厚労省、スイッチ候補19成分を公表

 厚労省は7日、スイッチOTC化を推進する医療用医薬品の候補として日本薬学会が選定した19成分を公表しました。

医療用医薬品の有効成分のうち一般用医薬品としても利用可能と考えられる候補成分について(お知らせ)
(厚労省2010年6月7日)
 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000006q29.html

 この19成分は、日本薬学会が転用が適当と考えられる候補成分について、OTCとなった場合の有効性や安全性、承認にあたっての条件などをまとめた「医療用医薬品の有効成分の一般用医薬品への転用に係る候補成分検討報告書」で選定された成分で、今後厚労省では8月30日を締め切りに、日本医学会及びその分科会107団体からスイッチが適当かどうかの意見を求め、これを参考に薬事・食品衛生審議会一般用医薬品部会において、OTCへの転用を推進する成分を決めるようです。

成分名(経口)
(医療用製品名)
販売の条件・販売の意義
(販売時における薬剤師の関与のあり方)
想定される効能効果
(対象疾患の要件)
ボグリボース
アカルボース
(ポグリボース)
一般用医薬品として転用されれば、臨床評価の定まった製品による糖尿病の初期治療が可能であり、セルフメディケーションによる症状発現ならびに進展の予防はリスクを上回るものと考えられる。同時に、薬剤師の関与が進むことにより、未治療例の掘り起こしと受診勧奨等が行われ適正な健康管理に関するサポートが可能になるものと期待される。
(症状や薬剤の必要性に関する的確な判断ならびに、食事、運動などの生活習慣の指導が必須であり、薬剤師の関与なくして販売してはならない。)
境界領域の食後過血糖の改善
※ただし、食事療法・運動療法を行なっているが十分な効果が得られない場合に限る。
(特定検診・特定保健指導等により、血糖値が境界領域であると診断され、他のリスク因子がなく、40歳以上70歳未満で食事等の生活習慣の改善で3ヶ月以上観察し、それでも境界領域の続く場合。)
カプトプリル
エナラプリルマレイン酸塩
アラセプリル
デラプリル塩酸塩
シラザプリル水和物
リシノプリル水和物
ベナゼプリル塩酸塩
イミダプリル塩酸塩
テモカプリル塩酸塩
キナプリル塩酸塩
トランドラプリル
ペリンドプリルエルブミン
(カプトプリル)
特定保健用食品においては血圧が高めの方にという謳い文句にしたものが、最近持てはやされている現実がある。これらの中には、アンジオテンシン変換酵素(ACE)の働きを阻害する作用を有するラクトトリペプチドを含有するもの、胡麻に由来するゴマペプチドを含有するものなどがあり共に血圧が降下するとして販売されている。これらの購買層は、健康診断などで高めの血圧を指摘された者が多いと考えられ、医療機関を受診できていない高血圧予備群といえる。これらの予備群に対して、その降圧作用の効果と安全性が確認されているACE阻害薬を一般用医薬品としてスイッチOTC薬化するメリットは大きいと考えられる。また、これら特定保健食品およびスイッチOTCの双方にわたって販売の相談に預かる立場でもある薬剤師が、その専門性を研修等で磨きをかけることで、地域住民における未治療の高血圧予備群の掘り起こし並びに医師への受診橋渡しの役割を果たす重要性は、今後ますます高くなると予想される。
(薬剤の必要性に関する的確な判断(販売時の血圧モニタリングなど)ならびに、服薬指導、食事・運動などの生活習慣の指導が必須であり、薬剤師の関与なくして販売してはならない。また、状態の把握や継続使用の可否、副作用等(血管浮腫、腎障害、高カリウム血症など)に関する注意を購入者に促すための情報、受診の勧奨に関するガイダンスが必要。)
軽度の高血圧症
(健康診断時、医師からⅠ度高血圧で低リスク群であると診断され、食事等の生活習慣の改善で3ヵ月以上観察し、それでも高血圧が改善しない場合。投与対象は、原則として40~70歳。)
コレスチミド 一般用医薬品として転用されれば臨床評価の定まった(米国のNational Cholesterol Education Program (NCEP) Expert Panel on Detection, Evaluation and Treatment of High Blood Cholesterol in Adults (Adults Treatment Panel III, ATP III) において本剤を含む陰イオン交換樹脂製剤は高コレステロール血症の第1選択薬の一つと位置付けられている。本製品による初期治療が可能であり、セルフメディケーションによる症状発現ならびに進展の予防はリスクを上回るものと考えられる。同時に薬剤師の関与が進むことにより、未治療例の掘り起こしと受診の勧奨などが行われ、適正な健康管理に関するサポートが可能になるものと期待される。
(禁忌対応の消費者に対しては販売を原則禁止する。また、他剤との併用による薬効減少が考えられることから、薬剤師は薬歴を把握し多剤を服用している消費者には販売しない措置が必要である。また食事や運動などの生活習慣の改善に対する助言、定期的な検診を受けることの必要性について指導する。)
境界領域の高LDLコレステロール血症
(特定検診・特定保健指導等によりLDLコレステロールが境界領域であると診断され、他のリスク因子がなく、40歳以上70歳未満で食事等の生活習慣の改善で3ヶ月以上観察し、それでも境界領域が続く場合)
ドンペリドン これまで食べ過ぎ等による吐き気などの消化器機能の不調に対するセルフメディケーションとして、主として複数の生薬成分を配合した胃腸薬を利用してきたが、医療用医薬品として臨床的な効果と安全性が立証されている生薬以外の成分を有効利用することが求められる。
(安全性の面から販売には薬剤師の関与が必須であり、使用者の選択(妊娠またはその可能性のある人、併用薬、基礎疾患等の考慮)を適切に行い、妊娠またはその可能性のある人の使用しないよう、使用者が安易に増量や長期使用しないよう説明することを義務づけることが必要である。)
食べ過ぎ、消化管運動の低下による諸症状(吐き気、食欲不振、胸やけ、膨満感)
ベポタスチンベシル酸塩
オロパタジン塩酸塩
セチジリン塩酸塩
(ベポタスチンベシル酸塩)
一般用医薬品として転用されれば、セルフメディケーションに大いに貢献すると考えられる。その際、購入者が薬局で薬剤師によるアセスメントを受けることにより、副作用の予兆を早期に発見したり、あるいは不適正使用や漫然使用を回避したりすることが可能となる。さらに、適切な受診勧奨を薬剤師が行うことで、より迅速な専門医へのアクセスも向上すると考えられる。
花粉、ハウスダスト(室内塵)などによるアレルギー性鼻炎の諸症状の緩和および、皮膚疾患としての蕁麻疹、湿疹・かぶれによる諸症状の緩和
(ベポタスチンベシル酸塩)

