21日、医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議が開催され、注目成分に対する検討が行われています。
うっかり実況を見なかったのですが、関係医学会・医会などからは厳しい評価が出されていますので紹介しておきます。
【厚労省 2025.11.21 開催】
第34回 医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_65985.html
1.過酸化ベンゾイル(ベピオゲル)
日本皮膚科学会:反対
過酸化ベンゾイルはかなり以前より海外では OTC 薬として購入でき ることは承知している。しかしながら、最近発癌物質であるベンゼ ンが生成される危険性が指摘され、海外では一部の OTC 薬が回収さ れる事態となっている。安全性が担保されるまでは OTC 化には反対 である。
ベンゼンを含むというだけの中途半端な情報提供で過酸化ベンゾ イルに対するバッシングが起こり、エビデンスのない自費治療推奨 の根拠として利用される懸念があるのではないかと危惧する
日本臨床皮膚科医会:反対
薬剤耐性菌が出現しなければ、諸条件(により膿疱化した際に抗菌薬を使用し、十分な効果が期待できるという利点もある。
また、急性炎症期が軽快したのちには、維持療法として炎症の再発を予 防して、抗菌薬の漫然とした連用や断続的な使用を防ぐ意味あいもある
。
しかし過酸化ベンゾイルには即効性はないことから、継続して使用していただくためには、使用開始時の十分な説明が必要なため、医師の介入が必須と考える。
また、刺激症状や接触皮膚炎やアレルギー性の接触皮膚炎をおこすことも多く取り扱いには専門性の極めて高い皮膚科医による診察・指導が必要。
日本OTC医薬品協会:賛成
尋常性ざ瘡(にきび)は、本邦では 90%以上の人が経験する疾患であり、一般生活者にも高く認知されている。また、にきびは思春期の生理的現象であり、瘢痕(にきび跡)化する不安から患者の精神的負担は大きい。
本薬の要望効能は「にきび」であり、OTC 医薬品の効能として前例があることから、耐性菌を作らない抗菌作用を持つ薬剤と位置付けられる本薬は、セルフメディケーションの一つとなり得る。
OTC化にあたっては、個々の製品の承認審査過程において、ベンゼン濃度や必要な保管方法等の確認を行った上、それを遵守させる必要がある。
関係医学会・医会・業界見解
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001597854.pdf
過酸化ベンゾイルは海外では多くの国ですでにスイッチされており(→海外におけるスイッチOTCの状況)、パブコメ結果(→リンク)でも、
- 昨今の医療費抑制の観点からも、軽微な疾患であるニキビ(尋常性ざ瘡)の治療に公的保険を利用するのは望ましくない。売価を安価に設定し、気軽に購入できるようにするのが適切
- 処方開始されてから時間も経ち、安全性も高く、時間の無い中高生が手に入れやすい状況にする
など意見が寄せられていて、今回の結果を踏まえ、メーカーが果たして開発に乗り出すかどうか。
2.エストラジオール・酢酸ノルエチステロン(メノエイドコンビパッチ)
日本産科婦人科学会:反対
メノエイドコンビパッチを用いたエストロゲン・プロゲスチン の持続併用投与法では、副作用として不正性器出血を生じやすい。ただし、不正性器出血は子宮悪性腫瘍など他の原因で認める こともあり、婦人科的診察による鑑別が必要不可欠となる。それらの判断を含め、担当医が不在の状況で本剤を管理することは 困難と思われる。
使用開始前ならびに使用中において定期的な婦人科検診や乳がん検診が必要となるが、担当医が不在の状況で需要者が自発的 にこれらを受ける可能性は低く、本剤を漫然と使用するケースが増えることが予想される。また、禁忌・慎重投与に該当するにもかかわらず、使用を開始するケースが生じることが危惧され る
日本産婦人科医会:反対
酢酸ノルエチステロンは HRTに使用する黄体ホルモン製剤 のなかでは乳癌リスクが高い薬剤に分類される。処方にあたってはこの事を患者に伝え、本剤使用の対象患者を判別し、薬剤選択の適否について説明と同意の下で処方を行っている。
不正子宮出血発現時には、速やかな子宮内膜癌との鑑別が必須である。また使用継続可否について即日の対応が必要であり、診断・治療が遅れた場合の安全性が担保されない。
経験のある 医師による問診および診察所見の総合判断で決定することが必須であり、薬剤師等による判断または症状による患者の自己判断では適応の判断が不可能であり、アンダートリアージによる有害事象、オーバートリアージによる治療機 会の逸失が懸念される
日本OTC医薬品協会:賛成
エストラジオールを有効成分とし、その効能・効果に「更年期 障害諸症状」を持つ一般用医薬品の軟膏剤が長らく使用されて いる。
