豪州で2024年7月より導入された制度です。
これにより、高齢者介護施設(Aged care homes)では、地域薬局や直接雇用を通じて、資格を有する薬剤師(Aged care on-site pharmacist:高齢者介護施設内薬剤師)を施設内で働くよう雇用することができるようになっています。
豪州における高齢者介護施設や高齢者住宅の違いについて、現時点ではっきりしないため、さらなる情報の確認は必要ですが、最近の動きなどについてまとめてみました。(2024.06.19にXに投稿したものを追記、再構成しました)
こちらに、導入の背景と仕組みについて記されています。
Aged Care On-site Pharmacist
(豪保健省 2024.05.06 update 2025.07.01)
https://www.health.gov.au/our-work/aged-care-on-site-pharmacist
この施策は、高齢者ケアの質と安全性に関する英国王立委員会がまとめた報告書の提言により行われるもので、薬剤師が常駐することで、入居者とその家族は定期的に薬を確認することができ、より安心してケアを受けることができる。 また、高齢者施設のスタッフと協力し、入居者と施設のニーズを最大限に満たす。
この施策では、薬剤師の年俸(人件費を含む)を常勤換算で年間138,282ドル(約1455万円)が投入される。(人件費には、年次休暇、個人休暇、公休日、退職年金などが含まれる)
但し、高齢者住宅に薬剤師を常駐させることは義務ではなく、また、薬局を設置することも意図されていない。
この取り組みの目的は次のとおりです。
- 個々の入居者者のニーズに対する理解を深める
- リスクの高い薬剤の安全かつ適切な使用を含め、高齢者住宅における薬剤の使用と安全性を向上させる。
- 日々の服薬確認や問題解決など、服薬管理に継続性を持たせる。
- スタッフや入居者が薬局のアドバイスに簡単にアクセスできるようにする。
- 現場の薬剤師を、地元の開業医、看護師、地域薬局などの医療チームと統合する
高齢者住宅が施設内に薬剤師を配置することにより、今後訪問薬剤師行ってきた居住型薬剤管理レビューおよび医薬品の品質使用プログラムサービスはこれに置き換えられることになります。
※residential aged care homes = 高齢者住宅 としました
上にあるように、高齢者介護施設常駐薬剤師には、Australian Pharmacy Council(APC) 認定の高齢者介護現場薬剤師研修プログラムを修了するなど、一定のスキルが求められていて、誰でも行えるわけではありません。
今年8月に開催された豪州薬剤師会の全国会議で、豪保健省の次官はこの取り組みについて、次のように述べています。
Speech from Assistant Minister McBride, Pharmaceutical Society of Australia Conference – 1 August 2025
(豪保健省 2025.08.05)
https://www.health.gov.au/ministers/the-hon-emma-mcbride-mp/media/speech-from-assistant-minister-mcbride-pharmaceutical-society-of-australia-conference-1-august-2025
高齢者住宅施設に勤務する薬剤師は、高齢者介護施設の利用者、その家族、介護者から歓迎されるでしょう。
高齢者住宅施設に常駐薬剤師を雇用する目的は、常駐薬剤師を一般医、看護師、地域薬剤師を含む医療チームと統合し、薬物の使用と安全性を向上させ、日常的な薬物レビューや、特定された問題の迅速な解決など服薬管理の継続性を確保することにあります。
この資金提供により、どの高齢者住宅施設でも週に少なくとも1日、薬剤師を現場に配置することが可能になります。
最近の記事をチェックしたところ、下記のような取り組み事例が紹介されていました。
Resthaven welcomes three onsite pharmacists
(Australian Ageing Agenda 2025.07.25)
https://www.australianageingagenda.com.au/clinical/health-medical/resthaven-welcomes-three-onsite-pharmacists/
政府資金によるこの取り組みは、何度もの延期を経て2024年7月1日にようやく開始されました。
高齢者介護施設常駐薬剤師は、入居者および施設職員に対し、薬物療法の最適化、安全管理、教育支援を行うための専門研修を受けています。
また、新規入居者の薬物療法をレビューし、入院した入居者の薬物療法を調整することで、施設間の移行を円滑化するための支援も行っています。
「私の役割は、薬の使用状況を確認し、アドバイスを提供し、入居者からの薬に関する質問に回答することです」
また、抗菌薬や向精神薬などの高リスク薬剤の処方に関するレビューも支援しているとのこと
一方、GPの団体からはケアの分断や、患者のかかりつけ医への相談なしに薬剤が供給されることを懸念。地域密着型の薬局を通じて、施設内の薬剤師にアクセスすることを提案。「地域薬局と適切な合意に至れない」場合に限り、配置すべきだとしています。(日本はまさしくこれなんだけど、どちらがいいのかなあ)
On-site aged care pharmacists must be linked to GPs: RACGP
(News GP 2024.07.16)
https://www1.racgp.org.au/newsgp/professional/fears-on-site-pharmacies-could-lead-to-corporatisa
個人的には、日本も国がフィーを投入し、一定以上の規模の高齢者施設は薬剤師の直接雇用を可能にする一方で、施設入居者の居宅療養管理指導を廃止した方が、リソース・コスト共に効率化できるのではと思っています。
また、高齢者施設で業務を行う薬剤師が何をどのように介入するのかなどについて、きちんと業務の内容を統一できるようにすべきだと思いました。
今年7月には役割などを詳しく記した、配置するためのガイドが発出されています
Aged Care On-site Pharmacist Measure – Pharmacist and Residential Aged Care Home Guide
(豪保健省 2025.07.01)
https://www.health.gov.au/resources/publications/aged-care-on-site-pharmacist-measure-pharmacist-and-residential-aged-care-home-guide
こちらはフィー(助成金)に関するガイド
Aged Care On-site Pharmacist Measure – Primary Health Network – Residential Aged Care Home Support Grant Program Guide
(豪保健省 2025.07.01)
https://www.health.gov.au/resources/publications/aged-care-on-site-pharmacist-measure-primary-health-network-residential-aged-care-home-support-grant-program-guide
大学との共同研究も始まっています。
UniSA-led study tackles medication risks in aged care homes
(南オーストラリア大学 2025.03.28)
https://www.unisa.edu.au/media-centre/Releases/2025/unisa-led-study-tackles-medication-risks-in-aged-care-homes/
今後は、高齢者ケア薬剤諮問委員会主導の実証研究を行い、高齢者施設における薬剤管理に関するガイドラインづくりも進められるようです。
Maximising Embedded Pharmacists in AGed CAre Medication Advisory Committees (MEGA-MAC): protocol for implementing Australia’s new guiding principles for medication management in residential aged care facilities using knowledge brokers and a national quality improvement collaborative
(Implementation Science volume 2025 Aug 4)
https://implementationscience.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13012-025-01449-0
2025年08月16日 13:42 投稿