論文・報告あれこれ 2011年9月

 今月のちょっと気になった論文や報告です。急にたくさんの掲載があったので、概要のみのものもあります。余裕があれば更新するか、独立記事にします。誤りがあったらご指摘下さい。月ごとにまとめて随時追加する予定です。  

紹介日 論文・報告タイトル
(紹介記事・ブログ)
概要・コメント
 09.30 Oseltamivir in patients taking methotrexate
(UKMi 2011.9 Wordファイル)

  UK Medicines Information の薬剤師向けのQ&A。メトトレキサートを使用中の患者にはオセルタミビルを使用する場合にはモニターが必要だとするもの。(尿細管分泌で排泄されるため、競合し、メトトレキサートの作用が増強されるのではないか)
 09.30 Effect of Increasing Doses of Saw Palmetto Extract on Lower Urinary Tract Symptoms
JAMA. 2011;306(12):1344-1351.)

 ノコギリヤシエキス(Saw Palmetto)果汁抽出物)が、前立腺肥大に伴う下部尿路症状の軽減効果はないかもしれないとした論文。ある製品について3倍量まで増やして効果を比較したが、有意差が認められなかった。ただ、今回は特定の製品のみだったので、他の製品も同様なのかどうかは異論がある。
09.30 Cardiovascular Risk with Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs: Systematic Review of Population-Based Controlled Observational Studies
PLoS Medicine, published on 27 September 2011)

NSIDsと心臓血管病リスクとの関連について調べたシスティマテイック・レビュー。30のケースコントロール研究と21のコホート研究のデータを解析。ジクロフェナクとエトドラクのリスクが高かった一方、ナプロキセンや低用量のイブプロフェンのリスクは低かった。この手の研究はさまざまなものがあり、どのようにとらえたらよいか難しいところですが、慢性疼痛治療での日本におけるNSAIDs使用偏重は、考えた方がいいかもしれません。
 09.27

Risk of bleeding associated with combined use of selective serotonin reuptake inhibitors and antiplatelet therapy following acute myocardial infarction
CMAJ September 26, 2011 First published)
(オープンアクセス)

 抗血小板薬(アスピリン・クロピドグレル)がSSRIの影響を受けて出血リスクが増すかどうかを調べた研究。27058人の50歳以上の心筋梗塞患者のデータを解析、アスピリン単独での出血リスクを1としたとき、出血リスクはアスピリン+SSRIの併用で1.42倍、アスピリン+クロピドグレル+SSRIの併用で2.35倍となった。またクロピドグレル単独での出血リスクを1としたとき、クロピドグレル+SSRI併用で1.54倍となった。ただし研究では、この作用機序については推測されていない。
09.27 The Value of Branded Proton Pump InhibitorsFormulary Considerations
P T. 2011 July; 36(7): 434–445.)
(オープンアクセス)
逆流性食道炎におけるPPIの有用性について概説。ジェネリックにシフトする傾向にあるが、新規PPIには薬物動態の違いがあり、ジェネリックより臨床的な利点があるとして、処方集に加えるべきだとしています。(関連のメーカーのコンサルタントをしているということを割り引いた方がいいかも)
09.27 Two Cases of Gastric Anisakiasis for which Oral Administration of a Medicine Containing Wood Creosote (Seirogan) was Effective.
Hepatogastroenterology. 2011 Jul-Aug;58(109):1252-4.)
正露丸がアニサキス症(線虫)に効果があるとした症例報告。強い上腹部痛が正露丸の服用で抑えられたという。in vitroで調べたところ、正露丸はアニサキス幼虫の生存能を抑えたことも確認したとのこと。研究者らは応急処置としての正露丸の服用は有用ではないかとしている。
09.23 European Medicines Agency starts review of orlistat-containing medicines
(EMA Press Release 2011.09.22)

抗肥満薬オルリスタットの肝毒性についてレビューを開始したというEMA(欧州医薬品庁)のプレスリリース。EMAによれば、1997年から2011年1月までに関連性が疑われる重篤な肝障害の報告が21例あったが、使用者が3800万人に達していることも考慮すべきだとしています。
09.23

The impact of anticholinergic burden in Alzheimer’s Dementia-the Laser-AD study
Age Ageing First published online: September 18, 2011)

