論文・報告あれこれ 2012年10月

 今月のちょっと気になった論文や報告などです。誤りがあったらご指摘下さい。月ごとにまとめて随時追加する予定です。 (J-STAGE に掲載のものは、発行後一定期間過ぎてから解禁となるものがあり、1年以上前に掲載された論文等を紹介する場合があります)

紹介日 論文・報告タイトル
(紹介記事・ブログ、関連論文)
概要・コメント
10.29 Fruit juices as perpetrators of drug interactions: the role of organic anion-transporting polypeptides.
Clin Pharmacol Ther. 2012 Nov;92(5):622-30. )
(オープンアクセス)

薬物の吸収に関与する有機アニオン輸送担体ペプチドの働きを阻害すると考えられている、フルーツジュース(果汁)と薬剤との薬物相互作用にについてのレビュー。表2を見ると、アリスキレン、アテノロール、セリプロロール、シプロフロキサシン、フェキソフェナジンなどが影響を受け、AUCが低下する可能性があること示唆されている。
10.29 Association Between Glucose Tolerance Level and Cancer Death in a General Japanese Population: The Hisayama Study.
Am J Epidemiol. Online First 2012 Oct 25. )

耐糖能の低下や糖尿病とがんによる死亡リスクを調べた久山町研究。75gの経口のブドウ糖負荷試験を受けた2,438人を追跡調査したところ、がんによる死亡リスクは、耐糖能低下で1.49倍、耐糖能異常で1.52倍、糖尿病で2.10倍だった。
10.29 ulcerative colitis, smoking and nicotine therapy
Aliment Pharmacol Ther. 2012 Oct 16.)
(今のところオープンアクセス)
潰瘍性大腸炎が喫煙者に少ないことに着目して行われているニコチンを用いた治療法についての総説。免疫抑制剤や生物学的製剤への使用が制限されるケースの治療のオプションに限られるとした。
10.29 Dyslipidemia: management using optimal lipid-lowering therapy.
Ann Pharmacother. 2012 Oct;46(10):1368-81)
(今のところオープンアクセス)
脂質異常症の治療に関する総説。
10.22 Investigation of ejaculatory disorder by silodosin in the treatment of prostatic hyperplasia
BMC Urology Published 19 Oct 2012)
(オープンアクセス)
前立腺肥大症などで使われるα1遮断薬の一部に射精障害(ejaculatory disorder)の副作用があることはよく知られているが、栃木県内の施設がシロドシン(ユリーフ)投与患者に、実際にどの程度射精障害(性行為・自慰行為)があったかを調べた報告。投与91名中、性行為を行った40名に尋ねたところ、38名で射精障害があったと答えた。(よく確認したと思う。では実際に情報提供をするとしたら、誰が行うべきなのだろうか?)
 10.22 Nuclear Power Plant Emergency Preparedness: Results From an Evaluation of Michigan’s Potassium Iodide Distribution Program.
Disaster Med Public Health Prep. 2012 Oct;6(3):263-9.)
(今のところオープンアクセス)
米ミシガン州の保健当局が、3つの原子力発電所の10マイル(16km)以内の住民に対し行った、薬局で処方せんなしで入手できるヨウ化カリウムの商品券を配布するというプログラムの評価結果。実際に商品券をヨウ化カリウムに換えたのはわずか5.3%で、153人をランダムで選び出し、電話調査を行ったところ、48%はプログラムの存在自体を知らなかったか、商品券を受け取った覚えもなかった。原子力災害のリスクコミュニケーションが低いとした結果となったが、去年の福島原発事故を知って、その前の年ではわずか35件のヨウ化カリウムの交換に過ぎなかったのが、事故後2か月で500件のヨウ化カリウムへの交換があったという。
10.22 Oxybutynin reduces sweating in depressed patients treated with sertraline: a double-blind, placebo-controlled, clinical study
Neuropsychiatr Dis Treat. 2012; 8: 407–412. Published Online 14 Sep 2012)
(オープンアクセス)
SSRIの副作用として多汗や発汗過多があるが、セルトラリンを投与中の患者にこの副作用対策に抗コリン薬のオキシブチニンの投与が有効かどうかを調べたRCT。発汗減少の効果が認められ、男性より女性の方がより有効だったが、生理的な面や精神的な面での評価も今後必要だとした。
10.22 The role of community pharmacists in the prevention and management of osteoporosis and the risk of falls: results of a cross-sectional study and qualitative interviews.
Osteoporos Int. Pulisheed online 2012 Oct 16)