 こういったリストが公表されるのは去年の4月(2009.04.28)に続き2回目ですが、コレスチラミドとドンペリドンは前回に引き続き報告書に改めて評価が行われています。

 ACE阻害剤が取上げられたことについてですが、報告書にもあるように、同様な作用が期待されている特定保健用食品が大手を振って販売されていることを考えると、むしろスイッチさせて、未治療の高血圧予備群の掘り起こし並びに医師への受診の橋渡し役を地域薬局が果たすべきとした提言には大いに同意します。

 また、今回の報告書では、ボグリボースについて 販売実践ガイダンス(案)が示されています。非常によくまとめられており、薬剤師がどういう姿勢で販売したらよいか、また医師から見れば、どのように薬剤師によって販売されるかがイメージできます。現在販売されている、全ての第一類医薬品でも同様のものを作成してもらいたいものです。

 ただ、こういった効能・効果だとおそらく医学会から反発の声があがることは間違い有りません。前回も指摘しましたが、薬事・食品衛生審議会一般用医薬品部会で審議にかける前に、医学会から示された全ての意見(書)も公開してもらいたいと思います。

参考:医療用医薬品の有効成分の一般用医薬品への転用に係る候補成分検討報告書
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000006q29-img/2r98520000006q3r.pdf

関連情報:TOPICS
  2009.04.28 厚労省、スイッチ候補18成分を公表
  2009.04.01 OTCタムスロシンの販売が開始(英国)
  2008.11.28 タムスロシンのOTC化を検討(英国)

6月8日 9:20更新(表記等を修正)


2010年06月08日 01:49 投稿

コメントが1つあります

  1. 悩めるクマ

    いつもながら、迅速性とまとめ方の素晴らしさに感心して拝見しています。

    セルフメディケーションの推進。おそらくこの流れは、保健医療制度の現状を考えると止められないと思います。

    疾病予防、軽い症状への対応の第一段階の窓口が薬局あるいは家庭医。そうなれば、薬剤師の役割も、いまにもましてグンと大きくなってくると思います。

    ハイリスク薬の管理などが今回の診療報酬改定で薬局に対しても設けられましたが、副作用の初期症状の発見や適切な対応の指導など、考えればセルフメディケーション拡大(薬局のゲートキーパー機能の拡大)の助走路?、リフィル処方せんへの布石と勝手に解釈しています。(実際には、そういった意図までは考えられていなかったようですが・・・・)

    各団体からどのような意見があがってくるか、興味ありますね。