OTC類似薬を保険適用を外すことに改めて反対の見解(日医)

日本医師会の江澤和彦常任理事が、6日の定例会見で、患者の経済的負担増などの懸念から「保険適用を外すことには断固反対」と日医としての見解を改めて示しています。

OTCは全て患者(生活者)の判断だけで使用されるものではないはずなのに、医療用医薬品とOTCをニ極化させ、薬剤師の存在意義をも無視した点で看過できるものではありません。

OTC類似薬に係る最近の状況について―江澤和彦常任理事【2025年8月6日定例記者会見】

本日は、OTC類似薬に係る最近の状況について、日本医師会の見解を説明させていただきます。近年医師の処方する医療用医薬品の一部がOTC類似薬とされ、保険給付の見直しを進めるような動きが見受けられますが、国民の健康に対する大きなリスクを生じうるものと大変危惧しております。

何よりもまず第一の懸念点は、OTC類似薬を保険適用から外すことによる患者さんの経済的な負担が大きくなることです。

市販の一般用医薬品は医療用医薬品に比べて、価格が10倍以上高いことが多く、自己負担で比較すると30倍以上にもなります。

保険適用の除外となった場合、経済的なも問題で国民の治療アクセスを絶たれるという大きな問題が生じます。

先日、アレルギーやアトピーの患者団体の方々が要望書を提出したと伺っておりますが、長期間にわたって治療を要する難病や障害者などの方々も含めて、切実な問題となります。

小児医療においても子育て世代の親の負担は深刻な問題です。

OTC類似薬は医療の現場では、主たる処方となる基礎的な医薬品が多いため、軽症な病気の対応から、難病への処方薬としても幅広く使われており、院内や在宅医療への処方にも大きな支障をきたすことから、保険適用を外すことには断固反対でございます。

尚、病気によって保険適用のあり方を変えてはというご意見もあるようですが、医療用医薬品と一般用医薬品とでは、効能効果の表記が異なっております。

例えば、医療用のアスピリンを例にとっても、効能効果に19種類も疾患等の記載があり、幅広い疾患に使われているため、単純に適用できるようものではありません。

第二の懸念点は、患者さんがOTC類似薬を薬局で購入しなければならなくなった場合には、自己判断と自己責任で服用しなければならず、臨床的なリスクを伴うこととなります。

患者さんはどの種類の薬を服用し、いつまで服用を継続し、いつ休薬するのかといったことを少なからず判断しなければならず、診断の遅れ、本来の治療導入の遅れや重症化につながるリスクがあります。

疾患や症状に対して服用量が適切なのか、他に重複や相互作用、禁忌はないのかを自己判断することは、きわめて困難です。

認知機能の低下した高齢者等においては、なおさら難しい問題となります。

青少年等におけるオーバードーズにつながる恐れもあります。

例えば、逆流性食道炎の胸やけに対して、H2ブロッカーやプロトンポンプ阻害剤を服用すると数日で自覚症状は緩和しますが、病変部の粘膜は修復されておらず、治癒緩解するためには8週間程度の服用期間を要しますし、臨床の場では服用前と服用後に内視鏡で病変部の改善を確認しております。

即ち、受診なしの服薬だけで症状が軽くなったことを治癒と勘違いしたり、服用を中途半端に繰り返して、悪化や重症化をたすことも危惧されます。

ある調査では患者さんの症状の原因が一般用医薬品と疑われるケースを経験した医師は2割以上に及ぶという調査結果もありました。

実際に総合感冒薬による尿閉や咳止めを飲んで重症化に気づかずに肺炎で入院、皮膚の白癬菌症へステロイド剤塗布による悪化、血管収縮剤の点鼻薬による薬剤性鼻炎、帯状疱疹が原因の疼痛への湿布の貼付など、医師は現場で多くの経験をしております

また実臨床においては、処方のみで治療を行っているわけではなく、必要な場合に適切な検査も組み合わせ、食事や運動を始め留意すべく生活習慣の指導を行いながら治療を行っており、仮にOTC類似薬であっても購入して服用するだけでは適切な治療とはなりません。

