緊急避妊薬の調剤拒否にゆれる米国薬剤師

 bmj 誌によれば、米国では今、信仰や道義上の理由で、モーニング・アフターピル(MAP、緊急避妊薬)の調剤を拒否する薬剤師が続出し、医師会などの関係者が調整に乗り出したと伝えています。

 MAPとは、レボノルゲストレルを含む黄体ホルモン剤(性交後72時間以内の服用が必要)で、レイプやコンドームの破損などで緊急の妊娠回避が必要なときや、10代の中絶対策として、既に仏・英国・豪州・ニュージーランドなどではOTCとしても承認されています。

 MAPは、望まない妊娠を回避する最後の手段として、国際的に高い評価を受けている一方で、カトリック信者が多い米国では、MAPの使用自体が、中絶にあたるのではないかとして、ドラッグストアなどに勤務する薬剤師が、信仰上を理由にして調剤を拒否したり、中には処方せんを破ったりしたうえで、薬を必要とする本人にモラルに訴えることもあるようです。

 米国では、これらの問題についての州の対応は実にさまざまです。州法でこういった理由でのMAPの調剤拒否を認めるところもあれば、認めない州もあります。イリノイ州では州の命令に反対して薬剤師が訴えをおこすなど、中絶論争も絡んで、大きな政治問題になっているようです。

 初めは一部にすぎなかった薬剤師のこういった行動が最近では目立つようになり、一部の州ではMAPを非処方せん薬にする、医師による調剤を例外的に認めるなどの対応策をとっています。一方、WEBのニュース記事でも、薬剤師に調剤を断られて、妊娠していないかどうかの不安に何日も駆られたという体験記事をいくつも見ることができ、薬剤師に対してかなりの批判が感じられます。

 確かに、高用量のホルモン剤ということで安全性に疑問を投げかける研究者もいますが、今回のように使用による有害反応の可能性を考えての調剤拒否ではなく、信仰や道義上を理由として、薬剤師が調剤を拒否することが果たしてできるものなのでしょうか? 

 日本ではおそらく認可されたとしても、院外処方されることは考えにくいですが、このMAPを正しく使うためには、ピルと同様きちんとした薬剤師によるサポートは間違いなく必要です。私たちにとって今まで無縁だった、性教育や宗教の問題も、近い将来、避けて通れない問題なのかもしれません。

参考:NEWS BMJ  2005;331:11 (2 July),
    American Medical Association fights pharmacists
     who won’t dispense contraceptives
      http://www.bmj.com/cgi/content/full/331/7507/11-b
    NEWS BMJ  2005;330:983 (30 April),
    Emergency contraception is under attack by US pharmacists
      http://www.bmj.com/cgi/content/full/330/7498/983-a
    緊急避妊薬をめぐり迷走する米国の論争
      http://hotwired.goo.ne.jp/news/technology/story/20050518305.html
       http://hotwired.goo.ne.jp/news/technology/story/20050519307.html
    水島広子の国会質問(2002年7月17日)
      http://www.mizu.cx/sitsumon/kosei/kosei020717.html
    機関紙より(社団法人 家族計画協会)
      http://www.jfpa.or.jp/02-kikanshi1/578.html   
    Can Pharmacists Refuse to Fill Prescriptions?
      http://legalaffairs.org/webexclusive/debateclub_morningafter0405.msp


2005年07月04日 23:30 投稿

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