これまでの経緯と今後の課題をまとめました。以前の記事から主に抜粋しました。(X記事としても投稿しています)
20日、エスエス製薬は5月20日、ED治療薬「シアリス」(1錠中タダラフィル10mg)について、OTC医薬品としての製造販売承認を取得したと発表しました。
【エスエス製薬 2026.05.20】
エスエス製薬、ED治療薬「シアリス®」のOTC医薬品としての承認を取得
https://www.ssp.co.jp/news/2026/20260520/
一方、今回のスイッチ化にあたっては、パブコメを通じて様々な意見が寄せられています。
候補成分のスイッチ OTC 化に関する御意見募集にて寄せられた課題等
(2024.11月実施 516件、481番が私の意見)
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001492243.pdf
要指導医薬品への指定への意見と厚労省の考え方
(2026.02月実施 37件)
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000314455
意見の中には、緊急避妊薬は時間をかけているのに、ED治療薬はなぜこんなに簡単にすますのかというものもありましたが、スイッチ化新スキームの下、これまでにないスピードで承認されたということを冷静に考える必要があります。
一方、承認の報道を受けて、さまざまな意見の投稿が見られます。
タダラフィルはちょっと怖いよなー
その為の要指導なんだけど…購入層もまともに質問事項を受け答えてくれるかどうか怪しいのが多そうだしなぁ色々懸念する声もあるだろうけど、海外からの輸入品を使ってる割合の方が医師からの自費処方箋より多いと思うし、友達同士での譲渡もあるだろうから、要指導医薬品として買えた方が今よりは良さそう
タダラフィルのスイッチで死人が出なければいいけど…
タダラフィル、持病があっていろいろ薬飲んでるおじさんが風俗行くために嘘ついて買って使わない…ことを祈るしかないけども
心血管疾患悪化阻止は薬剤師さんにかかってる
若い女性ばかりの薬局は要注意ですが、淡々と売ればいいんですよね。
嫌は嫌だが、仕事だしシアリスのOTC、なんというか、18歳以上ではなく、買える年齢はもうちょい上げておくべきではなかろうかと思うのよ。
上記最後の部分について私も、医学的必要性のない興味本位による使用の懸念はあると考えています
Tadalafil in Young Men: Understand the Risks of Unsupervised Use
(Egydio Medical Center 2025.05.11)
https://drpaulo.com.br/en/tadalafil-in-young-men/
若年成人に必要性の確認、娯楽的使用の危険性について教育する必要もあると思います。
一方で、若年層のEDは心理的な背景も多く、そちらへのサポートがどうなっているかは注目ですね
そういう点で、オンライン販売を認めることが妥当なのかは疑問に思っています。
Erectile Dysfunction in Young Adults: A Narrative Review
(Cureus. 2025 Aug 12)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12349891/
今回エスエス製薬では、ブランドサイトを立ち上げ、様々な情報発信も行っています。
Cialis シアリス(ED治療薬)
https://www.ssp.co.jp/cialis/
海外の事例などを参考に、わかりやすいサイトになっていますが、何か一つ足りないようにも思いました。
個人的には次のような課題についての対応が不十分だと思っています。
- 男性への正しい性知識を啓発
- (男性の健康問題としての)EDの正しい認識と対応策の啓発
ED治療薬の適正販売(どう売るのか)だけが先ばしり、正しい知識の啓発が行えるのか - recreational use への対応
海外では健康な人が興味本位で使用することへの危険性を問う声が多い - ネット販売が可能になる「要指導医薬品」ではなく「特定要指導医薬品」への指定(これは実現されなかった)
使用と販売の妥当性が十分に確保できるか - 直販メーカーによる供給規制の可能性
