論文・報告あれこれ 2012年1月

 今月のちょっと気になった論文や報告です。誤りがあったらご指摘下さい。月ごとにまとめて随時追加する予定です。

紹介日 論文・報告タイトル
(紹介記事・ブログ)
概要・コメント
01.20 Dose-response relationship between Selective Serotonin Reuptake Inhibitors and Injurious Falls: A study in Nursing Home Residents with Dementia(今のところオープンアクセス)
(Br J Clin Pharmacol Online First 18 JAN)

認知症患者へのSSRIの投与と転倒リスクについて調べた研究。ナーシングホームに入所中の認知症の高齢者248人を追跡調査したところ、152人(61.5%)がのべ683回の転倒を起こし、うち114人は繰り返しの転倒を起こした。また220の転倒は大腿骨骨折などのけがや死亡の原因となった。これら有害な転倒のリスクはSSRIの使用との関連があり、SSRIを使用した場合には2.98倍に達し、睡眠薬や鎮静薬が併用されている場合にはさらにリスクが高まった。
01.20 Results of a national survey on over-the-counter medicines, Part 1: Pharmacist opinion on current scheduling status
CPJ 2012. 145(1), pp40-44)
カナダにおけるOTC医薬品の分類(日本でいうリスク区分)について、適切かどうかを薬剤師に尋ねた研究。19成分25製品について、現在の分類が適切かどうかを電子メールにて調査をした(5037人をサンプリング、2403人が回答)。(日本でもしかるべきところがきちんとこういった調査を行うべきだと思う)
01.20 Prevention and treatment of venous thromboembolism in patients with cancer
CPJ 2012. 145(1), pp24-29)
がん患者はがん以外の人と比べ血栓塞栓症のリスクが高い。研究者らは、文献やガイドラインからその予防と治療法についてまとめるとともに、薬剤師が患者のニーズを果たすべく役割を担うべく、最適な薬物療法の提案を行うべきとしている。
01.20 Stories from the trenches: Experiences of Alberta pharmacists in obtaining additional prescribing authority
CPJ 2012. 145(1), pp30-34)
カナダ・アルバータ州における独立処方の実際について、処方者の資格を得た薬剤師を対象にインタビューしたもの。電子メールで調査の協力が得られた14名から、動機と資格を得るためのハードル、結果などについて尋ねています。
01.20 Independent pharmacist prescribing in Canada
CPJ 2012. 145(1), pp17-23)
カナダにおける薬剤師による独立処方の状況についてまとめたもの。カナダでは10州中7州で独立処方が認められており、7州で継続処方、4州で追加処方が認められている。アルバータ州では法改正後1年で薬剤師の3/4が定期的に処方を書いているという。
01.14 Comparison of Prescription Drug Costs in the United States and the United Kingdom, Part 1: Statins
Pharmacology & Pharmaceutical Medicine Online first 4 JAN 2012)
スタチンについて、一年間処方された場合の費用をを米国と英国で比較した研究。米国では313ドル(ロバスタチンGE)~1428ドル(シンバスタチン・ブランド)だったのに対し、英国では164ドル(シンバスタチンGE)~509ドル(アトルバスタチン・ブランド)で、約4倍高いという結果となった。
01.14 QuarterWatch Monitoring FDA MedWatch Reports
Signals for Dabigatran and Metoclopramide
Data from 2011 Quarter 1
(January 12, 2012)

医薬品の安全使用を目指す米国の非営利団体のInstitute for Safe Medication Practices(ISMP)がまとめた、2011年第一四半期にFDA adverse event reports”で公表された有害事象を分析したレポート。今回は、ダビガトラン(プラザキサ)と高齢者の重篤な出血、メトクロプラミド(プリンペラン)と脳へのダメージ、処方上位5成分(アセトアミノフェン+ヒドロコドン、レボチロキシン、シンバスタチン、リシノプリル、アジスロマイシン)の安全性について掲載。このうち、ダビガトランについては、死亡例も含む重篤な出血が505例あり、84歳以上の症例が25%を占め、平均年齢は80歳だった。ダビガトランはこの前の四半期でも取り上げられている。
01.14

An Integrated Pharmacy-Based Program Improved Medication Prescription And Adherence Rates In Diabetes Patients
Health Aff 2012;31:120-129.)

