酸化マグネシウムによる高マグネシウム血症

 久しぶりのエントリーです。

 すでにご存じかと思いますが、厚労省は20日、酸化マグネシウム製剤の添付文書改訂の指示を発出しています。

【使用上の注意改訂情報(平成27年10月20日指示分)】
酸化マグネシウム
http://www.pmda.go.jp/files/000207877.pdf
http://www.pmda.go.jp/safety/info-services/drugs/calling-attention/revision-of-precautions/0299.html#2

[慎重投与]の項に「高齢者」を追記し、

[重要な基本的注意]の項を

「本剤の投与により、高マグネシウム血症があらわれることがある。特に、便秘症の患者では、腎機能が正常な場合や通常用量以下の投与であっても、重篤な転帰をたどる例が報告されているので、以下の点に留意すること。
(1)必要最小限の使用にとどめること。
(2)長期投与又は高齢者へ投与する場合には定期的に血清マグネシウム濃度を測定するなど特に注意すること。
(3)嘔吐、徐脈、筋力低下、傾眠等の症状があらわれた場合には、服用を中止し、直ちに受診するよう患者に指導すること。」

と改め、

[高齢者への投与]の項を

「高齢者では、高マグネシウム血症を起こし、重篤な転帰をたどる例が報告されているので、投与量を減量するとともに定期的に血清マグネシウム濃度を測定するなど観察を十分に行い、慎重に投与すること。」
と改める。

改訂理由は、

  • 高齢者での集積が多く、重篤な転帰をたどる例が多い
  • 便秘症の患者での集積が多く、腎機能が正常な場合や通常用量以下の使用であっても重篤な転帰をたどる例が報告されている
  • 定期的な血清マグネシウム濃度の測定が行われておらず、意識消失等の重篤な症状があらわれるまで高マグネシウム血症の発症に気づかれない症例の集積が多い

ためだそうです。

【調査結果概要】
酸化マグネシウム(医療用)の「使用上の注意」の改訂について
http://www.pmda.go.jp/files/000207884.pdf

【PMDA 製薬企業からの医薬品の適正使用等に関するお知らせ】
酸化マグネシウムによる高マグネシウム血症について
http://www.pmda.go.jp/files/000207871.pdf

 酸化マグネシウムによる高マグネシウム血症については、2008年9月の改訂ですでに同様の注意喚起が行われていることは既にご存じかと思います。

酸化マグネシウムにおける高マグネシウム血症について
(医薬品・医療機器等安全性情報 No.252)
http://www1.mhlw.go.jp/kinkyu/iyaku_j/iyaku_j/anzenseijyouhou/252.pdf#page=3

 今回の改訂ではさらに踏み込んだ内容となってはいるのですが、問題は改訂文の「必要最小限の使用にとどめること。」の部分です。個人差があるとはいえ、具体的投与期間や投与量が示されない今回の改訂は、疑義照会する薬剤師としては頭痛のたねとなりそうです。

 酸化マグネシウムによる高マグネシウム血症の問題は、2009年8月に行われた、薬食審の医薬品等安全対策部会 安全対策調査会でも議論が行われています。(→関連記事

平成21年度第2回 薬事・食品衛生審議会 医薬品等安全対策部会 安全対策調査会
(2009年8月6日開催)
資料:http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/08/s0806-9.html
議事録:http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/08/txt/s0806-5.txt

 このときは、酸化マグネシウムのリスク区分を引き上げるかどうかを議題として議論が行われたのですが、『厚労省が「重大な副作用」として発表した酸化マグネシウム投与による高マグネシウム血症症例の調査期間中の件数や内容が正確性に欠け、一貫性や整合性がない』などとした日本マグネシウム学会の主張が取り入れられ、第二類へのリスク区分の変更は行わないという結論になっています。(→関連記事

平成17年4月から平成20年8月までに報告された酸化マグネシウムの服用と因果関係が否定できない症例
(平成21年度第2回 薬事・食品衛生審議会 医薬品等安全対策部会 安全対策調査会資料2-9)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/08/dl/s0806-9l.pdf

日本マグネシウム学会からの要望書
(平成21年度第2回 薬事・食品衛生審議会 医薬品等安全対策部会 安全対策調査会資料2-5)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/08/dl/s0806-9h.pdf

 今回の注意喚起で、再び酸化マグネシウムのリスク区分の変更(第3類→第2類)についての審議が行われるかもしれません。(一般用の変更は今回の改訂ではごく一部しかない)

 おそらく、次の医薬品・医療機器等安全性情報で詳報が出ると思いますが、酸化マグネシウムが処方されている患者さんは相当数います。「必要最小限の使用」というのはどのくらいのことを指すのか、もっと詳しいレビュー結果を示すとともに、処方医に対してはより具体的な情報提供を行って欲しいと思います。(薬局で血清マグネシウム濃度がわかるようにするとか)

 なお、今回の改訂では各社メーカーは下記のようなリーフレットを作成するそうです。(調剤ごとに添付することになるのかなあ?)

酸化マグネシウム製剤を服用中の患者さん・ご家族の方へ
http://www.pmda.go.jp/files/000207871.pdf#page=2

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関連情報:TOPICS
  2009.08.08 酸化マグネシウムのリスク区分の引き上げは見送り
  2009.04.12 酸化マグネシウムのリスク分類引き上げ再検討か


2015年10月21日 00:09 投稿

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