ED治療薬のスイッチと男性の健康問題に現場の薬剤師はどう向き合うか

シアリス(タダラフィル)のスイッチ(→TOPICS 2025.09.16)については、18日に薬事審議会要指導・一般用医薬品部会での承認了承後から、Xでの様々な投稿を拝見させて頂いています。

個人的にどう向き合ったらよいか、まとめました。

まず、5月23日開催の医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議(→TOPICS 2025.05.24)では、参考人の医師から概ね賛成の意見が示されていることを、議事録から抜粋して示します。

第32回 医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議
(厚労省 2025.05.23開催)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_58149.html

議事録
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_62330.html

日本泌尿器科学会参考人
日本泌尿器学会のスタンスとしましては、スイッチOTC化に関しましては賛成という結論になっております。日本泌尿器学会の保険委員会と理事のほうでまとめをさせていただきましたが、今、もう話に出ておりましたように、EDというのは身体的な問題だけじゃなく、メンタルのほうでも負担がかかる。ただ、残念ながら、疾患の特性から医療機関にかかる人が非常に少なく、話に出ておりましたように、インターネット等で買うと、偽薬のようなもので逆に健康被害が出ているということで、スイッチOTC化によってそういったことが防げるようになるということで賛成の意見ということになっております。

日本臨床泌尿器科医会参考人
緊急避妊薬とかAGA、はげの薬などで極端な低カリウム血症なんかで飛び込んでくる患者さんもいるのですけれども、必ず医師が確認してオンライン診療することになっているのですね。そういう患者さんは、1人もこれを確認されていないと。あなたは医者から処方されたんですか、薬剤師から処方されたんですか、それとも一般の人から処方されたんですかと聞いても分かりませんと。そういえば、処方箋をもらった方は医者だったんですかね。そういう医療事故が起きて救急病院の、我々、東京曳舟病院に御家族の方が来ます。

日本性機能学会参考人
これは中枢には全く影響しない薬ですので、不要に性欲が亢進するとかいう、最後のほうに一般の御意見がありましたが、そういうことは全くない薬で、なおかつ飲んだからといって勃起することもありません。
PDE5阻害薬を使うことによって効かないというところで医療機関を受診することで、糖尿病とか心血管障害の新たな隠れた病気の発見につながるのではないかというところも考えております。

日本臨床内科医会参考人
タダラフィル自体は、先ほど来、話がありますように、安全に使用できる薬剤という認識は持っております。我々の見解の中にはタダラフィルの副作用の話を中心に入れておりますけれども、EDは生活習慣あるいは生活習慣病との関連が非常に強く、心血管イベントとの共通のリスクファクターも多いということです。
プライマリーケア医であっても77%位の確立でEDの原因診断が可能であると記載されています。
薬剤師が受診勧奨を積極的に行えているのか十分なデータはありません。現場の薬剤師さんにお任せするしかないということになってしまいますので、何かその辺についても適切に受診勧奨ができる連携体制の構築を、我々も含めて、考えていかなければならないと思います。

また、構成員からもこういった指摘がされています

磯部構成員(日本OTC医薬品協会)
個人輸入問題は、私としても絶対に根絶しなければいけないこととして、非常に強い意識を持っていまして、最近見ていて危惧しておりますのが、昔はインターネットで代行業者が入って輸入するというパターンが多かったのですが、オンライン診療が認められるようになってから、先ほど斎藤先生からお話ありましたけれども、医者なのか、医者じゃないのか、よく分からないような、本当は販売店の人なんじゃないかというような方がオンライン診療の先にいて、何錠要りますかどうですかという売り子のような形で、しかも未承認薬を低価格で、うちはこんなに安いんだ。診察料も無料とか、こんなに安く出しますということに飛びついていく人が多くて、健康被害の問題も起こっているということだと思います。

平野構成員(日本チェーンドラッグストア協会)
私の友人がたまたまこのシアリスを持っていたのです。どこで入手したのと聞いてみると、駅前のクリニックだと言うのです。それはどういうところだったのと聞いてみると、行ってみたら受付があって、何が何錠要りますかと聞かれて、何か聞かれたのと言われたら、何も聞かれなかった。では、次に行くときにもう一度確認してということでお願いしたのですね。何を確認してもらったかというと、まず、お薬をくれた人は医師だったのか。それから、何らかの問診があったのか、服薬指導はあったのか、何錠でも買えたのかということを聞いてみてよということをお願いしました。実は、その答えは医師であった、少なくとも医師と答えたと、問診も服薬指導もなかった。何錠でも買えた。こんなことが現実に起こっているということです。こういったことも、正規品をきちんとやるということで解決できるのかなと思います。

つまり

  • ED患者の掘り起こしに寄与すると考えらえると同時に、潜在的な生活習慣病を早期に治療介入することができる可能性
  • 心理的要因や経済的な理由により、医療機関を受診せずにインターネットの個人輸入により入手する患者さんが多く存在するが、この多くに偽造医薬品があり、健康被害が懸念への対応

において、スイッチがむしろ必要と判断されているのです。

FIPが今年5月公表したレポート(→TOPICS 2025.05.19)でも、次のように指摘しています。

  • 薬剤師は、EDの管理において、アクセスしやすく信頼できる医療専門家として重要な役割を果たしており、この症状を経験する男性にとって最初の相談窓口となることが多い。
  • 地域社会における彼らの立場は、慎重かつ専門的な環境で助言、教育、支援を提供することを可能にしており、EDに伴う社会的偏見が医療相談を妨げる可能性があることを考慮すると、これは特に重要である。
  • 効果的な治療(薬物療法と生活習慣改善などの非薬物療法の両方)へのアクセスを促進するだけでなく、薬剤師は相談時に心血管疾患や糖尿病などの潜在的な基礎疾患を特定し、必要に応じて最も適切な医療専門家に紹介することが可能である。