適正価格で適正量を供給の名の下にチェーンなどにのみ供給→アクセス低下→ネット販売に流れて、本来の目的が果たせない(現時点では流通体制がどうなるかは明らかになっていない) - 女性薬剤師が多い現場だからこそ、職能団体等がセクシャルハラスメントや客の横暴にNOという姿勢を示す(うちでは取り扱わない、必要性がないとする投稿も散見)
処方箋だったら対応して、市販薬だったら対応しない?という方針でよいのか
置かないのではなく、しっかり店頭在庫をして売らないという姿勢も必要ではないか
薬学、薬科学、薬学教育の分野を代表する世界的な組織である、FIP(International Pharmaceutical Federation)では、地域薬局がED管理に関わる意義について、スクリーニングや早期発見、ライフスタイル介入を行うための便利な環境があるとしたハンドブックを公表しています。
Erectile dysfunction~A handbook for pharmacists on managing symptoms and supporting self-care
(FIP 2025.4)
https://www.fip.org/file/6226
この中で、
薬剤師は、EDの管理において、アクセスしやすく信頼できる医療専門家として重要な役割を果たしており、この症状を経験する男性にとって最初の相談窓口となることが多い。
地域社会における彼らの立場は、慎重かつ専門的な環境で助言、教育、支援を提供することを可能にしており、EDに伴う社会的偏見が医療相談を妨げる可能性があることを考慮すると、これは特に重要である。
効果的な治療(薬物療法と生活習慣改善などの非薬物療法の両方)へのアクセスを促進するだけでなく、薬剤師は相談時に心血管疾患や糖尿病などの潜在的な基礎疾患を特定し、必要に応じて最も適切な医療専門家に紹介することが可能である。
と指摘しています。
さらに、FIPでは続いて、地域薬局において、男性の幅広い健康問題に関わる必要があるとしたレポートも公表しています。
Advancing men’s health through pharmacy
~Report from a FIP insight board
https://www.fip.org/file/6299
この中で、
男性の性的・生殖健康(men’s sexual and reproductive health)に関連する問題がある。
性的健康状態(Sexual health conditions)、特に勃起不全(ED)は男性に広く見られるが、羞恥心、気まずさ、スティグマ(差別や偏見の対象)、あるいはこうした問題を特に女性薬剤師や保守的な文化圏で話しにくいという理由で、しばしば放置されがちである。
「男性であること」の意味に関する深く根付いた観念が、健康を求める行動形成において中心的な役割を果たしていることが議論される。
伝統的な男性的規範はしばしば、強さ、不屈の精神、自立といった特質を重視するが、これらは男性が弱さを示したり、懸念や健康問題を共有することを妨げる可能性がある。これは最終的に、身体的・精神的な状態に対する支援を求めることを躊躇させる結果となり、男性は不快感や苦痛を黙って耐えなければならないと感じるようになる。
こうした規範が特にメンタルヘルス、性健康、慢性疾患管理といった分野において心理的障壁として機能する。男性はしばしば、支援を求めることが弱さの表れであると暗黙的または明示的に教え込まれる。その結果、多くの男性は症状が深刻化するまで医療提供者との関わりを遅らせ、早期介入の重要な機会を逃してしまう。
などといった議論が行われています。
つまり、生活習慣病の他、前立腺がん、EDといった男性ならではの疾患だけではなく、冷静で強い⼈間でなければならないという考えを内にかかえる、世間で言う「男らしさ」や経済的ストレス、社会的孤立などといった男性ならではの健康問題にどう向き合うかが問われています。
日本ではともすると、国は保健政策としての男性のヘルスケアの課題について、これまでほとんど考えていないのが現状です。
一方、海外ではこういった背景を踏まえて、メンタルも含めた男性の健康問題に地域薬局・薬剤師がしっかり対応する(生活改善薬の販売も含む)時代になりつつあります。
そういった意味で、現場の薬剤師の皆さんには、ED治療薬のスイッチに冷静に向き合い、これを機会に、地域薬局が担うことは何かを考えてもらいたいものです。
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2026年05月21日 15:22 投稿
