes and preferences concerning its regulation in South Korea.
Health Policy.2011 Aug;101(3):260-8.Epub 2011 Jun 25.)
韓国における処方せん医薬品の患者直接広告(DTCA)について、処方せん調剤を受けるために来局した消費者に行ったアンケート調査の結果。6割の人がDTCAを肯定的にとらえる一方、信頼度は半数に届かなかった。日本でもDTCAとあまり変わらない「疾病啓発広告」について、検証が必要かもしれない。
07.29 Patients’ reaction to the disclosure of rare dreaded adverse events.
Patient Educ Couns.2011 Aug;84(2):e1-4.)
まれだが重篤な有害事象についてのビデオ見てもらい、その薬による治療を受けたいかどうかを外来患者に尋ねた研究。人種や性別によって受けて止め方に差があるらしい。
07.29 Over-the-counter orlistat:
early experiences, views and attitudes of community pharmacists in Great Britain.
Int J Clin Pharm.2011 Aug;33(4):627-33.)
OTCとして販売されている抗肥満薬オルリスタットを販売する地域薬局の薬剤師に行われた郵送によるアンケート調査の結果。医療専門職役割を広げる機会としてオルリスタットとスイッチを歓迎する一方、不適切な使用の懸念(半数近い。おそらく本来対象でない体型の人の購入希望者が少なくない)や購入者から製品の高いコストへの不満が少なくなかった。日本でもロキソニンについて、生活者がどのように購入しているか、またこれに対して現場の薬剤師がどのように感じているかなどの調査をやってみてもいいかも。
07.29 Assessment of pharmacists’ opinions toward the behind-the-counter category of medications.
J Am Pharm Assoc.2011 Jul-Aug;51(4):535-8.)
米国で検討中のビハインド・ザ・カウンター(BTC)カテゴリーの導入について、認識やBTCに適した薬剤について、オハイオ州の473人の薬剤師に行われたアンケート調査の結果。出生前の葉酸1mg、トリアムシノロン・クリーム、スルファジアジン銀クリーム、モメタゾン点鼻液、150mgフルコナゾール、エピネフリン注射、プロメタジン、メベンダゾール等がBTCカテゴリーに向いているという声が多かった。日本でも、現場の薬剤師向けにこういった調査をして欲しいな。
07.29 Effect of outpatient pharmacists’ non-dispensing roles on patient outcomes and prescribing patterns.
Cochrane Database Syst Rev. 2010 Jul 7;(7):CD000336.)
(震災の関係で、まだFULL-TEXTを読むこと可能→リンク
高血圧治療など、外来患者に対するなどへの薬剤師の介入試験のシスティマティック・レビュー。(2000年1月の更新版) 薬剤師による患者に関する36の研究と7つの医療専門職に介入した研究が紹介されています。
07.23 Secondhand Smoke and Sensorineural Hearing Loss in Adolescents.
(Arch Otolaryngol Head Neck Surg. 2011; 137: 655-662)

BBC NEWS
NHS Choices

間接喫煙が子どもの聴覚機能への影響があるかどうかを調べた研究。血中のコチニン濃度で間接喫煙の暴露の有無を比較、間接喫煙の暴露があった群では聴力問題があった率が高かった。ただ、研究方法には考慮すべき点も多く、この結果を持って、間接喫煙への暴露が聴力に影響をもたらすとは結論付けられない。
07.23 Oral Contraceptive Use and Bone Density Change in Adolescent and Young Adult Women: A Prospective Study of Age, Hormone Dose, and Discontinuation
(The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism July 13, 2011)

Medical News TODAY
Eurek Alert!

経口避妊薬が骨密度に影響があるかどうかを検討した研究。14-18歳の301人と19-30歳の305人を経口避妊薬の使用の有無で、股関節、脊柱と全身骨密度に影響が見られるかを調べています。結果は2年程度の使用では大きな差は認められなかった。
07.23 Applying the Essential Medicines Concept to US Preferred Drug Lists
AJPH published online ahead of print Jun 16, 2011)

TS-Si

米国40州で使われている’Medicaid program’s Preferred Drug Lists(PDLs)’ とWHOの必須医薬品リストを比較した研究。喘息、抑うつ、糖尿病と高血圧など9つの治療法について使用医薬品を比較したところ、これら治療法で用いられているWHOの必須医薬品リスト120成分のうちわずか6成分に留まった。PDLsのみの成分249についてもジェネリックがあるのは56%に留まった。メディケイドにおいては、WHO必須医薬品リストを用いたより効率的で低廉なエビデンスのある治療の活用を期待?
07.15 Cigarette Taxes and Smoking Participation: Evidence from Recent Tax Increases in Canada
Int. J. Environ. Res. Public Health 2011, 8(5), 1583-1600)(Open Access)

