ドイツにおける薬剤負担とセルフメディケーション推進

ドイツの医療制度や薬局事情についてのレポートは、現時点でもこちらが一番詳しいと思っていますが、欧州のOTC業界団体のこちらのページを紹介した投稿が気になり、いろいろと調べてみました

【AESGP 2025.07.10】
Das Grüne Rezept(the Green Prescription)
https://inspire.aesgp.eu/das-grune-rezept/

有事に頼りになるオールかかりつけのドイツ薬局
(健保連海外医療保障 No.131 2023.3)
https://knp-digitalbook.libra.jpn.com/-site_media/media/content/58/1/book.pdf

欧州では、医師は用途や保険償還などを区別するために、次の5色の処方箋を発行しているそうです。

Pink, Blue, Green, Yellow or White! Everything you should know about recipes
(Tkare 2020.03.10)
https://tkare.de/en/pink-blue-green-yellow-or-white-everything-you-should-know-about-recipes/

処方箋の色 概要 有効期間
ピンク 処方箋が必要な医薬品で、法定健康保険給付の対象となるもの 3ヶ月
処方箋が必要な医薬品で、法定健康保険給付の一部ではない医薬品 避妊薬など 3ヶ月
医師が薬局で購入できる医薬品を推奨するもの
(推奨であるので、同効薬への変更が可)
なし
麻薬法で分類される医薬品など 7日
レナリドミド、ポマリドミド、サリマイドなど、催奇形性のあるもの 6日

そして注目は、これらの自己負担の考えかたです。

自己負担額は薬価の10%が標準で、最低でも5ユーロ、最高は10ユーロと決められています

また、負担金はパッケージごとに適用され、処方箋ごとではありません。

パッケージ価格 患者自己負担額
4.75ユーロ 4.75ユーロ
10ユーロ 5ユーロ
75ユーロ 7.50ユーロ
400ユーロ 10ユーロ
軟膏7ユーロ 5ユーロ

薬価が5ユーロ未満の場合は、患者が全額を負担する必要があります。

18歳未満の子供には、自己負担金はかかりません。

また、高齢者については、年収による自己負担の上限が設定されていますが、年齢を理由とした負担軽減措置はないとのこと

ドイツにおける薬剤政策の動向
(健保連海外医療保障 No.109 2016.03)
https://www.kenporen.com/include/outline/pdf_kaigai_iryo/201603_No109.pdf

そして気になるのが、薬局が得ることのできるマージンの額ですが、⼤まかに⾔えば、1パッケージあたり8.35ユーロ(約1,440円)の固定料金(pharmacist’s fee)となっているそうです。

German Pharmacies: Figures Data Facts 2025(ABDA)
(医療制度や調剤以外のサービスや予防接種、緊急避妊薬の販売、デジタル化、規制(他国の比較も)の状況なども紹介、以下Google翻訳して引用)
https://www.abda.de/fileadmin/user_upload/assets/ZDF/Jahrbuch-ZDF-2025/ABDA_ZDF_2025_Brosch_english.pdf

ただ実際には、健康保険による法的に定められた割引があることから、1パッケージあたり1.77ユーロ減額など、下記のような複雑な仕組みとなっています。(この場合の薬局の実フィーって11.82ユーロってこと?)

pharmacist_fee

緑の処方箋についてですが、2004年にpharmacy-only は法定健康保険による償還対象から除外されるべきであるとの立法決定を受けて導入。

患者は全額自己負担が必要ですが、法定健康保険は、いくつかのover-the-counter medicines や open purchased medicines について、費用の一部を被保険者に償還しています。

2024年には、4,000万箱の市販薬が緑の処方箋による推奨に基づいて調剤されています。

また、2023年の処方データによれば、法定保険向けが43.0%、民間保険向けが25.2%、緑の処方箋が 25.2%となっていて、緑の処方箋が多く利用されていることがうかがえます

green_prescription

当初自費であった、緑の処方箋による薬剤負担は、2012年以降、一部の公的医療保険では法定給付の対象としており、一定の条件の下で払い戻しが行われています(ハーブやホメオパシー、妊娠中のミネラルサプリメントなど)

Grünes Rezept(BPI)
https://www.bpi.de/alle-themen/gruenes-rezept

Diese Krankenkassen zahlen für rezeptfreie Medikamente
(Krankenkassen Deutschland)(保険会社ごとに異なる償還の対象)
https://www.krankenkassen.de/gesetzliche-krankenkassen/leistungen-gesetzliche-krankenkassen/gesetzliche-krankenkassen-besondere-leistungen/rezeptfreie-medikamente/