抗コリン剤(OTCも含む)の使用がアルツハイマー型認知症患者の認知機能や症状の悪化につながるかどうかを調べたもの。224人を追跡調査したが、関連性は認められなかった。高齢者には抗コリン剤を慎重投与すべきかどうか考えさせられます。
09.23 Fluoroquinolone-Associated Myasthenia Gravis Exacerbation: Evaluation of Postmarketing Reports from the US FDA Adverse Event Reporting System and a Literature Review
Drug Saf. 2011 Oct 1;34(10):839-47)
重症筋無力症の患者にフルオロキノロン系抗菌剤を投与した場合に症状が悪化する可能性があることから米FDA有害事象報告システム(AERS)などを用いてその実態を調べたもの。その結果関連の可能性がある事例が37例あった。このうちAERSの27例の内訳はレボフロキサシン9例、モキシフロキサシン6例、シプロフロキサシン6例などであった。
09.23 Medicines interactions: the role of P-glycoprotein
Prescriber Update 2011;32(3):21-22)

P-糖たんぱく質についての解説。
09.23 Proton pump inhibitors and interstitial nephritis
(Prescriber Update 2011;32(3):25)
ニュージーランドのCARM(The Centre for Adverse Reactions Monitoring、有害事象モニタリングセンター)には2011年6月30日現在、PPIとの使用との関連性が疑われる65例の間質性腎炎の報告を受け取っている(オメプラゾール62例、pantoprazole(本邦未発売)3例)。β-ラクタム、NSAID、スルホンアミドと利尿薬の使用や感染の存在、免役や新生物の異常(immune and neoplastic disorders)が危険因子となるという。
09.14 Single dose oral analgesics for acute postoperative pain in adults
Cochrane library Published Online: 7 SEP 2011)

鎮痛剤に関するシスティマティックレビュー。
09.14 平成23年度第5回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会及び第2回子宮頸がん等ワクチン予防接種後副反応検討会(合同開催) 資料
(厚労省 2011.09.12開催)

10歳代の女児で接種後で初めての死亡例(→リンク)。もともと心臓病の持病があったとのことで、関連性はわからないとのこと。資料自体は整理されているので。もっと一般の人(保護者)が見てわかるような情報の発信が必要。
09.14 Treating nausea and vomiting in palliative care: a review
(Clin Interv Aging 2011, 6:243-259, 12 September 2011)
(オープンアクセス)
緩和ケアにおける吐き気・嘔吐対策についてまとめたもの。いろいろな薬物療法が示されていて興味深い。
 09.14 Impact of Pharmacist Care in the Management of Cardiovascular Disease Risk Factors
(Arch Intern Med. 2011;171(16):1441-1453.)

 血圧、総コレステロール値、LDL-C値、喫煙などが薬剤師の介入によりどう成果があったかなどを調べた30のRCTのメタアナリシス&システィマティックレビュー。概要は、内科開業医のお勉強日記に譲りますが、日記のコメントには共感を覚えました。
09.14

Mesenchymal Stem Cells Induce Resistance to Chemotherapy through the Release of Platinum-Induced Fatty Acids
Cancer Cell. 20(3): 370-383, 13 September 2011)

魚用サプリメント中に含まれる一部の脂肪酸が、化学療法剤(シスプラチン)の効果に影響を及ぼす可能性があるとした論文。マウスとヒト細胞で検討。化学治療剤の広域抗菌スペクトルに、耐性を誘導するためらしい。EPAやDHAではなく、ヒトを対象とした研究ではないので、現時点ではあまり心配はいらないが、純度の低いものは注意が必要かもしれない。今後の報告に注目。
09.14 抗酸化サプリメントの有効性・安全性評価
(健康栄養ニュース第37号p6 2011.09.15)
“Antioxidant” をキーワードに、メタアナリシスの論文を検索し、25論文96件のエビデンスを整理。その結果、有効15件、有効傾向が1件、有効性・危険性なしが51件、危険傾向が4件、危険が17件、有効性・危険性不明が1件などの結果となり、抗酸化サプリメントの危険性を認めたエビデンスは有効性を認めたエビデンスより多い結果となった。(老化防止などで抗酸化サプリメントを求める人にはやっぱり販売しずらいですね)
09.10 Proof-of-Principle Evaluation of the Efficacy of Fewer Than Three Doses of a Bivalent HPV16/18 Vaccine
(Natl Cancer Inst. Online First September 9,2011)

2価のHPVワクチン「サーバリックス」の接種回数と感染の予防効果を知らべた研究。(コスタリカにおける臨床試験として行われる) サーバリクスは6か月に3回接種というの普通ですが、2回接種でも予防効果は3回と変わらない可能性があるとの結果に。国によっては、費用の自己負担の問題もあり、接種回数については今後議論となる可能性も。
09.10 Japanese experience of hydrogen sulfide: the suicide craze in 2008.
J Occup Med Toxicol. 2010 Sep 29;5:28.)
(オープンアクセス)
下記報告からたどってわかった、2008年の日本における硫化水素自殺の事例をまとめた論文。2008年3月25日から6月15日のわずか3か月弱で220事例208自殺があったそうです。研究者らは、インターネット・コミュニケーションによって情報が急速に広がることや、ネットで化学薬品が簡単に購入できる現状から、世界のどこでも起こる危険性を懸念しています。(これでは、対策に乗り出さざるを得ないですね) 
 09.10 Chemical Suicides in Automobiles — Six States, 2006–2010
(CDC MMWR Weekly Report September 9, 2011 / 60(35);1189-1192)

