処方薬や市販薬の乱用又は依存症に対する新たな治療方法及び支援方法・支援体制構築のための研究 (2024厚生労働科学研究)

5つの研究分担課題を設定し、市販薬・処方薬が引き起こす健康問題の実態を多面的に明らかにするとともに、治療および支援の介入のあり方を検討

【2024厚生労働科学研究】
処方薬や市販薬の乱用又は依存症に対する新たな治療方法及び支援方法・支援体制構築のための研究
https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/176298

依存症専門医療、救命救急医療、監察医務院、ドラッグストアという4つの異なるフィールドを生かした、5つの研究分担課題を設定

  • 精神医学・救急医学・法医学の観点から処方薬・市販薬乱用の健康被害を明らかにすること
  • 乱用リスクの高い薬剤を把握すること
  • 処方薬・市販薬使用障害患者の臨床的特徴を明らかにすること
  • 処方薬・市販薬依存症の治療法を開発すること
  • 薬局・救急医療での介入・支援方法を開発すること

分担研究のうち、処方薬・市販薬過量摂取の実態などに関する部分を紹介したい

(分担研究)
処方薬・市販薬過量摂取による救急搬送患者の実態と支援に関する研究~
救急医療施設を受診したデキストロメトルファンおよびジフェンヒドラミン中毒の臨床的・心理学的特徴に関する調査
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202417010-buntan3.pdf

ジフェンヒドラミンはSNS で「幻覚が見られる」「死ねる薬」などとの情報が広がり、過量服用・乱用が問題となっている。

「ベナドリルチャレンジ」と呼ばれる乱用は各国でニュースになるほど問題となっており、本邦でも死亡例が報告されている。

デキストロメトルファンによる中毒症状は、軽症であると多幸感や陶酔感を感じる程度であるが、重症化するとけいれん、呼吸停止に至る。また中毒症状が遷延、重篤化しうることが考えられている。

先行研究では、市販薬を習慣的に使用していたのは 26.6%であり、特に習慣的に使用している群において、習慣的に使用していない群と比較して、ジフェヒドラミン、デキストロメトルファンを含む鎮咳去痰薬、抗アレルギー薬は有意に多く使用されていることがわかっている。(→TOPICS 2025.08.15

今回の研究ではデキストロメトルファンもしくはジフェンヒドラミンを含有する製品を摂取して急性中毒症状により救急施設を受診した7施設69の症例を検討。

服用量は、デキストロメトルファン(計41件)が平均802.6mg(中央値600.0㎎)で、ジフェンヒドラミン(計 28 件)が平均 1474.0 ㎎(中央値 1200.0 ㎎)。

デキストロメトルファンおよびジフェンヒドラミン含有製品の入手方法は、実店舗での購入が49件(71.0%)と最も多く、次いでインターネットでの購入13件(18.8%)、知人所有の製品を使用3件(4.3%)、家族所有の製品を使用2件(2.9%)、その他2件(2.9%)。
た。

服用目的は、「自傷自殺」が最も多く、「現実逃避」「娯楽・快楽」「やめられない」「リラックス」「元気を出すため」が続いた。

研究者は実店舗におけるゲートキーパーの役割が大きな鍵となる可能性が示唆されたとした。

(分担研究)
処方薬・市販薬による中毒死の実態に関する研究
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202417010A-buntan4_0.pdf

東京都23区における処方薬・市販薬による中毒死の実態を、該当事例の後ろ向き調査により明らかにした。

医薬品中毒に該当した事例数は3 年間で合計296例、このうち市販薬が死亡に関与していると判断された事例は合計25例で、全医薬品中毒事例数の1割弱を占めた。

使用されていた市販薬は、ばらつきも認めたものの、最も多かったのがジフェンヒドラミンを含有する市販薬(8例)で、次いでコデインを含有する市販薬(5例)だった。

社会全体におけるインターネットの普及に伴い、死亡という転帰につながりうる物品の調達が、市販薬を含め、以前と比較して容易になっている点は否めない。

購入経路を完全に規制することは現実的に困難であるとしても、犯罪行為や乱用防止の観点から、関係各所への注意喚起は必須であると考える。

(分担研究)
大手チェーンドラッグストアにおける市販薬販売の実態に関する研究
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202417010A-buntan5.pdf

市販薬の販売に従事する薬局薬剤師を対象として、市販薬の販売に関する実態を調べるとともに、市販薬の乱用・依存の早期発見・早期介入を目的とする薬剤師向けのゲートキーパー研修プログラムの開発し、その効果を検討。

分析対象はリクルートした485名で、視聴した研修プログラムのコンテンツ数の差をつけて、比較した。

大量購入者(一度の購入で2個以上の購入)への応対経験について、「濫用等のおそれのある医薬品」で7.2%、「未指定市販薬」で3.3%、いずれかの医薬品で8.2%であった。

頻回購入者への応対経験について、「濫用等のおそれのある医薬品」で6.8%、「未指定市販薬」で3.7%、いずれかの医薬品で8.9%であった。

患者の市販薬の乱用リスクに気づいた経験のある対象者は、全体の12.8%であった。乱用リスクに気づいたきっかけは、特定の市販薬の頻回購入が最も多く(8.5%)、患者の見た目(4.7%)、患者との対話(4.7%)、特定の市販薬の大量購入(3.3%)、患者の言動(2.7%)と続いた。

研究者らは「濫用等のおそれがある医薬品」の対面販売を義務付ける対策は、薬剤師や登録販売者が市販薬の乱用リスクのある患者の存在に気づくチャンスを増やすことにつながると考えられるとした。

また、本研究や、依存症や急性中毒の臨床報告も加味した上で、「濫用等のおそれがある医薬品」の指定成分を改定することが急務と言えるとしている。

ゲートキーパー研修プログラムについては、その介入効果の検証を行ったところ、同プログラムの効果と意義を示唆する結果が得られた。

総括研究報告書での考察
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202417010A-sokatsu_0.pdf

  • 薬物の入手経路について、手軽に購入できるドラッグストアでの購入が多いという可能性が示唆
  • 対象者のなかにはソーシャルメディアでの行為を通じて仲間からの受容や承認が、若年層における市販薬過剰摂取の蔓延を促している可能性も示唆
  • 「濫用等のおそれがある医薬品」の大量・頻回購入は、令和元年度に比べて減少している可能性を示唆する結果が得られているが、それとは裏腹に、デキストロメトルファン等の未指定市販薬が大量・頻回購入の対象となっている事実も明らかになった

関連情報:TOPICS
2025.08.15 市販薬の過剰摂取で救急外来を受診した患者の疫学的特徴は?
2025.04.15 濫用等のおそれのある医薬品の成分指定に係る研究(2024厚生労働科学研究)
2025.04.15 薬物乱用・依存状況の実態把握のための全国調査と近年の動向を踏まえた大麻等の乱用に関する研究(2024厚生労働科学研究)


2025年08月18日 11:40 投稿

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