糖尿病患者に薬剤師が患者にカウンセリングを行うかどうかで、米国糖尿病協会が推奨するスタチンやARB/ACEによる薬物治療の開始につながるかどうかを調べた、米大手ドラッグストアチェーンCVS Caremark 社による研究。研究者らは費用効果もあり医療費削減につながるとしている他、電話による介入よりも、対面での介入の方が効果が大きいとしている。
01.14 Second-generation antipsychotics and cardiometabolic adverse reactions in children and adolescents
Canadian Adverse Reaction Newsletter, Volume 22 – Issue 1 – January 2012)

カナダ当局に報告された第2世代抗精神病薬のティーンエージャー使用の関連性が疑われる、年齢相応でない体重増加、高血圧、脂質・糖代謝異常などの心血管代謝系の有害事象についてまとめたもの。ヘルスカナダには、2011年6月までにクロザピン3例、リスペリドン14例、オランザピン17例、クエチアピン5例を含む合計29の報告があった。 一方で、paliperidone、ziprasidone、アリピプラゾールでは報告事例はなかった。心血管系代謝への影響は薬剤によって異なることがわかった
01.05 Factors Affecting Health Care Utilization for Children in Japan
Pediatrics.129(1), 2012 pp113-119)
日本における子どもの受療行動を調べた研究。1286の家庭を調査、1000人当たり872人が少なくとも一つの症状を有し、うち335人が医療機関を受診し、82人が病院、21人が病院の救急診療部、2人が大学の外来を受診した。これは成人と比べ、医療機関受診で2倍、救急診療部では3倍に達していて、これを米国と比べると医療機関で2.5倍、救急診療部では11倍に達している。(FULL TEXTが読めないのが残念)
01.05 Chinese Herbal Medicines for the Treatment of Type A H1N1 Influenza: A Systematic Review of Randomized Controlled Trials
PLoS One. 2011; 6(12): e28093.Published online 2011 December 2.)
(オープンアクセス)
中薬を用いたH1N1インフルエンザに対する治療に関するシスティマテイックレビュー。フルテキストも見れるので興味深かったのですが、肝心の薬草名や処方内容(中国サイトでも薬草名はほとんどわからない)がきちんと示されていないため肩すかしでした。(引用文献を探るしかない。葛根や銀翹散などはあったみたい)
01.05 Trends in Hepatic Injury Associated with Unintentional Overdose of Paracetamol (Acetaminophen) in Products with and without Opioid: An Analysis Using the National Poison Data System of the American Association of Poison Control Centers, 2000-7
Drug Saf. Online First 29 December 2011)
米国の全国中毒データシステムの2000~2007年のデータを基に、アセトアミノフェンの使用と肝障害の報告数との関連を調べた研究。(13歳以上で非自殺例) 米国ではオピオイドとの配合薬の濫用問題となっていますが、結果はこれを如実に示しています。一方で研究者らは咳止めなどとの配合剤による問題は過小評価されている可能性があるとしています。
01.05 Risk of Cardiac Valve Regurgitation with Dopamine Agonist use in Parkinson’s Disease and Hyperprolactinaemia: A Multi-Country, Nested Case-Control Study
Drug Saf. Online First 29 December 2011)
パーキンソン病で用いられるドパミン作用薬について心臓弁膜症(cardiac valve regurgitation)や高プロラクチン血症の関連性を調べたコホート内症例対照研究。英、伊、オランダなど450万人の患者データベースを解析、レボドパ使用者とドパミン作用薬使用者の心臓弁膜症と高プラクチン血症の発症リスクを比較した。その結果、麦角系のドパミン作用薬では心臓弁膜症の発症リスクが3.82倍に達したものの、非麦角系のドパミン作用薬では1.2倍で有意差はなかった。一方、麦角系ドパミン作用薬と高プロラクチン血症との関連は認められなかった。
01.05 Cardiovascular Events in Patients taking Varenicline: A Case Series from Intensive Postmarketing Surveillance in New Zealand
(Drug Saf. 2012 Jan 1;35(1):33-43.)
ニュージーランドの医薬品集中監視プログラム(IMMP)を用いて、バレニクリン(チャンピックス)と心臓血管系の有害事象について分析したもの。IMMPには2007年4月から2010年11月までに172の循環器系の有害事象の報告があり、心筋梗塞12例、狭心症8例を含む心虚血状態(myocardial ischaemia)の報告が48例あった。うち心筋梗塞の2例については、バレニクリンの使用により冠状動脈の痙攣が誘発されたことが示唆された。
01.05 Parental Smoking and Vascular Damage in Their 5-year-old Children
Pediatrics Published online December 26, 2011 )
(今のところオープンアクセス)

妊娠中の両親の喫煙が生まれてくる子どもの動脈硬化に影響を及ぼすかを調べた研究。5歳児の頸動脈の肥厚の状態をエコーで調べ、妊娠中の両親の喫煙行動との関連を調べています。両親が妊娠中に喫煙をしていた場合で肥厚が最も大きかったが、父親のみの喫煙や妊娠中のみ禁煙の場合では関連性が認められなかった。

2月15日リンク追加


2012年01月20日 18:50 投稿

コメントが1つあります

  1. アポネット 小嶋

    もう目にしているかと思いますが、下から6番目のPediatricsの論文についての詳しい紹介記事が掲載されています。

    病院外来は米国の11倍、わが国初の小児受診行動調査
    (あなたの健康百科 1月16日)
    http://kenko100.jp/news/2012/01/16/01

    小児の医療費助成などについての影響も指摘。

    m3.com ではアンケートも実施されています。