地域薬局で500万人の軽度疾患に対応(NHS Pharmacy First)

今年4月から再取組みを始めた本サイトの情報提供で、しばしば登場する英国NHSのPharmacy Firstの取り組みについて、改めて紹介したいと思います。

英国では、GPの予約がなかなかとれないという話は日本でもよく耳にする話ですが、
2024年1月31日により始まったこのPharmacy Firstは、簡単に言うと、よくある症状ぐらいでは、GPの貴重な予約枠を埋めてくれるなというのがこの取り組みの目的のようです。

NHS Pharmacy First
https://www.england.nhs.uk/primary-care/pharmacy/pharmacy-services/pharmacy-first/

これまでに、日本で紹介されたことはほとんどありませんでしたが、今年3月17日に開催された、医薬品等行政評価・監視委員会で初めて紹介されています

【厚労省 2025.03.17開催】
第19回 医薬品等行政評価・監視委員会
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_54657.html
(議事録)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_57710.html

(資料3)
医薬品等行政評価・監視委員会における海外調査(医療用医薬品の適正使用を目的とした患者向けの適切な情報提供のための取組について)(最後のページ)
https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/001467174.pdf#page=21

20250317_2

上図にあるように、

  • 急性中耳炎
  • 伝染性膿痂疹(とびひ)
  • 虫刺され感染症
  • 帯状疱疹
  • 副鼻腔炎
  • 喉の痛み
  • 合併症のない尿路感染症

の7種類の疾患について、医師に行かなくても薬剤師が医療用医薬品、普通は抗生剤など、処方箋が必要な医薬品の処方を薬剤師が処方できるようにする仕組みです。

実際には、上記チェックシートで患者自身がチェックシートでチェックしていくことによって、どういう医療を選べるかということもできるようになっている他、

Resources for the community pharmacy setting
(RCGP Learning)
https://elearning.rcgp.org.uk/mod/book/view.php?id=12647&chapterid=489

UTI Women Under 65 Leaflet for community pharmacies
https://elearning.rcgp.org.uk/mod/book/view.php?id=13511&chapterid=786

UTI for women under 65 leaflet for community pharmacies fully referenced V1
https://elearning.rcgp.org.uk/pluginfile.php/179949/mod_book/chapter/786/TYI-UTI%20_%20pharma%20V1_Fully%20Referenced%20UKHSA%20.pdf?time=1662378002771
(テキスト版)
https://elearning.rcgp.org.uk/mod/book/view.php?id=13511&chapterid=789

処方に際しては、下記のアルゴリズムに従って、使用する薬剤までプロトコルで決まっています。(特別な研修はない)

下記は、合併症のない尿路感染症に関するもの
clinical pathways1

Community Pharmacy advanced service specification: NHS Pharmacy First Service
(NHS England)
https://www.england.nhs.uk/publication/community-pharmacy-advanced-service-specification-nhs-pharmacy-first-service/

NHS Pharmacy First – clinical pathways
https://www.england.nhs.uk/wp-content/uploads/2023/11/PRN00936_ii_Pharmacy-First-Clinical-Pathways-v.1.6.pdf

Pharmacy First Pathways
https://clinicalpathways.uk/pharmacy-first/

英国ではこういうファーストアクセス的な疾患、症状は地域薬局の薬剤師に任せ、フィーも投入して、GPはもっと別のところにリソースを有効活用するということなのでしょう。

NHSでは、SNS他のメディアを通じて利用を呼び掛けています

 Pharmacy First NHS Pharmacy First – Urinary Tract Infections in Women Under 65 Pharmacy First は、薬局の96%以上がサービス提供のために登録されており、うち87%が実際に毎月サービスを提供をしているとのこと。

これまでも、業界団体などがその成果などを公表していますが、NHSビジネスサービス局(NHSBSA)による最新のデータによれば、Pharmacy Firstの導入以来、薬局は500万人以上の軽病患者(walk-in consultationによる治療 240万件、軽度の病気の紹介に関する相談 150 万件、緊急の医薬品供給に関する相談 140 万件)に対応してきたとしています。

NHS Pharmacy First Clinical Pathways Data
(NHS Business Services Authority)
https://www.nhsbsa.nhs.uk/pharmacies-gp-practices-and-appliance-contractors/dispensing-contractors-information/nhs-pharmacy-first-service-pfs/nhs-pharmacy-first-clinical-pathways-data

walk-in consultation(軽度疾患対応)の内訳(2025.05.31 アクセス)

延べ件数 月ごとの
薬剤提供率
提供される薬剤
急性咽頭炎 835,679件 65~74% フェノキシメチルペニシリン(5日間)
クラリスロマイシン(5日間)
エリスロマイシン(5日間)
単純性尿路感染症(UTI) 665,409件 82~86% ニトロフラントイン(3日間)
急性中耳炎 292,844件 58~75% アモキシシリン(5日間)
クラリスロマイシン(5日間)
エリスロマイシン(5日間)
副鼻腔炎 248,702件 79~88% フェノキシメチルペニシリン(5日間)
クラリスロマイシン(5日間)
エリスロマイシン(5日間)
虫刺され 202,993件 70~87% フルクロキサシリン(5日間)
クラリスロマイシン(5日間)
エリスロマイシン(5日間)
伝染性膿痂疹 105,373件 91~95% hydrogen peroxide クリーム
フシジン酸クリーム
フルクロキサシリン(5日間)
クラリスロマイシン(5日間)
エリスロマイシン(5日間)
帯状疱疹 63,713件 81~87% アシクロビル
バラシクロビル

この結果について、Community Pharmacy England(CPE)のCEOは、イングランドのPharmacy First serviceは薬剤師チームがスキルを駆使して患者をサポートするための優れた方法であり、最新の数字は薬剤師チームが公衆衛生に貢献する意欲があることの証しだと述べるとともに、新たに、血圧、避妊サービスについて政府との間で契約が合意されていることか、サービスの拡大や、独立処方を制度に組み込む必要性も強調しているそうです。

Do you know about Pharmacy First?

