厚労省は、オセルタミビル(タミフル)、ラニナミビルオクタン酸エステル水和物(イナビル)、ブデソニド・ホルモテロールフマル酸塩水和物(シムビコート)の3成分について、スイッチOTCとした際の効能・効果、OTCとしてのニーズ、OTC化された際の使われ方、スイッチOTC化の課題点及びその対応策等について、意見募集を開始しています。(1月7日まで)
今回の意見募集は、医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議での検討に先立って行われるもので、承認を前提とした意見募集ではありませんが、意見募集を行い、生活者や専門家の視点でメリット・デメリットについての声を広く求めることで、評価検討会議での判断材料ともなります。
厚労省には、すでにこれだけの成分の要望がありますが、今回意見募集が行われるということは、海外のスイッチの動向などを見て、スイッチ化の可能性や必要性がある考えた方がいいと思います。(おそらく半年以内にこれら3成分の検討が行われる)
スイッチOTC医薬品の候補となる成分及びその検討結果について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144557.html
日本独自の進め方ですが、会議ではこの意見募集の結果が取り上げられることで、スイッチの可否の判断(とりまとめは両論併記)や、製薬会社が開発をするかどうかの目安にもなると思うので、意見がある方はぜひ提出してみて下さい。
それぞれの成分について、コメントと共に意見提出先のリンクを張っておきますので、ご活用下さい。
1.オセルタミビル(タミフル)
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495250284&Mode=0
成分情報等シート
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000303310
スイッチ OTC とした際の効能・効果:
市販薬のキットでインフルエンザ陽性、周りにインフルエンザの患者がいて自分も熱発したとき(みなし陽性)、インフルエンザの予防
OTCとしてのニーズ:
日本では必要もないのに医者が患者の求めに応じてオセルタミビルを処方することが多すぎる。OTC 化することで無駄な医療資源浪費を抑えることができる。
資料では承認された国はないとされていますが、ニュージーランドでは2013年頃に、13才以上の子どもと成人のインフルエンザの治療及び予防を目的として、最大10のカプセル入りオセルタミビル75mg含有のカプセル剤が、処方箋医薬品から薬剤師販売医薬品(Pharmacist-Only medicines, Restricted medicines)に再分類され、処方箋なしで購入することが可能になっています。
【アポネットR 2012.12.18】
タミフル、要薬剤師薬に分類変更へ(NZ)
http://www.watarase.ne.jp/aponet/blog/121217.html
ニュージーランドではもともと、2007年からインフルエンザシーズン(5-9月)に限り、タミフルの処方せんなしでの販売が認められていましたが、OTC化によって、インフルエンサウイルスの耐性が増えたり、後で使うために備蓄購入される、インフルエンザワクチンの接種率に影響を与えることはなかったとすることが論文で明らかになったこともあり、ニュージーランドではこの施策については支持されているようです。
【アポネットR 2012.09.07】
タミフルOTC化でも耐性増やワクチン接種率低下は認めず(NZ)
http://www.watarase.ne.jp/aponet/blog/120909.html
また、2009年の新型インフルエンザのパンデミックの際には、ノルウェーではタミフルやリレンザなどが一時的に処方箋なしでの販売が認められたという過去もあります。
最近では、オセルタミビルをOTC医薬品として再分類することの潜在的な利点とリスクを検証する論文も出されています。
【アポネットR 2025.10.18】
どのようにすればオセルタミビルのスイッチが可能か?
http://www.watarase.ne.jp/aponet/blog/20251007.html
上記論文では、迅速検査との組み合わせることで有用としていますが、ニュージーランドでは効能を見る限り、典型症状のみでも販売が可能なように思われます。(改めて調べます)
あと、医療保険上の費用対効果ですが、フランスではオセルタミビルの償還率は30%(つまり自己負担は7割)となっており、抗インフルエンザ薬に莫大な医療資源が使われていることにも留意する必要があるかもしれません。
【アポネットR 2025.10.18】
フランスにおける医薬品償還率
http://www.watarase.ne.jp/aponet/blog/20250412.html
個人的には、インフルのみのキットも市販化し、処方箋なしでの販売を可能にしてもいいのではないかと思っています。
2.ラニナミビルオクタン酸エステル水和物(イナビル)
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495250285&Mode=0
成分情報等シート
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000303317
スイッチ OTC とした際の効能・効果:
市販薬のキットでインフルエンザ陽性、周りにインフルエンザの患者がいて自分も熱発したとき(みなし陽性)、インフルエンザの予防
OTCとしてのニーズ:
日本では必要もないのに医者が患者の求めに応じて抗インフル薬を処方することが多すぎる。OTC 化することで無駄な医療資源浪費を抑えることができる。
イナビルの場合プラセボと同等、タミフルと非劣勢などもともと効果が微妙な薬剤だが求める患者が多すぎる。本来保険適応を認めてバカスカ使うような薬ではない。
一方、イナビルですが、オセルタミビルと同じ観点でかつ、吸入という利便性もあり検討の余地があるとの意見が出されています。
ただ、イナビルは海外では臨床試験で有意差が見られなかったことから、開発が断念されており、国際的にも現時点では推奨されていない、ローカルドラッグという位置づけです
【アポネットR 2014.08.02】
ラニナミビル(イナビル)の欧米での開発は困難?
http://www.watarase.ne.jp/aponet/blog/140801.html
私の近くでもこういった理由からなのか、リレンザは処方してもイナビルは処方しない医師がいるなど、個人的にはスイッチ化以前に、そもそも有用性にエビデンスがあるかどうかを再検証することが先ではないかと思っています。
3.ブデソニド・ホルモテロールフマル酸塩水和物(シムビコート)
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495250284&Mode=0
成分情報等シート
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000303323
スイッチ OTC とした際の効能・効果:
風邪のあとなかなか咳が収まらない(咳喘息)
OTCとしてのニーズ:
咳喘息で受診される方が少なからずおり、OTC があれば病院受診の手間が省ける。逆にシムビコートで治らないのであれば受診して精査する必要ありわかりやすいと思われます。
私の知る限りでは、海外で吸入ステロイドのスイッチがされている国はありません。
ただ、調べたところ、2020年に豪州で市販化するという話があったようです。
Symbicort OTC application blindsides experts, may start Inhaler Wars
(Respiratory Republic 2020.08.31)
https://www.puffnstuff.com.au/symbicort-otc-application-blindsides-experts-may-start-inhaler-wars/8309
また、最近では必要に応じて市販されるブデソニド-フォルモテロールが利用可能になれば、喘息の転帰が改善し、死亡を防ぎ、コストを節約できるとした論文が出されていました。
Cost-effectiveness of budesonide-formoterol vs inhaled epinephrine in US adults with mild asthma
(Ann Allergy Asthma Immunol. 2023 Oct 23.)
https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S1081-1206(23)01352-2
海外の状況についてはさらに調べますが、今回の咳喘息という効能効果でのスイッチ化は難しいように思います。
基本的に意見募集は今回の1回限りとなります。
意見ある方は、是非提出してみて下さい。
関連情報:TOPICS
2025.04.23 プライマリケアにおける薬剤師の役割を拡大するための医薬品の分類(豪・NZ)
http://www.watarase.ne.jp/aponet/blog/20250437.html
2025年12月09日 12:22 投稿

