論文・報告あれこれ 2012年6月

 今月のちょっと気になった論文や報告などです。誤りがあったらご指摘下さい。月ごとにまとめて随時追加する予定です。 

紹介日 論文・報告タイトル
(紹介記事・ブログ)
概要・コメント
06.29 心房細動のスクリーニングを地域薬局で行うという豪州の報告。10薬局1000人で実施。スクリーニングはプロトコルの下、問診、脈診、i-Phone を用いた心電計(ECG)が用いられた。その結果65歳以上の高齢者の5%で疑いが認められたという。
06.29 Effect of the Clopidogrel?Proton Pump Inhibitor Drug Interaction on Adverse Cardiovascular Events in Patients with Acute Coronary Syndrome
(Phar. published Online 28 JUNE 2012)
不安定狭心症、急性心筋梗塞、心臓突然死などの概念を含む急性冠症候群(ACS :acute coronary syndrome)と診断されて入院または救急部門を訪れた患者のデータを基にクロピドグレルとPPIとの併用による影響を調べたもの。併用するとハザード比は1.438となり心血管イベントの増加と関連付けられるとした
06.29 後発医薬品の使用促進と市場への影響
(医薬産業政策所 リサーチペーパー 2012.6.27)
後発品の浸透状況について、市場全体の視点だけでなく、薬効領域別に分けて、後発品が浸透している薬効領域と浸透していない薬効領域において、その浸透状況を比較分析した他、後発品の浸透促進が、医療消費者にとってどのような影響があるのかなどについて分析。
06.29 Risk of suicide attempt in asthmatic children and young adults prescribed leukotriene-modifying agents: A nested case-control study.
J Allergy Clin Immunol. Online First 2012 Jun 12.)

精神神経系の有害事象との関連が指摘されているロイコトリエン受容体拮抗薬について、insurance claims  データベースのデータを基に5~24歳の喘息患者の自殺未遂例を解析したもの。研究結果は自殺との関連性はなかったが、ロイター記事によれば、抑うつや不眠、攻撃性については関連性がみとめられたらしい。
06.29 Awareness among nurses about reporting of adverse drug reactions in Sweden
Drug Healthc Patient Saf Onine First 28 JUN 2012)
スウェーデンでは2007年から薬物による有害事象の報告スキームに看護師も含まれるようになっている。この報告は2010年9月にランダムで選ばれた753人の看護師に行われた報告スキームについての認識などについて尋ねたアンケート調査の結果。
06.24 Severe Spruelike Enteropathy Associated With Olmesartan
(Mayo Clin Proc 2012; DOI: 10.1016/j.mayocp.2012.06.003.)

オルメサルタンの服用とセリアック病(→メルクマニュアル家庭版)との関連があるとした症例報告。2008~2011年の間に22例があり、慢性下痢と体重減少などの症状のため14人が入院したという。オルメサルタンを中止したところ症状が改善。うち18人では腸の生検でも改善が確認された。研究者らは関連性があると主張したが、各メディアが当局に取材を行ったところ、そういった事例はないという。
06.24 NSAIDs can SCAR (Severe Cutaneous Adverse Reaction)
Prescriber Update 2012;33(2):11-12)

NSAIDsの使用と重篤な皮膚症状の報告をまとめたもの。CARM(有害事象モニタリングセンター)に寄せられたものでもっとも多かったのがピロキシカムで以下ナプロキセン、ジクロフェナク、イブプロフェンと続いたが、発症率は一番高いもので100万人につき6例と非常に低かった。
06.24 Osteonecrosis: A Pain in the Jaw
Prescriber Update 2012;33(2):13-14)

Osteonecrosis of the Jaw (ONJ:顎関節壊死)についてのまとめたもの。ビスホスホネートの他、コルチコステロイド、血管形成阻害薬(ベバズマブ、スニチニブ)、などでも関連が認められた他、放射線療法、腎不全、アルコール使用、喫煙、肥満症、加齢、貧血症、糖尿病、慢性関節リウマチとビタミンDの不足などがリスク要因になるという。
06.21 国民医療費が過去最大の伸び、病院の入場制限を
(PRESIDENT Online 大前研一の日本のカラクリ 2012.06.20)
http://president.jp/articles/-/6476
大前研一氏が日本の医療制度の問題点について、海外の実情を引用しながら指摘したもの。スウェーデンやデンマークなどの医療費が無料の北欧諸国では、体調を悪くしても、いきなり病院は診てくれないという。まず病院に電話をすると、症状を細かく聞かれ、必要な場合のみ診察予約が可能で、風邪程度の症状だと、OTC薬を紹介されるだけだどいう。大前氏は「病気」をまず定義すべきとしているが、若干医療の現場をきちんと見ていない部分もあると思う。特に後半の、門前薬局で医者が処方した薬をもらう制度が日本独特の“おかしな”制度としているが、分業が悪いのか、門前薬局がおかしいのかはこれだけではわからない。また日本ではサンプルを外来患者にどんどん使っているというのだが本当なのだろうか?
06.21 Intensive monitoring of duloxetine: results of a web-based intensive monitoring study.
Eur J Clin Pharmacol. Online First 2012 Jun 12)
(オープンアクセス)
オランダのファーマコビジランスセンターLareb が行った抗うつ薬デュロキセチン(サインバルタ)についてのモニタリング調査の結果。オランダでは、LIMと呼ばれる自発的なWEBモニタリングシステムがあり、最初に調剤を受けた薬局で患者はこのモニタリング(研究)に参加するかどうか尋ねられ、承諾があれば6か月にわたり安全性のプロフィールについて情報が収集されるという。研究では398人が登録、うち303人の患者からは回答があり、このうちの239人から副作用の報告があったという。一番多かったのが吐き気(26.1%)で、以下口内乾燥、めまいなどが続いた他、性欲の減退などの報告もあった。既知ではない副作用として、無月経や感覚異常、排尿障害などはさらに検討されるべきとした。
06.21 The effect of different alcohol drinking patterns in early to mid pregnancy on the child’s intelligence, attention, and executive function
BJOG published online 20 JUN 2012)

