ワークライフバランスが求められる中で、現場の薬剤師は自身のキャリアについて、どのように考えているかという、興味深い調査研究が明らかになっています。
【JAPhA Practice Innovations 2025 Apr 10】
State of work-life balance and career aspirations among Japan’s pharmacists
https://www.japha-innovations.org/article/S2949-9690(25)00023-5/fulltext
研究者はまず、結婚、出産、育児といったライフイベントが研究継続・キャリア継続の難しさを感じている認定・専門薬剤師をリクルートしインタビューから10のカテゴリーと39の概念を抽出して、ワークライフバランスに関する質問票を作成。
これを用いて、病院、薬局、ドラッグストアに勤務する薬剤師に対して481名に調査を行っています。(こちらも結婚、出産、育児といったライフイベントがキャリアに影響を与えていないと感じている人は除外)
平均実務経験年数: 18.4年
性別:男性 53.2%、女性 45.6%
年齢層:20 代 (7.8%) 30 代 (26.4%) 40 代 (26.6%) 50 代 (22.2%) 60 代 (17.0%)
勤務形態:薬局勤務 53.4% 病院勤務 42.8% 管理職 35.4%
家族構成:単身者 20.1%、夫婦世帯(子供なし)21.6%、結婚して子供がいる世帯 53%、3世代 4%
質問票の項目
- 学生時代に身につけた専門知識はありますか?
- あなたは現在の仕事をうまく遂行できる専門知識を持っていると思いますか?
- より高度な仕事をこなすための専門知識をお持ちだと思いますか、あるいは持ちたいと考えていますか?
- 薬剤師としての専門スキルは現在の職場で役立つと思いますか?
- 薬剤師としての専門スキルは同じ業界で応用できると思いますか?
- 薬剤師としての専門スキルは他の業界でも応用できると思いますか?
- 現在のキャリアに満足していますか?
- あなたはワークライフバランスがうまく取れていると思いますか?
- 平日や休日にプライベートな時間は十分あると思いますか?
- 自己啓発に十分な時間があると思いますか?
- 人生の出来事とキャリアの維持との間でジレンマに陥る頻度はどのくらいですか?
- あなたの家族はあなたの仕事に対する倫理を尊重していると思いますか?
- あなたの職場、同僚、職場で交流する他の人々はあなたの労働倫理を尊重していると思いますか?
- 薬剤師として生涯キャリアを続けたいですか?
- 現在の雇用主のもとでキャリアを継続したいですか?
- 今後、現在の仕事に関連した新たな経験や専門知識を身につけたいと考えていますか?
- 将来、現在の役割に関連した責任ある立場に就きたいですか?
- 他の薬剤師よりも優れている知識分野があると思いますか?
- あなたは薬剤師として社会的責任を果たしていると感じていますか?
- あなたは薬剤師として患者さんに十分な貢献ができていると感じていますか?
- 仕事を終えた後に、失敗したように感じることがよくありますか?
- 薬剤師として、患者さんの生活の一部であると感じていますか?
- 薬剤師として、他の職種から評価されたり、頼られたりした経験はありますか?
調査の結果、ワークライフバランスについては前向きな認識を持っていて、キャリアの目標については、個人によって異なるものの、過半数がキャリアを継続する意向を示していたそうです。
一方で、新しいスキルを学ぶ意欲は高かったものの、リーダーシップの役割への関心は他の項目と比べて相対的に低かったそうです。
研究者はさらにこの結果をもとに階層的クラスター分析。その結果、現場薬剤師は次のような4つのグループ分けができるとしています。
- ワークライフバランスにも満足する、野心的なキャリア志向のグル-プ(33%)
- キャリアの将来を望まず、ワークライフバランスを重視するグループ(38%)
- キャリア志向があるものの、ワークライフバランスの課題に悩むグループ(12%)
- 薬剤師という職業への関心が低く、社会から孤立したグループ(16%)
各クラスター間で、職歴や男女比、家族構成に統計的に有意な差は認められなかったものの、数職務内容には若干の違いが認められ、病院勤務者においては、キャリア志向の人が多くを占めていたそうです。
研究者は、キャリア志向があるものの、ワークラフバランスの課題に悩むグループに注目。世界的に薬剤師の燃え尽き症候群の問題が指摘している中で、専門職としての関心を高め、離職率を低下させるには、業務と職場のダイナミクスを強化する必要があると指摘、日本の薬剤師労働力の持続可能性を確保するために、業務負荷のバランスを取り、キャリア開発を支援し、専門職としてのエンゲージメントを促進するための包括的な改革が必要だと結論付けています。
そして、学術機関と医療機関の連携を通じて、継続的な専門職開発のためのパイプラインの確立の必要を指摘。性や、する必要があると指摘。さらに、日本での根深い社会的規範と職場の階層構造に対処することは、包摂的で適応可能な職業環境を築くために不可欠だとしています。
なお、研究者は交通手段や医療へのアクセス状況など、農村部と都市部における差異が存在するかどうかも検証する必要があるとしています。
個人的には海外のように、ワークライフバランスがとれるようにどうすればよいかについて、職能団体こそが現場の声に耳を傾けるべきだと思いました。
もっと働く人の立場にたって、ますます負荷がかかる日常業務はどうあるべきかを毎年の実態調査などを通じて検討されるべきだと思っています。
関連研究:
薬剤師のプロフェッショナリズム獲得に対するライフイベントによる就労中断の影響
(KAKEN 22K13653)
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22K13653/
2025年08月14日 16:58 投稿