日本同様、抗アレルギー薬など、処方箋が必要な薬と市販薬が併存するものがあり、これについては、緑の処方箋にするかどうかは、費用対効果の原則に基づき推奨されるそうです。
(例えば、重度の症状を伴う持続性アレルギー性鼻炎の治療については健康保険による処方は可。日本もこれを想定しているけど、患者の求めがあったら無理じゃないのかな

Die Qual der Wahl: verschreibungsfreiversus verschreibungspflichtig
https://t.co/pa5U2VoYbw

その根拠は法律でも規定されています

有効成分が市販薬と処方薬の両方で入手可能な場合、成人は自己負担者となる必要があります。したがって、医師は「市販薬が医学的に必要かつ適切であり、病気の治療に十分である場合、被保険者の負担で処方する」べきとする、ドイツ薬局方指令(AM-RL)第12条を遵守すること

Regress-Falle nasale Kortikoide
(APOTHEKE ADHOC 2018.02.06)
https://www.apotheke-adhoc.de/rubriken/detail/apo-tipp/regress-falle-nasale-kortikoide-arzneimittelrichtlinie/

「医師によるセルフメディケーション」ともいえる、緑の処方箋について、現場では重要な役割を果たしていると受け止められている一方で、緑の処方箋が薬局の専門性を損なうという声もあるようです。

Grünes Rezept: Arzt empfiehlt, Apotheker sputet
(APOTHEKE ADHOC 2017.10.26)
https://www.apotheke-adhoc.de/nachrichten/detail/apothekenpraxis/gruenes-rezept-arzt-empfiehlt-apotheker-sputet-selbstmedikation-otc/

まとめると、ドイツでは医者が出す処方箋で保険がきく(ピンク・黄・白)のは4割強で、3割が医師が推奨するだけの緑、残りが民間保険が一部カバーの青

ちょっとした症状だったら、わざわざ医者にいって処方をしてもらわないかもなという感じなのかもしれません(セルフメデケーションが推進されますよね)

全て定率負担の日本でも、発想を変えてドイツのような仕組みを取り入れることも検討する必要があると感じました。

一方日本でも、セルフメディケーションの推進の議論の中で、日本薬剤師会が政策提言に掲げる「医療用一般用共用医薬品(仮称)類型の創設」は、ドイツの緑の処方箋のようなものを想定しているように思います。

緑の処方箋のような仕組みを作ることも一案かもしれませんが、日本はフリーアクセスで出来高払いであること(ドイツの家庭医は包括制。必要以上の受診されても困るよね)、またレセプト病名さえあれば、保険償還の対象になるので、供給側が保険医療の持続性にたった処方を期待するしかありません。

【進むか“共用薬”議論】ドイツのOTC薬“処方”の状況
(ドラビズ on-line 2024.01.17)
https://www.dgs-on-line.com/articles/2429

ドイツのような下限の薬剤負担金を設けることも医師会などの反対で、まずできないでしょうから、今後は低薬価のOTC類似薬について、選定療養で自己負担を増やす仕組みを目指すのではないかと思っています。

なお、今回の記事はこちらのスレッドを整理して記事化しました

参考:
Health care in Germany: Learn More – At the doctor’s
(InformedHealth.org 2024.12.18 update)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK298833/

Germany – European Health Insurance Card
(European Commission)
https://employment-social-affairs.ec.europa.eu/policies-and-activities/moving-working-europe/eu-social-security-coordination/european-health-insurance-card/how-use-card/germany-european-health-insurance-card_en

Medication costs – reimbursement and co-payment
(Bundesministerium für Gesundheit)
https://gesund.bund.de/en/medication-costs-insurance-cover-and-co-payment

Prescription in Germany. Red, blue, green prescriptions – when you must pay
(Expats in Germany)
https://expat-in-germany.com/green-red-prescription-in-germany/

Faktencheck: Grünes Rezept
(APOTHEKE ADHOC 2020.02.14)
https://www.apotheke-adhoc.de/rubriken/detail/apo-tipp/faktencheck-gruenes-rezept-sonderrezepte-apo-tipp/

関連情報:TOPICS
2025.06.04 海外の地域薬局・薬剤師によるセルフケアにおける取組②(ドイツ)


2025年08月13日 15:40 投稿

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