妊娠中のアルコール摂取が生まれてくる子どもに影響を及ばさないとしたデンマークのコホート研究。不摂取、週に1~4杯、週にに5~8杯、週に9杯以上の4群に分けて、5歳時における知能検査で比較。9杯以上で、IQ4のポイントが低いという結果が出たが、有意差はなく、結論としては影響なしということになったが、全く安全であるとの証明されていないとの解説記事も目立つ。(原文はアブストラクトしか読めないが、NHS Choices に詳細な解説記事あり)
06.18 Pioglitazone and risk of bladder cancer among diabetic patients in France: a population-based cohort study.
Diabetologia. 2012 Jul;55(7):1953-62. Epub 2012 Mar 31.)
(オープンアクセス)

フランスの患者データベースを用いたピオグリタゾンの使用と膀胱がんの発症リスクの関連を調べた研究。ピオグリタゾンが6か月以上処方された40~79歳の患者155,535人について追跡調査を行った。その結果、ハザード比は1.22で、24か月超える使用では1.36、累積使用量が28000mgを超えるの使用では1.75となり、数値は大きくはないが、BMJの研究と同じような結果となった。
06.18 Patients’ perceptions of a pharmacist-managed weight management clinic in a community setting.
Res Social Adm Pharm. Online First 14 Jun 2012 )
米国内のあるチェーン薬局5店舗1000人を対象に行われた肥満についてのメールによる調査結果。患者自身の報告から2/3が肥満であると判断された。回答者の多くは肥満と健康リスクについての関連についての知識はあったが、薬剤師にマネジメントサービスを受けたいと答えた人は13%に留まった。
06.18 Are proton pump inhibitors associated with the development of community-acquired pneumonia? A meta-analysisExpert Rev Clin Pharmacol. 2012 May;5(3):337-44.)

PPIの使用と市中肺炎の関連性を調べた研究をレビューしたもの(研究の概要は2011.10の米国の学会で既に紹介されている)。9つの研究120,863の肺炎の症例を解析、用量と投与期間でリスクが高まるかどうか調べたところ、30日未満の使用か高用量の使用ではっきりとした関連性が疑われた。
06.12 Basal Insulin and Cardiovascular and Other Outcomes in Dysglycemia
NEJM Published Online June 11 , 2012)

基礎インスリン(Basal Insulin)のglargine(ランタス)による治療が心血管イベントの減少などにつながるかを調べた研究。介入群の47%でメトホルミンが併用されていたが、標準的な治療と比較して、心血管イベントのアウトカムの率は変わらなかった。また関連の解析で、がんのリスクも有意差はなかった。
06.12 Association Between Thiazolidinedione Treatment and Risk of Macular Edema Among Patients With Type 2 Diabetes
Arch Intern Med. 2012 Online First June 2012)

チアゾリジン系糖尿病治療薬(TZ)の使用と糖尿性黄斑浮腫(DME)との関連性を調べた研究。 Drug Saf. Online First 2012.02.29 の研究に続き、DMEのリスク増が認められた。一方、アスピリンやACE阻害薬の使用者ではリスク減が見られた他、ピオグリタソンとロシグリタゾンとの差は見られなかった
06.12 速乾性手指消毒剤の市場実態調査
(日本環境感染学会誌 Vol. 27 (2012) No. 2 p. 135-141 )
市場に流通している速乾性手指消毒剤に調べたもの。医薬品だけではなく、ホームセンターなどでも入手できるものについても調べている。
06.12 保険薬局における感染対策の取り組み
—職員への手洗い実習とその評価—
(日本環境感染学会誌 Vol. 27 (2012) No. 2 p. 113-118 )
職員向けに行った手洗い実習の結果とその評価
06.11 Exploratory planning and implementation of a pilot pharmacogenetic program in a community pharmacy.
Pharmacogenomics.2012 Jun;13(8):955-62.)
(オープンアクセス)
オメプラゾールなどとの相互作用が課題となっているクロピドレル(プラビックス)の処方された人に対して遺伝子検査を薬局で行うという試みのパイロットスタディ。方法は綿花で口腔内をふき取りこれを研究所に送り、1週間後に結果が電子的に送られるという。(代替薬がないもの、遺伝子による薬効の特異性があるものについては有用かもしれないが、地域で行うというのは費用的に果たしてどうなのだろう。
06.11 Nonsteroidal anti-inflammatory drugs and their effects in the elderly
Aging Health 2012 Apr;8(2):167-177)
(オープンアクセス)
高齢者におけるNSAIDsの使用に関するレビュー。米国における常用量なども紹介されている。
06.04 ジェネリック(後発品)についての緊急アンケート
(東京保険医協会 2012.05)