カナダケベック州の保険当局が期待を寄せている地域薬剤師による骨粗鬆症や転倒予防対策について、地域薬剤師とケベック州の保健担当者にその認識について調査した結果報告。薬剤師については、無作為に選んだ1222人中571が回答。骨粗鬆症については46.6%、転倒予防については50.3%が薬剤師が行うサービスであると答えた他、2割近くが既に行っていると答えた。一方、時間がない(78.8%)、臨床的ツールの不足(65.4%)、他の医療専門職との調整不足(54.5%)、スタッフや資材の不足(49.2%)などの障壁も明らかになった。(薬歴など調剤実務があまりに多い日本のでは、こういった業務はたぶん無理だろうな)
10.22 Non-steroidal anti-inflammatory drugs (NSAIDs) and hypertension treatment intensification: a population-based cohort study.
Eur J Clin Pharmacol. 2012 Nov;68(11):1533-40. Pulished Online 2012 Apr 15.)

ACE阻害薬やARBを使用中の患者へのNSAIDsの併用は降圧作用が減弱するとして併用注意となっているが、その影響がどの程度かを調べた population-based cohort study。フランスの健康保険システムのデータベースの5710人のデータを解析したところ、降圧療法の強化のハザード比は、降圧療法を受けている人全体では、NSAIDsで1.34、ジクロフェナクで1.79、ピロキシカムで2.02だったが、ACE阻害薬とNSAIDsでは4.09、ARBとNSAIDsでは3.62となった。研究者らはNSAIDsが処方されている患者へのレニンアンジオテンシン系遮断薬の使用は避けるべきだとした。
10.22 Evaluation of Clinical and Safety Outcomes Associated with Conversion from Brand-Name to Generic Tacrolimus in Transplant Recipients Enrolled in an Integrated Health Care System
Phar Pulished Online 16 Oct 2012)
腎臓や肝臓、心臓の臓器移植を受けた成人でタクロリムスを先発品をジェネリックに変えた場合の影響を調べた米カリフォルニアス州のデータベースを用いた研究。一部に量の調整が必要なケースもあったが、患者負担が月平均45ドルの節約になるとして、ジェネリックへの変更は促すべきとした。(FULL TEXTを見ないと論文の全体はつかめない)
10.22 Safety of Herbal Supplements: A Guide for Cardiologists
Cardiovasc Ther 28(4) p246-253,2010)
(オープンアクセス)
ハーブ類の心血管系への影響や心臓血管系の薬との相互作用についてまとめたもの。心血管系への影響が知られている成分が購入されたダイエットサプリメントについての記述もある。
10.22 Potential Risks Resulting from Fruit/Vegetable–Drug Interactions: Effects on Drug-Metabolizing Enzymes and Drug Transporters
J Food Sci 76(4) p112-124,2011)
(オープンアクセス)
食物と医薬品との相互作用の可能性についてのレビュー。グレープフルーツ、オレンジ、tangerine、ブドウ、クランベリー、ザクロ、マンゴー、グァバ、クロミキイチゴ、black mulberry、リンゴ、ブロッコリー、カリフラワー、クレソン、ホウレンソウ、トマト、ニンジンとアボカドについて検討。オレンジジュースとプラバスタチンやアテノロールなど引用文献も興味深い。
10.16 日系ブラジル人移住者による日本およびブラジルの医薬品の選好・使用とその要因
(国際保健医療 27(3) p207-212,2012)
平成に入ってから多くなってきた日系ブラジル人移住労働者の医薬品使用状況についてまとめたもの。健康保険加入などで、日本の薬を選好される傾向があるが、日本の薬は効き目が弱い(成分量が少ない)として、無職者を中心にブラジルの医薬品が使用される傾向もある。(昔、月刊薬事で、関連記事を投稿したことがある)
10.16 Falls in nursing home residents receiving pharmacotherapy for anemia
Clin Interv Aging. 2012; 7: 397–407. Published online 2012 October)
(オープンアクセス)
貧血を有するナーシングホームの入所者に、どのような薬物療法で転倒リスクが変わるかどうかを調べた研究。632人について調べたところ、50%に1つ以上の薬物療法が行われていて、ビタミンB12、葉酸、鉄では転倒リスクを減らすエビデンスがほとんど認められなかったが、DARB(darbepoetin alfa)やEPO(epoetin alfa)では有用性が認められる可能性があるとした。
10.16 薬剤師の病棟薬剤関連業務に関する医療従事者への意識調査
(医療薬学 37(10) p591-598,2011)
薬剤関連業務に関する認識や病棟における薬剤関連業務の分担のあり方、薬剤師が注射およびフィジカルアセルメントに関与することへの賛否などについて、京都第二赤十字病院の看護師・薬剤師・医師の3職種に対して行われた調査結果。薬剤師への期待がある一方で、薬剤関連業務が薬剤師へ移行することで、看護師の薬剤に関する知識や判断力が低下すること危惧する意見も示された。
10.16 日本漢方の特徴
(日本東洋医学雑誌 63(3) p176-180)
日本漢方の特徴について論じたもの。ちょっと難解だが、漢方に興味がある方はチェックを。
10.16 New possibility of traditional Chinese and Japanese medicine as treatment for behavioral and psychiatric
symptoms in dementia
Clin Interv Aging. 2012; 7: 393–396. Published online 2012 October 4.)
(オープンアクセス)
認知症の周辺症状(BPSD)における抑肝散の可能性についてまとめた総説。引用文献が興味深い。
10.16 特集 漢方薬理学:補完・代替医療としての薬理学的エビデンス
(日本薬理学雑誌 140(2) p54-75, 2012)
話題の方剤や成分について、最近の薬理学的研究を紹介した特集記事。
10.16 Safety and Efficacy Profile of Echinacea purpurea to Prevent Common Cold Episodes: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial
(Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine. Published online September 16 2012)