そして、男性の健康問題は何もEDに限ったことではありません

こちらのレポートでは、地域薬局において、男性の幅広い健康問題に関わる必要があるとしたレポートも出されています。

New FIP insight board report explores pharmacy’s role in men’s health
(FIP 2025.06.15)
https://www.fip.org/news?news=newsitem&newsitem=644

Advancing men’s healththrough pharmacy
~Report from a FIPinsight board
https://www.fip.org/file/6299

このレポートでも次のような指摘があります、

  • 男性の性的・生殖健康(men’s sexual and reproductive health)に関連する問題がある。
  • 性的健康状態(Sexual health conditions)、特に勃起不全(ED)は男性に広く見られるが、羞恥心、気まずさ、スティグマ(差別や偏見の対象)、あるいはこうした問題を特に女性薬剤師や保守的な文化圏で話しにくいという理由で、しばしば放置されがちである。(3.2)
  • 「男性であること」の意味に関する深く根付いた観念が、健康を求める行動形成において中心的な役割を果たしていることが議論される。
  • 伝統的な男性的規範はしばしば、強さ、不屈の精神、自立といった特質を重視するが、これらは男性が弱さを示したり、懸念や健康問題を共有することを妨げる可能性がある。これは最終的に、身体的・精神的な状態に対する支援を求めることを躊躇させる結果となり、男性は不快感や苦痛を黙って耐えなければならないと感じるようになる。
  • こうした規範が特にメンタルヘルス、性健康、慢性疾患管理といった分野において心理的障壁として機能する。男性はしばしば、支援を求めることが弱さの表れであると暗黙的または明示的に教え込まれる。その結果、多くの男性は症状が深刻化するまで医療提供者との関わりを遅らせ、早期介入の重要な機会を逃してしまうという意見が出された。(4.1)

つまり、冷静で強い⼈間でなければならないという考えを内にかかえる、世間で言う「男らしさ」が求められ、経済的ストレス、社会的孤立、もちろん前立腺がんやEDといった男性ならではの健康問題は軽視されがちのように思います。

この間X上では、フェミニストの方だけでなく、現場の薬剤師による

  • キモい
  • おじさんには不要
  • 枯れた時が男の寿命
  • 本当に困っているなら、医者から処方されるべきだ
  • 男性薬剤師が対応すべき
  • ドラッグストアや薬局に必要なものでもない

といった投稿を目にしています。

女性が多い現場において、セクハラへの懸念、また次のような理由から、日本ではまだスイッチは早いのかもしれません。

また、ED治療薬の recreational use の懸念もあるでしょう。(2012年の論文によれば、日本では45.4%との報告)

個人的にはED治療薬のスイッチは総合的に賛成です。しかしながら、次のような課題についての対応が不十分だと思います。

  • 男性への正しい性知識を啓発
  • (男性の健康問題としての)EDの正しい認識と対応策の啓発
    ED治療薬の適正販売(どう売るのか)だけが先ばしり、正しい知識の啓発が行えるのか
  • recreational use への対応
    海外では健康な人が興味本位で使用することへの危険性を問う声が多い
  • ネット販売が可能になる「要指導医薬品」ではなく「特定要指導医薬品」への指定
    使用と販売の妥当性が十分に確保できるか
  • 直販メーカーによる供給規制の可能性
    適正価格で適正量を供給の名の下にチェーンなどにのみ供給→アクセス低下→ネット販売に流れて、本来の目的が果たせない
  • 女性薬剤師が多い現場だからこそ、職能団体等がセクシャルハラスメントや客の横暴にNOという姿勢を示す
    処方箋だったら対応して、市販薬だったら対応しない?
    置かないのではなく、しっかり店頭在庫をして売らないという姿勢もありだと思う

日本では、保健政策としての男性のヘルスケアの課題についてなど、国はこれまでは何も考えていないのが現状です、今回それを地域薬局が担うチャンスでもあります。

海外ではメンタルも含めてしっかり考えて、男性の健康問題に地域薬局・薬剤師がしっかり対応する(生活改善薬の販売も含む)時代になりつつあります。

そういった意味で、現場の薬剤師の皆さんにはED治療薬のスイッチにどう向き合うか冷静に考えてもらいたいものです。

関連情報:TOPICS
2025.09.16 シアリス(タダラフィル)のスイッチが18日に審議へ
2025.05.24 ED治療薬のスイッチOTC化に向けての議論(評価検討会議・速報)
2025.08.19 Liste B+ 医薬品は日本でいうところの零売?(スイス)
2025.05.19 EDの管理とセルフケアにおける薬剤師の役割(FIP)
2025.04.23 プライマリケアにおける薬剤師の役割を拡大するための医薬品の分類(豪・NZ
2025.04.22 シルデナフィルのOTC化は今回も認めず(独・専門委)
2017.11.29 バイアグラの処方箋なしでの購入が可能に(英国)
2014.10.17 シルデナフィルが処方せんなしで購入可能に(NZ)

 2025.09.27 追記


2025年09月24日 11:25 投稿

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