「薬剤師の専門能力の発揮機会」と「職務満足」を日英で比較したら

少し前の論文ですが、たまたま目に留まったので紹介します。

この論文は専門能力の発揮機会(ODE)と職務満足の関係性を明らかにし、日本と英国の医療政策に関する潜在的な影響(インプリケーション)を提示したものです。

Int J Healthcare Management 2022 Jan 22】
Opportunities to demonstrate expertise and job satisfaction of community pharmacists in Japan and England
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/20479700.2022.2029261

英国では18名、日本で13名にインタビュー

イングランドの薬剤師がより頻繁に従事していると報告されたセルフケアと健康的な生活スタイルに関するサービスは、職務満足の源泉として認識されていました。

日本の薬剤師においては、在宅業務が同様の要因として挙げられました。

しかし、両方の設定における薬剤師は多くの活動に不満を報告しており、その中にはODEとみなされるものも含まれていました。

例えば、日本の薬剤師においては処方に関する処方医との連携、イングランドにおける薬剤師においては薬剤使用レビュー(MUR)などが挙げられます。

処方に関する処方医への問合せについては、両国においてODE(Originally Definition:業務上のやりがい)とみなされていました。

しかし、多くの薬剤師はこれを職務満足度の向上に繋がるとは考えておらず、特に日本の回答者にとっては不満の源となっていました。

イングランドにおけるMUR(医薬品使用レビュー)に対する不満は、企業が営利につながる追加の医療サービスフィーを獲得するために行うようプレッシャーをかけたことから生じました。

これは、薬剤師の専門的な自主性や患者のニーズ、MURの潜在的なメリットに関するる判断力の軽視と見なされていました。

一方で、生活習慣に関する相談、セルフケア支援、慢性疾患に関するアドバイス、そしておよび薬局医薬品の販売に関する活動は、専門能力の発揮機会と認識され、特にイングランドの薬剤師にとって職務満足感をもたらすものとされました。

イギリス全土において、コミュニティ薬局が提供するこれらのサービスは、一般市民に積極的に促進され、医療従事者や患者から受け入れられ、薬剤師自身もその役割の重要な一部として捉えています。

イングランドの薬剤師の職務満足度が日本の薬剤師よりも概して高いのは、公的なもととしてのコンサルテーションの機会や、慢性疾患やライフスタイルに関する患者への対面でのOTCアドバイスを提供するという確立された役割が一因であると考えられます。

論文にあるように、英国では日本のフォローアップのようなとりくみであったMURはノルマや費用対効果の観点から、2021年3月31日で廃止。薬剤師の専門能力の発揮機会をどう政策的に評価し、薬剤師サービスとして、どうフィーをつけていくかは難しい問題だなあと思いました。

調べたところ、この研究は、こちらの共同研究の一つとして行われたようです。

職業・資格横断的な高度専門職の分類およびその経営管理モデルの研究(国際共同研究強化)(科学研究費助成事業 2016-2018)
https://kaken.nii.ac.jp/ja/report/KAKENHI-PROJECT-15KK0140/15KK01402016hokoku/
https://kaken.nii.ac.jp/ja/report/KAKENHI-PROJECT-15KK0140/15KK01402017hokoku/
https://kaken.nii.ac.jp/ja/report/KAKENHI-PROJECT-15KK0140/15KK0140seika/
https://kaken.nii.ac.jp/ja/report/KAKENHI-PROJECT-15KK0140/15KK01402018jisseki/

(研究成果報告書)
https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-15KK0140/15KK0140seika.pdf

日英比較の観点からは、総合的に勘案して、英国の薬剤師の方が「専門能力の発揮機会」に恵まれ、「職務満足」を実感する傾向が強かった。患者にとっては、処方箋無しで気軽に相談に行ける身近な医療機関で、それが薬剤師の満足に繋がるだけでなく、医療費の適正化にも資する状況になっている。

英国では、薬剤師が医療の専門家として大いに活躍し、医療費抑制に少なからず貢献している。また、地域住民にとっては、薬剤師は医者に行く前に相談する「頼れる医療人」となっている。したがって、日英比較研究することの社会的意義は非常に大きいと信じている。

著者の荒川直子氏は現在英国の大学やFIPで活躍、また三島重顕氏(現在、 名古屋市立大学教授)は、以前こういった関連の論文を発表しています。


2025年08月28日 15:12 投稿

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