慢性疼痛に対する長期にわたる湿布剤などは見直しが必要(プレプリント)

TOPICS 2025.06.10 で、低価値医療を多く提供する診療所・医師には特性があるとした論文を紹介したところですが、同じ研究チームが新たに別のレセプトデータを基に、低価値医療(Low-Value Care,LVC)についての研究をまとめています。

現時点では査読を受けていないプレプリントですが、我々にとって、興味深い内容となっていたので、取り急ぎ紹介します

【medRxiv [Preprint]. 2025 Aug 26】
Low-Cost, High-Volume Health Services Contribute the Most to Unnecessary Health Spending due to Low-Value Care in Japan
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12407603/
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2025.08.21.25334207v1.full

研究チームでは、52のLVC(この52のLVCはプレプリントでは示されていない)を規定しその提供状況と、このうち最もコストのかかる上位10のLVC(腰痛に対する脊椎注射などの外来診療における3つのサービスと、入院診療でのみ行われる7つのサービス)についての評価を明らかにしています。

研究では1,923,484人のデータを解析、2022年4月から2023年3月の1年間にLVCが合計3,123,618回提供されたことが明らかになりました。これは、3分の1以上の人が1年間に少なくとも1回はLVCを受けていることにあたります。

その費用は、総医療費の0.7~1.0%を占め、これを、年齢、性別、地域調整後の全国人口に換算すると年間2,070~3,310億円に相当することが明らかになりました。

また、研究チームではコストのかかる上位10のLVCサービスとして次のように列挙

  1. 慢性疼痛に対する局所サリチル酸塩または長期局所非ステロイド性抗炎症薬療法
  2. 急性腰痛症の早期画像診断
  3. 骨粗鬆症性椎体骨折に対する椎体形成術
  4. 腰痛の注射
  5. 合併症のない頭痛の画像診断
  6. 安定冠動脈疾患に対する経皮的冠動脈インターベンション
  7. 短期骨塩定量検査
  8. 腰部脊柱管狭窄症に対する脊椎固定術
  9. 腰痛に対するプレガバリン
  10. 術前ストレステストまたは安定冠動脈疾患に対するストレステスト

上記のコスト1位(実数も1位)となった、慢性疼痛に対する局所サリチル酸塩または長期局所非ステロイド性抗炎症薬療法は、“Topical salicylate or long-term topical nonsteroidal anti-inflammatory drug therapy for chronic pain”で、これはおそらく湿布薬などの外用剤の処方のことを指すと思われます。

研究者らは、不必要な支出に最も大きく寄与した上位10のLVCサービスの中で、慢性疼痛に対する外用サリチル酸製剤や長期外用NSAIDs療法、急性腰痛に対する早期画像検査、腰痛に対する注射療法、腰痛に対するプレガバリンの4つのLVCサービスが不必要な支出総額の52.7%を占めたとして、この分野におけるLVCの削減は重要な公衆衛生上の優先課題であるとしています。

さらに腰痛への対応については、ガイドラインに基づく医療に関する医師教育の必要性と、運動プログラム、理学療法、ヨガ、認知行動療法などの高価値かつ多角的な代替療法の推進が必要だとしています。

そして、高額なサービスだけをターゲットにするのではなく、頻繁に提供される低コストのサービスの過剰利用を抑制することが、LVC削減に向けたより効果的なアプローチとなる可能性があるとしています。

今後、正式な論文としてどのような内容で問題提起されるか注目です。

またこの結果は、今後の湿布薬などのOTC類似薬の保険適応の見直し議論に影響を及ぼす可能性があります。

なおこの一連の研究は、日本学術振興会が交付する下記科学研究費助成事業として行われています。

プライマリケアの質と格差に影響する「医師側決定要因」の大規模データ分析
(KAKEN 24K02701, 2024-2027)
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-24K02701/

関連情報:TOPICS
2025.06.10 低価値医療を多く提供する診療所・医師には特性がある(国内研究)


2025年09月09日 15:21 投稿

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。


*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>