更年期に伴う症状は、女性のライフステージの中の一時期で起こる一過性の愁訴で、それ自体が生命に係わる重篤な症状であることは少ないが、症状が長引いたり、うつ 症状や不安感が強くなると、生活の質が著しく低下する場合がある。 このため、新たな女性ホルモン製剤がスイッチ化されることでセル フメディケーションの選択肢拡大に寄与するものと考えられる
関係医学会・医会・業界見解
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001597876.pdf
成分情報等
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001597875.pdf
岡野浩哉参考人提出資料
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001597879.pdf
こちらは、反対意見が優位のように思います。パブコメ結果(→リンク)でも、
- 「更年期症状に対しての HRT 治療は知られてきていると感じますが、管理の重要性については知られていないと感じています。禁忌や副作用、安全に使用するための検診などには無頓着で、OTC で危ない目に合わないのか不安
- 本剤には多数の禁忌があるほか、子宮筋腫・子宮内膜症など注意すべき疾患も多いため、安全性の観点からスイッチ OTC 化には適さないと思います。血栓塞栓症や悪性腫瘍など致命的な合併症に繋がる可能性もあります
など産婦人科医を中心に反対意見が続出しています。
海外でも、更年期症状改善のための膣錠は広くスイッチ(→海外におけるスイッチOTCの状況)されていますが、全身に作用されてるパッチ剤をスイッチしている国は現時点では確認できていません。
アクセスを考えるのであれば、使用者への処方箋なしで再供給(リフィル)や、費用の低減(アイルランドでは無償で供給→X投稿)を検討することが必要ではないでしょうか。
3.エスフルルビプロフェン・ハッカ油(ロコアテープ)
日本整形外科学会:反対
変形性関節症に対する本剤の使用は対症療法であり、原因療法のためには定期的な医師の診察が必要である。
貼付剤は患者が1回に複数枚を使用する可能性の高い製剤であり、過剰投与につながる恐れがあること。
日本臨床整形外科学会:反対
本剤は全身暴露量が高く過量投与のリスクがあるため、定期的に医師の診察がなされ、適正使用の状況が把握しやすいと考えられる変形性関節症に開発対象が絞られたという経緯がある。
本剤の主な使用者層と考えられる高齢者は、合併症を有している ことや、皮膚が脆弱であること、認知機能の低下が見られることが 多い。誤用による皮膚障害や全身性の副作用は、患者本人だけでな く、介護者や医療機関にも大きな負担をもたらす。
日本OTC医薬品協会:反対
本剤をスイッチ OTC はすることは難しいと考えている。その根本の課題認識は医療用製剤に求められている適用使用、安全使 用の方策と同様のことが OTC となった場合にできうるのかとい う点である。その課題を挙げるとすると、
① 変形性関節症の確認方法(X 線検査が必要) ② 禁忌とされている症例の確認方法 ③ 貼付枚数の厳密な管理方法 ④ 他の全身作用を期待する NSAIDs との厳密な管理方法 ⑤ 胃潰瘍等の重篤な副作用の早期発見方法
なお、厳密な管理方法とは単なる服薬指導等ではなく、システム的に薬剤師等の専門家が管理できる方法が必要ではないか。
関係医学会・医会・業界見解
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001597905.pdf
こちらは、OTC医薬品協会も含め反対であり、個人的にも同意するところです。
パブコメ結果(→リンク)では、スイッチ化を支持する意見もありますが、
- 1日の処方枚数制限(1日2枚まで) がある強力な効果があるため医師・薬剤師が定期的に状態確認ができる状況での使用が推奨される。一般用医薬品として販売され れば用法無視・他薬局での複数購入などによるオーバードーズが懸念されるため、現状スイッチ OTC 化はすべきでないと考えられる。
などとした意見もあり、生活者の湿布剤への過剰な期待がある現状では、難しいように思います。
4.セレコキシブ
日本整形外科学会:反対
本剤は心筋梗塞・脳卒中など重篤かつ致死的な心血管系血栓塞栓性事象のリスクを増大させる可能性があり、特に長期使用によりリスクが高まる。したがって、医師による定期的な診察が必要であり、患者が自己判断で漫然と使用することは極めて危険であると考えられる
日本臨床整形外科学会:反対
多数の禁忌・相互作用と不適切な使用リスクがある
本剤は血小板に作用しないため、心血管疾患予防目的の アスピリンの代替薬として使用してはならないとされているが、 OTC 化によりこの重要な情報が伝わらず、誤った自己判断で使わ れる危険性がある