ジェネリックは本当に問題なく診療に取り入れられているのか、課題は何か、一般名処方の賛否などについて、東京保険医協会の開業医会員な4,296人を対象に実施したFAXによるアンケート調査の結果。(回収率28.8%) 個別の意見は興味深い。
06.04 A review of antihistamines used during pregnancy
J Pharmacol Pharmacother. 2012 Apr-Jun; 3(2): 105–108.)
(オープンアクセス)
妊娠中の抗ヒスタミン薬の使用の安全性についてレビューを行ったもの。第一三半期での抗ヒスタミン剤の使用は避けるべきだが、やむを得ず使用する場合には、クロルフェニラミン、exchlorpheniramine、ヒドロキシジンなどの第一世代のものを第一選択とすべきであうる。
06.04 A Summer Pharmacy Camp for High School Students as a Pharmacy Student Recruitment Tool
Am J Pharm Educ. 2012 May 10; 76(4): 60. )
(オープンアクセス)
優秀な学生を集めるべく、University of Arkansas for Medical Sciences (UAMS) College of Pharmacy が 4年間にわたり行った高校生向けのサマーキャンプの紹介と参加者73名(回答率54%)の声を整理したもの。この大学では、毎年35名の学生に対して1週間にわたり、糖尿病や高血圧の業務の紹介、研究所の見学、薬剤師会の紹介の他さまざまな交流が行われいるという。回答者の96%が友人に紹介したと答え、参加者から実際に進学した人もいたという。
06.01

The risk of hypotension following co-prescription of macrolide antibiotics and calcium-channel blockers
CMAJ.2011 Feb 22;183(3):303-7. Epub 2011 Jan 17.)
(オ-プンアクセス)

関連論文

ツイッターで知った少し前の論文。低血圧またはショックで入院したカルシウム拮抗薬を服用している患者を調べたところ、マクロライド系のクラリスロマイシン(CAM)、エリスロマイシン(EM)を処方された患者で多かったというもの。オッズ比はカルシウム拮抗薬全体ではCAMが3.70、EMが5.80で、ニフェジピン、フェロジピン、アムロジピンなどのジヒロドピリジン系の場合では、CAMが4.25、EMが3.40だった。研究者らはカルシウム拮抗薬を服用している場合にマクロライド系の薬剤を使用する場合は、CYP3A4に対する阻害作用のないアジスロマイシンの使用をすすめている。(日本でも一応併用注意になっている)
06.01 Candesartan, fetal malformations and use in pregnancy
(豪州TGA Medicines Safety Update, Volume 3, Number 3, June 2012)

母親が妊娠中にカンデサルタン(ブロプレス)を服用した胎児に先天性の異常が3例あったという報告。TGAにはこの他に、イルベサルタン、エナラプリル、リシノプリル、ペリンドプリルとカプトプリルなど、ARBやACE阻害薬を服用した事例でも同様の報告があり、妊娠可能な年齢でのこれら薬剤の使用は再検討されるべきとした。
06.01 Zolpidem: continued reporting of abnormal sleep-related events and amnesia
(豪州TGA Medicines Safety Update, Volume 3, Number 3, June 2012)

ゾルビデム(マイスリー)に関する有害事象をまとめたもの。夢遊症、睡眠時の異常行動に関する報告は他の眠剤と比べかなり多い。豪州ではこの問題は5年前から注目されており、TGAでは今後も監視を続けていくという。
06.01 薬局薬剤師における薬学的疑義照会の医療経済学的研究
(薬学雑誌 132(6) p753-761,2012)
医療費削減額を試算することにより、副作用発現回避のための薬学的疑義照会という薬剤師業務の意義を医療経済の面から検討したもの。調査は千葉県柏市内の13施設を対象に行われた。
06.01 副作用報告に関する実務実習教育プログラム
(薬学雑誌 132(6) p769-775,2012)
実症例を用いて副作用の被偽薬を推定するという、実際に病院薬剤師が行っている業務を学部学生の実務実習で模擬体験させたという福岡大学病院の報告。ゲフィニチブによる間質性肺炎とチアマゾールによる無顆粒球症の症例が用いられた。(私も厚労省に報告をしたことがあるが、どのタイミングで行うかは難しい)

7月5日、7月21日リンク追加


2012年06月29日 00:40 投稿

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