Explor Res Clin Soc Pharm.誌に、“Selfcare for Health System Sustainability: An International Series on the Role of Community Pharmacy”(医療システムの持続可能性のためのセルフケア~地域薬局の役割に関する国際シリーズ)で掲載された、ドイツの取り組みを紹介したい。(Xに2023.05.05に投稿したものを再構成しました)
Self-care and self-medication as central components of healthcare in Germany – on the way to evidence-based pharmacy
(Explor Res Clin Soc Pharm. 2023 Mar 31)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10123367/
2022年現在、ドイツには約53,000人の薬剤師がおり、そのうち74%が女性で、このうち約18,200人が地域薬局で働いている。
ドイツの地域薬局の薬剤師業務は処方箋調剤に加え、薬物療法と安全性に関する患者のカウンセリング、OTC薬の販売、ライフスタイルと健康的な生活に関するアドバイスの提供が行わている。
薬剤師による適切なセルフメデイケーションのスクリーニングにより、重篤な疾患が適切なタイミングで医療処置が受けられることを確保している。
一方で、OTC医薬品の使用に関する臨床試験で得られたエビデンスは業務に統合されていないことから、薬剤師におけるエビデンスに基づくカウンセリングは、一般的に推奨されているものの、依然として課題となっている。
ABDA(ドイツ薬剤師連盟)では、薬剤師がエビデンスに基づいたセルフメディケーションアドバイスを提供できるよう支援するため、電子ニュースレターとEVIニュースによる情報発信を行っている。薬剤師は無料で購読でき、毎月発行されるニュースレターをEメールで受け取り、WEB上からすべてのコンテンツにアクセスできる。
セルフメディケーションを今後重視するなら、民間任せではなく、日本でも薬剤師会によるこういうサポートが必要かも
Evidence-based self-medication: development and evaluation of a professional newsletter concept for community pharmacies
(Int J Clin Pharm. 2020 Jul 30;43(1):55–6)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7878231/
情報は、月に1〜2回、無料で‘EVInews’という professional newsletter として提供
ニュースレターでは、一般的な市販薬に関するエビデンスに基づく情報や、科学文献の検索・評価方法などを紹介
ニュースレターは、エビデンスに基づくセルフメディケーションカウンセリングで薬剤師をサポートする上で重要な役割を果たすことができたが、現場に生かされるよう、簡潔にするなどの工夫が必要だとした
EVInews
https://www.evinews.de/
サンプル
https://www.evinews.de/fileadmin/Newsletter/EVInews_nr_1_vom_23_mai_2017.pdf
最近の話題としては、薬剤師によるcovid-19に加えて、インフルエンザワクチンの接種が開始されている。(コロナ禍前は、薬剤師によるワクチン接種は認められていなかった)
Apotheken können ab sofort gegen Grippe impfen
(ABDA 2022.02.11)
https://www.abda.de/aktuelles-und-presse/pressemitteilungen/detail/apotheken-koennen-ab-sofort-gegen-grippe-impfen/
また、ドイツでは緊急避妊薬の処方箋なしでの販売が可能(これも2014年のEMAによる勧告以前は行われていなかった→TOPICS 2014.11.12)になっていて、ABDAではエビデンスに基づいた推奨事項に基づき、販売が行われている。
Rezeptfreie Abgabe von oralen Notfallkontrazeptiva („Pille danach“)
(Handlungsempfehlungen der Bundesapothekerkammer 2018.02.28)
https://www.abda.de/fileadmin/user_upload/assets/Praktische_Hilfen/Leitlinien/Selbstmedikation/BAK_Handlungsempfehlungen-Checkliste-NFK_20180228_Anpassung_20201214.pdf
セルフメディケーションカウンセリングについての研究も報告されている
2018年6月から9月にかけて、ドイツのライプツィヒ市内中心部の通行人で、地域薬局で市販薬を購入したことがあると回答した人(963人)へのインタビューによる横断研究(若く高学歴で健康状態の良い参加者が研究サンプルに過剰に含まれているため、必ずしも一般化はできない)
Public’s perspectives on guideline-recommended self-medication consultations in German community pharmacies
(Health Soc Care Community. 2021 Jan;29(1):194-205)
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/hsc.13082
回答者の92%が地域薬局でのセルフメディケーションに関するカウンセリングに概ね満足していると回答
また、回答者の約5分の1が、もっと健康に関する質問をされたい(22%)、市販薬に関する情報をもっと得たい(20%)と回答
一方で、ガイドラインで推奨されている質問に答える必要性を理解しており (85~96%)、これらの質問をされることを気にしてないと回答(70~96%)
また、大多数がガイドラインに基づいた医薬品情報の提供を期待していた(52%)
研究らは、生活者はガイドラインで推奨されているカウンセリング手順に受容的であり、市販薬に関するより詳しい情報を求め、直接依頼していなくても、地域の薬局でカウンセリングを受けられることを期待しているとした。
一方で、特定の薬剤を希望する場合や、以前にその薬剤を使用したことがある場合、相当数の顧客にとってカウンセリングはそれほど重要ではないことから、指名買いする顧客に対しては、相談時に特別なコミュニケーション努力を行う必要があるとした。
関連情報:TOPICS
2025.06.03 持続可能な医療システムの中での地域薬局・薬剤師の役割
2025年06月04日 12:37 投稿