日本臨床内科医会:反対
セレコキシブは、CYP2C9 で代謝されるため、様々な薬剤(ワルファリン、フルコナゾール、利尿薬、ACE 阻害薬等)との相互作用を認める。そのため、OTC 化された場合には、販売時にお薬手帳を持参してもらい、服用している薬を確認する必要がある(特に高齢者において)。現時点で、そのような体制は構築されておらず、薬剤特性の観点から、OTC 化は不適
非選択的 NSAIDs が複数販売されており、消化管の有害事 象の予防を理由に、セレコキシブを OTC 化する必要性は乏しい
日本OTC医薬品協会:反対
世界で最初に開発された米国においても本成分はスイッチ OTC 化されていない。米国でのスイッチ OTC 化の議論や、医療用医 薬品の安全性評価が変更される、または FDA の新しい見解等の状況 変化があった場合に、改めて検討することとしてはどうか
関係医学会・医会・業界見解
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001597931.pdf
パブコメ結果(→リンク)を見ると、
- 1日2回で COX 選択型なので胃腸障害の副作用リスクが低い
- 既存の OTC 鎮痛薬では胃の負担が強く十分に使えないという現状に対して、セレコキシブ成分がスイッチ OTC 化されることに より選択肢が広がりセルフメディケーション推進につながる
など、スイッチ化を支持する意見もありますが、個人的には胃腸障害が少ないという理由だけでのスイッチ化は必要ないと思います。
一方で、長期連用による心血管系リスクは、ジクロフェナクなど、セレコキシブに限らず全てのNSAIDsの共通のリスクと認識されており、ACE阻害薬などによる降圧作用の減弱などの相互作用は、他のNSAIDsでも認識されているところであり、「CYP2C9で代謝」ということをとりあげて、相互作用を問題視するのはどうなのでしょうか?
NSAIDsの長期連用による心血管系リスクを考えるのであれば、アセトアミノフェンへのシフトなど以前より少なくなっているとはいえ、患者の求めに応じたNSAIDsの処方の現状、そして、安全性が担保されているという理由で、イブプロフェンなどの大包装品がセルフで購入できる現状にも目を向ける必要があるのではないでしょうか。
実際海外では、OTCイブプロフェンとについて、一包装あたりの総容量を制限する国もあります。(デンマーク:4000mg、フィンランド400mg×30錠、アイルランド200mg×50錠、ノルウェー200mg×100錠、ポルトガル400mg×60錠 など)
またフランスでは、仏では2020年1月15日より、アセトアミノフェン、イブプロフェン、アスピリンは behind the counter での販売が義務づけられ、発熱で3日間、痛みでは5日間までの使用にとどめる呼びかけも行われています。
Paracétamol, anti-inflammatoires non stéroïdiens (AINS) et alpha-amylase : accessibles uniquement sur demande aux pharmaciens à compter du 15 janvier 2020
(ANSM 2020.01.15 2021.03.30 update)
https://ansm.sante.fr/actualites/paracetamol-anti-inflammatoires-non-steroidiens-ains-et-alpha-amylase-accessibles-uniquement-sur-demande-aux-pharmaciens-a-compter-du-15-janvier-2020
今回の賛否は承認の判断をするものではありませんが、メーカーは海外で多く承認されているベピオゲル以外は開発には消極的になると思います。
参考:
Minister for Health welcomes agreed pathway on Budget 2025 Hormone Replacement Therapy (HRT) Initiative
(アイルランド保健省 2025.05.16)
https://www.gov.ie/en/department-of-health/press-releases/minister-for-health-welcomes-agreed-pathway-on-budget-2025-hormone-replacement-therapy-hrt-initiative/
関連情報:TOPICS
2016.05.05 海外におけるスイッチOTCの状況( 2025.09.18 update)
2013.04.18 OTC鎮痛薬の販売制限(デンマーク)
2025.06.04 デンマークの医薬品の分類(メモ)
2025年11月24日 11:28 投稿