エキナセアがかぜの予防に有効だとしたRCT。しかし、英NHSでは、資金をどこが出したのか記載されていない、結果の表がない、副作用報告が限られているなど、論文の質(査読も不十分)に問題があるとして、この研究をもって、エキナセアが風邪を予防すると結論できないとした解説記事を掲載している。(最近、MHRAでは、12歳未満の子どもにエキナセアを含むハーブ製品を使用しないよう親や保護者に勧告をしている)
10.09 QuarterWatch Data from 2012 Quarter 1
Monitoring FDA MedWatch Reports
(ISMP Pulished Online Oct 3, 2012)
米FDA有害事象報告システム(AERS:adverse event reports)で公表された2012年第一四半期の有害事象を分析した、ISMP(TOPICS 2012.06.13)のレポート。今回はデュロキセチン(サリンバルタ)と禁断症状(Withdrawal Symptoms)、ピオグリタゾン(アクトス)と膀胱がん、アリスキレン(ラジレス)と血管浮腫、リバーロキサバン(イグザレルト)と血栓塞栓症イベントについてレビューしている。
10.09 Needlestick Injuries among Employees at a Nationwide Retail Pharmacy Chain, 2000–2011
Infect Control Hosp Epidemiol.33(11) p1156-1158,2012)

米国では薬局でも広くインフルエンザや破傷風などの予防接種が行われるようになっているが、薬局スタッフによる針刺し事故がどの程度の頻度で発生しているかを調べたもの。全国チェーンの33薬局における2000~2011年の針刺し事故は31件で、ワクチン10万回につき0~5.65回で、全体の年間発生率10万回につき0~3.62回より高かったが、一般的に針刺し事故は過少報告される可能性があるとして、リスクが低い可能性もあるとした。
10.09 日中の伝統医学教育システムの相違
(日本東洋医学雑誌 63(2) p131-137)
日本の漢方教育や卒後教育は「傷寒論」と「金匱要略」を重視しているが、中国の中医学教育は中医陰陽五行学説や臓腑経絡理論などを重視している。現在、日本では卒後教育の強化により専門医数や漢方医学に興味を持つ若い医師が増えてきたが、キャリアパスとして漢方医の人材育成をするシステムそのものがまだ発展途上にある。医学生が真剣に漢方を学ぶためには医師国家試験導入が必要である。
10.09 漢方薬による薬剤性肺炎の診断
(日本東洋医学雑誌 63(2) p81-88,2012)
どの薬剤にも薬剤性肺炎を発症させる可能性がある。処方頻度の高い抗菌薬で薬剤性肺炎は0.003%で発症する。小柴胡湯による薬剤性肺炎の発生頻度は0.0044%(2万5千人に
1人)で、抗菌薬によるものとほぼ同様の頻度であるが、インターフェロンによる薬剤性肺炎の発生頻度は0.056%で,小柴胡湯より高い。
10.09 Cardiovascular outcomes associated with concomitant use of clopidogrel and proton pump inhibitors in patients with acute coronary syndrome in Taiwan
Br J Clin Pharmacol Published Online 9 Oct 2012)
台湾の国民保険研究データベースを用いて、2006年1月~2007年12月に急性冠動脈症候群で新規入院した37099人のデータを用いた後ろ向きコホート研究。再入院のリスクを調べたところ、オメプラゾールの使用者だけハザード比が1.226で有意に高かったが、その他のPPI(エソメプラゾール、pantoprazole、ラベプラゾール、ランソプラゾール)ではリスク増は見られなかった。(同じアジア民族ということで注目される)