Eurek Alert!
Vancouversun

たばこへの課税強化は喫煙対策として各国が取り入れていますが、年齢や所得によっては必ずしも有効な対策とはならない可能性があるとしたカナダの研究。1998-2008年のカナダの禁煙率に関する統計などを分析、若者や中高年層では課税強化が喫煙率の低下に寄与したが、もともと喫煙率が高い25歳~44歳では、全体の低下率を下回る。また高所得層では喫煙率の低下には寄与しなかった。日本の統計(厚労省JT)でも働き盛りのヒトの喫煙率低下が鈍く、たばこの値上げだけは喫煙率低下の切り札にはならないようだ。(この日の日本の記事では、たばこ値上げで中高校生の喫煙が減ったとの研究もあるそうだけど)
07.13 Secondhand Smoke Exposure and Neurobehavioral Disorders Among Children in the United States
(Pediatrics Published online July 11, 2011)(Open Access)

WebMD
Medical News Today
・関連記事(TOPICS 2009.11.24,  TOPICS 2007.05.09

間接喫煙とADHD、学習障がい、行動障がいなどとの関連性を調べた研究。研究は2007年に行われた米国のこども健康調査(12歳以下約55000人を対象に行われた電話調査)を解析、6%の子どもで間接喫煙が認められた。間接喫煙が認められた子どもとそうでない子どもを比較したところ、これらの2つ以上の障がいを有する確率が50%多く認められた。過去の研究では母親の妊娠中の喫煙が子どものこれら障がいとの関連があるとの報告があったが、間接喫煙も何らかの関連性があるかもしれない。
07.13 Maternal smoking in pregnancy and birth defects: a systematic review based on 173 687 malformed cases and 11.7 million controls
(Hum. Reprod. Update published online: July 11, 2011)
(今のところオープンアクセス)

NHS Choices
BBC NEWS
WebMD
MailOnline

妊娠時の喫煙と生まれてくる子どもの先天性欠損(異常)の関連性を調べたシスティマテックレビュー。メタアナリシスは172研究173,687の事例を解析、非喫煙グループと比較して四肢の短縮、内反足、口蓋裂、目の障害、消化器系への影響などが比較的高かった(25~50%増)。研究者らは妊娠中の母親の喫煙は、いくつかの大きな先天性欠損の重要な危険因子であるとする一方、妊娠中にニコチン代替療法(NRT)の使用を考慮することが有用だとしています。
07.06 Non-steroidal anti-inflammatory drug use and risk of atrial fibrillation or flutter: population based case-control study
(BMJ Published 4 July 2011)

Eurek Alert!
PJ Online

NSAIDsと心臓血管病リスクとの関連性は有名ですが、この研究ではNSAIDsと心房細動の発症リスクを、成分・使用期間・発症時期ごとに関連性があるかどうかをデンマークの患者データベースで解析したものです。発症リスクは新規処方時、高齢者、慢性腎臓病、リウマチ患者、COX-2阻害薬で使用を開始した場合などで高かった。
07.06 Being smarter with smartphones
CMAJ First published July 4, 2011)

Tronto Sun
Medical News TODAY

カナダ医師会雑誌のCMAJ 誌に掲載された論説。現在医療現場などでの使用が禁止されている、スマートフォンに代表される多機能電話の使用を求める内容。一方で、患者の情報が簡単に共有できることから、適切な使用のための指針も必要だとしています。(例えば、カフェテリアや公共の場では症例について話すことは避ける。また、こういった場所に置き忘れると患者情報が漏えいしてしまう)
07.01 「かかりつけ薬局」に対する地域住民の理解と利用の実態とその地域差
(薬学雑誌 131(7),1127-1134(2011))
東京理科大の研究グループが、「かかりつけ薬局」の利用実態や意識、理解度などについて、2地区で行われた調査結果。東京都北多摩地区と長野上田地区では院外処方せんの持参薬局を一薬局に決めているのに対し、北多摩地区では18%にとどまるなどの結果が明らかになった。サンプリングに偏りがあり、報告扱いとなっていますが、きちんとサンプリングをして再調査を行うと、おそらく興味深い結果となったと思います。
07.01 低用量アスピリン及び非ステロイド性消炎鎮痛薬による消化管障害の危険性の評価
(薬学雑誌 131(7)1085-1094(2011))
東薬大と東海大医学部の共同研究で、バイアスピリン錠を対象薬剤として、NSAIDs16成分17品目について、PGE2産生阻害率などを指標に消化管障害の危険性を評価した研究。アスピリンは低用量においても消化管障害誘発性が非常に高く、またイブプロフェンでも髙かったが、ロキソプロフェンでは低かった。

2011年07月31日 02:10 投稿

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