たびたび論争になっている薬剤師の「処方権」とは何か

13日、東京理科大の葛飾キャンパスで開催された社会薬学会のポスターで発表しましたが、カナダなど引き合いに出されている多くの国で行われている「処方権」は、よくある症状や軽度疾患に対するプロトコルに従った薬剤の提供というものがほとんどで、医師の代わりに高血圧とか糖尿病に薬剤師の判断で処方を行うというのは別のものです。

日本社会薬学会第44年会
https://jssp44.ywstat.jp/nittei.html

これは、地域薬局の機能と薬剤師の職能を活用した⼀般的な症状や軽度疾患への取り組みで、Common Ailment Schemes(CAS)というものです。(Pharmacist Prescribing for Minor Ailments(PPMA)、Minor Ailment Scheme(MAS)とも呼ばれています)

適切な問診で診断できる病気(Common Ailment:よくある病気や症状、Minor Ailment:重症度の低い軽症の疾患)については、かかりつけ医ではなく、アクセスがよい身近な地域薬局で、薬剤師が対応することが可能であるとした各国当局や政治判断が背景にあります。

国や州をあげてこういったことに取り組む背景には、限られた医療資源をどう活用するかの必要性に迫られるということがあり、特にカナダ、豪州など国土が広い地域では過疎地など医療へのアクセスが困難な地域にとって必要な施策となっています。

つまり、今議論になっている「処方権」というのは、「地域住民や患者さんに必要な医薬品を、地域薬局から直接供給する政策・権限」(Prescribing power)ということであることを理解して頂ければと思っています。

またこれは、全ての人々が基礎的な保健医療サービスを、必要なときに、負担可能な費用で享受できる「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」を支援するうえでも、重要な役割を果たすとされています。

CASは、2000年代に英国に始まり、カナダ、豪州各州などに広がり、来年にはドイツでの実施も決まっています。また米国では公的医療保険が脆弱という背景から広がっています。

日本ではこういった海外の状況はほとんど伝えられていませんが、薬剤師の職能を生かして軽度疾患などの対応は、身近な地域薬局で直接対応しようというのは、今や世界の流れなのです。

「薬剤師は診断を学んでいないので無理では」といった資質について問われることがあります。CASの実施にあたっては、国や大学、薬学部、薬学と医学の専門家グループ間で開発されたガイダンスや臨床プロトコルが作成、これに従い、臨床判断を行い、必要に応じて医薬品を供給するの一般的です。

シンポジウムで講演された、京都大の岡田浩先生も「恐れることはない、知識をUpdate する仕組みがあれば、学部卒の知識でほとんど可能。カナダ・アルバータ州ではそうすることで、ほとんどの地域薬局で取り組んでいる」と話されています。

これにより、多くの国で女性の尿路感染症やピルの地域薬局での直接供給が行われるようになりました。

またフランスなどでは、のどの痛みに対し、迅速検査を行い、必要に応じて抗生剤が処方されています。おそらく抗生剤の適正使用にもつながっていると思います。

あと、必ず引き合いに出されるのは「海外と医療制度の違いがあるから日本は必要性がない」という意見があります

日本はフリーアクセス、しかも安く医者にかかれる状況が当たり前だと思われていますが、国民皆保険と日本の医療文化にささえられてきた日本の医療制度も、人口減や人口の都市集中などから、限界がもう近くに見えているのではないでしょうか。

国の審議会や政治、医師会は、今でも日本の医療は世界に誇る素晴らしいとばかりに口にはしませんが、日本でも近い将来、プライマリケアは出来高払いから人頭払いということが必要になるかもしれません。

また、オンライン診療も必ずしも代わるものではありません。

でも、いろいろと調べて作り上げた昨日のポスター発表はあまり関心がありませんでした。

今や処方提案こそが薬剤師の職能とばかりに、関心もフィーもそちらばかりに向いているので、今の状況ではまだ無理なのかと痛感させられました。

今、地域薬局に求められていることは、過疎地も含め24時間くまなく医薬品の供給することが第一義だとされていますが、私はこれもコスト・リソース面でいつか限界が来ると考えます。

処方提案も職能発揮として、またフィーが設定されていることから経営のために大事なことだとは思いますが、もっと長期的な視点で、プライマリケアの領域で地域薬局は何ができるかもしっかり考える必要があると考えています。

「軽度疾患対応ならOTCがあるだろ」という意見もあります。

しかし、OTCでの薬剤師の役割はセルフメディケーション支援であり、使用可否の判断が主になりがちです。また店頭ではセルフセレクションの陳列が多く、軽度症状について、薬剤師に相談するという文化自体が失われています。

また、最近では多くの成分がスイッチOTC化が承認されていますが、製品化されなかったり、需要がなく終売になったりしていますし、限られた地域や店舗での先行販売を行うなど、今や一部のOTCメーカーやチェーンドラッグのための戦略商品にもなりつつあり、取り扱うこと自体に障壁がでています。

販売手順を整備し、法整備を図るなどすることにより、こちらも議論になっている零売を制度化することでCASの代替案となるかもしれません。

これが今議論になっている、薬剤師に「処方権」が必要かどうかの議論の本質です。

学会終了後、最寄り駅までたまたま居合わせた北海道の薬局管理を担当する大学の先生と歩きながらお話を伺う機会を得ましたが、道内の医療の過疎化はかなり深刻だと聞かされました。

「カナダで取り組まれていることが日本でも必要ではないか」と。

都会などの医療資源の豊富な中での役割発揮を考えることも大事ですが、そういった医療資源が乏しい地域こそしっかり目を向けて薬剤師は何ができるのか、薬剤師による「処方権」が必要とされる意味はそこにあります。

アカデミアの方にも現場と協力して、エビデンスの一助となるよう、行政や政治に働きかけ、まずはパイロット事業の展開を目指して欲しいものです。

海外ではそのようにしてCASの展開が広がっているからです。

引用:
世界各国で拡大する地域薬局におけるCommon Ailment Schemes(CAS)の現状と我が国への導入可能性の検討
(日本社会薬学会第44年会ポスター発表)

(この記事はX記事としても投稿しています)


2026年09月14日 13:44 投稿

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