米国6州での家庭用品を用いた自殺の症例をまとめたもの。5年間に10事例9自殺だった。レポートでは上記日本での硫化水素事例を引用し、さまざまな予防措置が必要だとしています。
09.07 Critical appraisal of the use of alpha lipoic acid (thioctic acid) in the treatment of symptomatic diabetic polyneuropathy
Ther Clin Risk Manag 2011, 7:377-385)
(オープンアクセス)
糖尿病性の神経障害にアルファリポ酸が有用かもしれないとする研究。(これまで発表の研究から解析)
09.07 Pharmacovigilance analysis of adverse event reports for aliskiren hemifumarate, a first-in-class direct renin inhibitor
Ther Clin Risk Manag 2011, 7:337-344)
(オープンアクセス)
アリスキレン(ラジレス)の有害事象について、米FDAの有害事象報告システムを調べて分析したもの。2007年・2008年に1592例の関連性が疑われる報告が寄せられ、内訳は血管浮腫(3.9%)、腎機能障害(3.4%)などの重篤なもののほか、高カリウム血症(7.4%)、空咳(11.0%)、下痢(3.4%)などもあった。
09.07 Psychiatric Adverse Events Associated with Varenicline: An Intensive Postmarketing
Prospective Cohort Study in New Zealand
Drug Safety 34(9) pp763-772)
ニュージーランドにおけるバレニクリンの有害事象について、Prescription Event Monitoring methodsを用いて調べた前向きコホート研究。3%の患者にうつ症状の訴えがあり、多くの事例でバレニクリンとの関連性が疑われた。
09.07 A randomised controlled trial of ibuprofen, paracetamol or a combination tablet of ibuprofen/paracetamol in community-derived people with knee pain
Ann Rheum Dis 2011;70:1534-1541)
(今のところオープンアクセス)
変形性膝関節症がある患者を「イブプロフェン400mg」「アセトアミノフェン1000mg」「アセトアミノフェン500mg+イブプロフェン200mg」「アセトアミノフェン500mg+イブプロフェン400mg」(1日3回服用)の4群に分けて行われたRCT。
09.07 Alcohol Consumption at Midlife and Successful Ageing in Women: A Prospective
Cohort Analysis in the Nurses’ Health Study
(PLoS Med 8(9): e1001090.)
(オープンアクセス)

中高年のアルコールの摂取と早死にのリスクを調べた研究。研究は1211,700人の女性看護師を対象に行われ、食生活を尋ねるアンケート調査で実施。
09.07 Symptomatic effect of chondroitin sulfate 4&6 in hand osteoarthritis
the finger osteoarthritis chondroitin treatment study (FACTS)

Arthritis & Rheumatism Accepted 6 SEP 2011)

コンドロイチン硫酸が手関節の変形性関節症に朝のこわばりなどに有用であるとした研究。
09.07 Use of nonaspirin nonsteroidal anti-inflammatory drugs during pregnancy and the risk of spontaneous abortion
(CMAJ First published September 6,2011)
(オープンアクセス)

アスピリンを除くNSAIDsと流産のリスクを調べたカナダのケースコントロール研究。研究者らによれば、妊娠中にNSIADsを服用すると自然流産が2.43倍高まったという。最も高かったのはジクロフェナク(3.09倍)で、低かったのはロフェコシキブ(1.83倍)だった。OTC医薬品の使用は考慮されていませんが、イブプロフェンでも2.13倍となっています。 研究によれば妊娠中でも17%の人がNSAIDsを使うとのことで、使用には十分注意が必要です。(プロスタグランジンということに着目したようです)
09.05 Respectable Addiction’ -A qualitative study of over the counter
medicine abuse in the UK

(Pharmacy Reseach Trust 2011 Publicaions

OTC医薬品の依存や濫用についてまとめた報告書。関連文献のレビューを行った他、10人の薬剤師と7人の薬局アシスタント、16の関係団体、25人の濫用経験者からの聞き取り調査が行われています。濫用や依存例としてはコデイン類配合のものの他、プソイドエフェドリン、鎮静作用のある抗ヒスタミン剤などがあるとした他、ネット販売の危険性についても言及しています。研究者らは、OTC医薬品の依存のリスクについてもっと知っておく必要があるとしています。日本でもこういった実態調査を行って欲しいですね。

2011年09月30日 01:10 投稿

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