10.09 Chronic Medical Conditions as Risk Factors for Herpes Zoster
Mayo Clin Proc 87(10) p961-967,2012)
慢性疾患などの健康状態と帯状疱疹の関連について検討したもの。アレルギー性鼻炎。COPD、肝中動脈疾患、抑うつ、糖尿病、痛風、高脂血症、高血圧、甲状腺機能低下症、骨粗鬆症との関連について検討した。
10.09

Hypertension in the elderly: Some practical considerations
Cleve Clin J Med. 2012 Oct;79(10):694-704)

高齢者の高血圧治療についての留意点をまとめた総説。
10.09 80大学医学部における漢方教育の現状
(日本東洋医学雑誌 63(2) p121-130,2012)
2007年から全国80の医学部全てで行われている漢方医学教育の現状や問題点などについてアンケート調査を行なったもの。カリキュラムの充実と,標準化,臨床実習の整備が必要である。今後は卒後教育の確立が必要とした。
10.09 Dapoxetine: a new option in the medical management of premature ejaculation
Ther Adv Urol. 2012 October; 4(5): 233–251.)
ダポキセチン(dapoxetine)が早漏管理の新しい選択枝となりうるとした総説。ダポキセチンは構造的にはフルオキセチンに類似していて、以前はフルオキセチンやパロキセチンなどのSSRIや、セロトニン作動性の三環系抗うつやじゅのクロミプラミンなどが以前はOff-label で使用されていたという。
10.09 Antipsychotics learning module
(MHRA)

オンラインで医薬品について学習できる英国医薬品庁の Medicines education modules の第4弾。Google 翻訳の機能だけで結構ためになる。
10.09 フォーム状速乾性手指消毒薬の消毒効果の評価
(日本環境感染学会誌 27(4) p266-268,2012)
国内で最も汎用されている0.2 w/v%ベンザルコニウム塩化物含有エタノールリキッド製剤およびフォーム製剤と剤形のみ異なるゲル製剤を対照に,フォーム製剤の消毒効果および副作用の手荒れについて評価を行ったの
10.09 14施設における抗菌薬使用監視体制の効果
(日本環境感染学会誌 27(4) p259-265,2012)
抗菌薬使用監視体制の有用性を検証するため,新潟県立病院14施設を対象に,カルバペネム系抗菌薬使用量およびimipenem(IPM),meropenem(MEPM)に対する緑膿菌の感受性を調査したもの
10.09 病院感染対策における薬剤師の活動と他職種からの評価
(日本環境感染学会誌 27(4) p292-296,2012)
新潟県内の感染認定薬剤師,ICD医師,ICNに対して,薬剤師の感染対策における業務についてのアンケート調査を行ったもの

2012年10月29日 01:30 投稿

コメントが1つあります

  1. アポネット 小嶋

    10.22 の NSAIDsと降圧剤との研究についての詳しい解説記事がMT Pro に掲載されています。

    NSAID服用の高血圧患者では薬剤選択にご注意!
    仏研究・降圧薬の効果減弱を検討
    (MT Pro 2012.10.30 要会員登録)
    http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/1210/1210086.html