さらに医療用医薬品であれば診察医はオンライン資格確認やお薬手帳で、他の医療機関も含めた処方状況を把握できるのですが、一般用医薬品の服用は確認できないため、OTC類似薬の保険適用除外は重複投与や相互作用の問題等、診療に大きな支障をきたす懸念があります。

一般用医薬品が引き起こす副作用に関する対応の課題もあります。

医療用医薬品は主成分が1つだけの単剤がほとんどですが、一般用医薬品は様々な成分を含む配合剤が多いため、どの成分が副作用を引き起こしているのか判断に苦慮する場合があります。

さらに一般用医薬品の限界という点も重要です。

例えば、皮膚科で白色ワセリンと混合する処方や、小児での体重別の調剤など一般用医薬品では対応ができません。

以上、様々な観点を申し上げました。

一部報道で「医師はOTC類似薬の保険適用除外に賛成する意見も少なくない」という報道のされ方が散見されましたが、調査対象に偏りも見られ、調査結果については詳細な分析が必要であると考えております。

日本医師会はこれまで社会保障については税金による公助、保険料による共助、患者さんの自己負担による自助、この3つのバランスを考えながら進めるべきであり、低所得者や社会的弱者にしっかりと配慮することが重要であると主張してまいりました。

また、国民生活を支える基盤として、必要かつ適切な医療は保険診療により確保するという国民皆保険制度の理念を今後とも堅持すべきと考えており、国民皆保険制度において給付範囲を縮小すべきではないと考えております。

もちろん医療保険制度の健全な持続のため国民医療費を抑える視点も十分理解しておりますが、OTC類似薬の保険給付の見直しについては、国民の健康リスクに与える影響も大きく慎重な対応が求められます。

最後に、骨太方針2025や3党合意での文言は、あくまで保険給付のあり方の見直しという記載になっており、保険適用除外とは書いていないことについて誤解のないよう改めて強調させていただきます。

今後の議論の出発点は保険適用除外ではなく、給付の見直しの検討であり国民の安全性や公平性を損わないよう慎重な議論が必要と考えております。

ご説明は以上でございます。

不適切な使用の実態をクローズアップしていますが、PL等での尿閉もありますし、PPIについては、本来の目的外に過剰に使用されている実態もあるのではないでしょうか?

実態として、OTCの販売の場に薬剤師がいないことが、こういった発言を許しているのかもしれませんが、この点については、薬剤師会は強く反論すべきだと思います

また、日医は保険医療の持続性をどれだけ考えているのでしょうか?

OTCが割高であることは確かかもしれませんが、一方で採算性が問われ、後発品を中心に製造から撤退を余儀なくされるような、あまりにも低い薬価の問題を軽視してよいのでしょうか?

また、病気によって保険適用のあり方を変えることについて懸念をしていますが、欧州などでは、抗がん剤など、代替薬がないかまたは高額で長期の使用が必要な医薬品については無償あるいは負担を低くする一方、費用対効果が乏しい薬、生活習慣病に関わるもの、よくある病気で用いられる薬については、医療保険の持続性の観点から年齢や所得に配慮しながら、負担を多く求める国も少なくありません。

また日本のような、同じ成分で、医療用医薬品と一般用医薬品とを分ける制度設計をしている国は、私の知る限りではありません。

処方箋医薬品を外れた段階で、薬剤師の裁量で、薬剤師の関与の下で供給されているのです。

本来こういったことを可能とする零売も、先の薬機法改正で原則禁止されましたが、OTC類似薬の保険適用の見直しの際には、必要な仕組みであると考えます。

日医には、公的医療保険制度の持続性を考慮したうえでの、代替策を提案してもらいたいものです。

なお日医では、今年の2月13日定例記者会見でも、同様の見解を述べています。

これについては、Xで次のような投稿をさせていただきました。

関連情報:TOPICS
2025.04.20 フランスにおける医薬品償還率
2025.04.20 直接アクセス医薬品(Médicaments en accès direct)(仏)


2025年08月06日 22:10 投稿

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。


*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>