一般的な軽度疾患への対応について、国が資金を導入し、ファーストアクセスの場として身近な存在である地域薬局・薬剤師の活用する動きは、カナダや豪州、フランスなどですでに行われており、これらの国での成果を基に、欧州などの先進国だけでなく、アジアなどの新興国でも、導入の動きが広がっています。

また、対象の範囲も経口避妊薬や、Public Health としてのワクチン接種に広がっています。

海外でこういった動きが広がった背景には、コロナ禍での医療ひっ迫の経験をし、政治はタスクシフトで医療への圧迫を減らし、持続性ある医療保険制度を確保するために、地域薬局をワクチン接種やファーストアクセスとしての機能に期待を寄せているのです。

日本の医療は世界一と自認する一方で、現場からは人手不足や経営難や医療崩壊の声が現場からあがっています。

政治にはコロナ禍で問われた医療供給体制と医療保険制度の持続性を確保のためにも、多くの国が取り組んでいる、プライマリ(ヘルス)ケアや軽度疾患の対応をどうするかを考えてもらいたいものです。

参考:
Fresh calls for Pharmacy First expansion as consultations surpass five million
(The Pharmacist 2025.05.29)
https://www.thepharmacist.co.uk/pharmacy-first/fresh-calls-for-pharmacy-first-expansion-as-consultations-surpass-five-million/

Pharmacy First has already seen over five million patients
(Pharmacy Business 2025.05.30)
https://www.pharmacy.biz/pharmacy-first-has-already-seen-over-five-million-patients/

関連情報:TOPICS
2025.04.20 地域薬局での喉の痛み治療は、GP診察よりも費用がかからない(英国)
2025.04.23 Pharmacy First における抗菌剤の使用状況が公表(英国)


2025年05月31日 14:23 投稿

コメントが1つあります

  1. アポネット 小嶋

    本記事では触れませんでした、薬剤師の労組である英PDAは、Pharmacy First Service について、これまでの検証と課題を働く人の視点で概説しています

    Pharmacy First Service – what have we learned in its first year?
    (PDA 2025.01.27)
    https://www.the-pda.org/pharmacy-first-service-what-have-we-learned-in-its-first-year/
    https://www.the-pda.org/wp-content/uploads/The-Pharmacy-First-Service-one-year-on.pdf

    PDA は 2024年 1月にメンバーにアンケートを実施し、トレーニングと追加の作業負荷を負う必要がある人々に対する意見を把握しました。

    2024 年 1月の結果では、回答者の 68% が Pharmacy First の原則に強く同意し、84% が患者ケアの改善に強く同意、同様に 77% が薬剤師の専門的充足感の向上に強く同意していることがわかりました。

    また、Pharmacy First サービスが適切に導入またはリソース提供されなければ、すでに脆弱な労働力の状況に悪影響を与える可能性があることに 87% が強く同意しました。

    患者が薬局での初回相談に自ら来局することに加えて、GP診療所とNHS 111 が、これら7つの症状のいずれか、軽度の病気の治療、または緊急時の医薬品供給のために、患者を地域の薬局に照会されることがあります。

    このため、薬剤師にとっては、紹介の量やタイミングがほとんど把握できず、すでに引き伸ばされている業務量を管理する上で困難が生じています。

    私たちは、多くの薬局経営者団体が、地域薬局からさらに多くのサービスを提供することを提唱していることを知っています。

    しかし同時に、スタッフの確保・定着の問題から、急な休業を余儀なくされる薬局もります。

    サービスを追加したり、既存のサービスの範囲を広げたりするには、より多くのスタッフの能力が必要になります。

    サービスの拡大を検討する際には、人員配置、特に最低人員配置レベルに関する問題が含まれるようにすることは、これらのサービスを委託する側の責任です。

    薬剤師のコアスキルと 5 年間のトレーニングが活用されず、代わりにワクチン接種や軽い病気に対する抗生物質の提供にのみ使用されるという、意図しない結果につながる可能性があります。

    コミュニティ薬局から調剤される処方箋の数、サービスの数、コミュニティ薬局の数の減少が継続的に増加していることから、これを安全に提供するためにすべての薬局に2人以上の薬剤師を配置する必要性はますます高まっています。

    ただし、この取り組みの出発点は、これらの議論が行われるとき、特にコミュニティ薬局から新しいサービスが計画され検討され、委託されるだけではないときは、薬局の所有者だけでなく薬剤師を代表する組織を含めることです。
    (Xに2025.01.28に投稿)

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