規制改革推進会議がスイッチOTCの拡大を強く求める

 7月2日、政府の規制改革推進会議がオンラインで開催され、スイッチOTCを拡大させる提言を盛り込んだ答申をまとめています。

第8回規制改革推進会議(2020.07.02開催)
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/committee/20200702/agenda.html

 規制改革推進会議といえば、これまでも調剤報酬の見直し、敷地内薬局や機能性食品の規制緩和などがテーマに掲げられ、策定された答申が厚労省の政策に影響を与えてきたことは皆さんもご承知の通りです。

 今回のスイッチOTCの拡大要求は、 2019年11月から12回にわたり開催された、医療・介護ワーキング・グループでの議論(第3、第6、第11回)での議論がまとめられたものです。(詳しいやり取りは下記掲載の議事録で是非確認してみて下さい)

規制改革推進会議(令和元年10月~) 会議情報
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/meeting.html

 答申では現行の一般用医薬品への転用のスキームや医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議の運営方法を厳しく批判した内容となっている他、スイッチOTC化の取組をはじめとするセルフメディケーションの促進策を検討するために厚労省に部局横断的な体制構築を求めており、今後の促進策に大きな影響を与えそうです。また、進捗状況をKPIとして管理することや、促進されていない場合の原因(ボトルネック)と対策を調査し、PDCA管理することも明記されており、見直しの実行を強く求めた内容となっています。

 下記答申からスイッチOTCの部分を書き出しました。(p57-60)

規制改革推進に関する答申(2020.07.02)
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/committee/20200702/200702honkaigi01.pdf

(3)一般用医薬品(スイッチOTC)選択肢の拡大
ア. スイッチOTC化の促進に向けた推進体制について
【令和2年度措置】

<基本的考え方>
 医療機関を受診することなく入手可能なOTC医薬品の提供は、医療機関任せの医療から脱却し、自己の認識する病気や症状を治療するために個人が薬を選択し使用するというセルフメディケーションの実践を促すとともに、一般用医薬品の開発・販売の活性化によりグローバルでの医薬品市場獲得を目指す上でも重要な柱であり、累次の規制改革実施計画等に基づき、その拡大に向けた仕組みが導入されてきた。

 一般用医薬品への転用の促進については、「『日本再興戦略』改訂2014」、平成27年6月の規制改革実施計画を受けた新しいスキームとして、平成28 年4月に「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」(以下「評価検討会議」という。)が新設された。また、一般用検査薬への転用の促進についても、平成26年6月の規制改革実施計画に基づき、平成26 年12 月に「一般用検査薬の導入に関する一般原則」(以下「一般原則」という。)が見直された。

 しかしながら、これら新たな仕組みの下でのスイッチOTC化の取組は、専ら医薬品等の審査を行う厚生労働省の担当部局において行われていることから、一般用医薬品等の安全性・有効性の視点に加えて、セルフメディケーションの促進、医薬品産業の活性化などの視点も含めた取組が十分に行われていないという指摘がある。また、これまでの間、平成29年からセルフメディケーション税制が導入されているが、利用者2万6千人にとどまっており、OTC医薬品の活用を通じたセルフメディケーションの促進に十分な効果をあげるものとはなっていない。
以上の基本的考え方に基づき、以下の措置を講ずるべきである。

<実施事項>
 厚生労働省は、一般用医薬品の安全性・有効性の視点に加えて、国民の健康の維持・増進、医薬品産業の活性化なども含む広範な視点から、スイッチOTC化の取組をはじめとするセルフメディケーションの促進策を検討するため、同省における部局横断的な体制構築を検討する。
 
 また、上記体制において、経済性の観点も含め、スイッチOTCの推進策を検討する。具体的には、業界団体の意見も聞きながらスイッチOTC化の進んでいない疾患領域を明確にする。上記に基づき、スイッチOTCを促進するための目標を官民連携して検討・設定し、その進捗状況をKPIとして管理する。促進されていない場合は原因(ボトルネック)と対策を調査し、PDCA管理する。

イ. 一般用医薬品への転用の促進
【令和2年度措置】
<基本的考え方>
 評価検討会議は、一般用医薬品への転用の促進に向けて、従来の個別の製造販売業者からの申請に基づく承認審査とは別に、消費者など多様な主体の意見を反映させるとともに、開発の可能性に関する予見可能性を向上させることを目的として設置されたものである。

 しかしながら、同会議のメンバーは医師が大多数を占め、スイッチOTC化された場合のリスク等に議論が偏り、セルフメディケーションの促進という視点から本来されるべき必要性や国民の利便性等のベネフィットについて考慮されているとは言えない状況がある。

 また、同会議の検討で可とされたものは、全て既存のOTC医薬品と同種同効のものであり、新規の作用・効能がある新しい分野でのスイッチは進展しておらず、PPI(プロトンポンプ阻害薬)や緊急避妊薬など海外の多くの国でOTC化されている成分が日本では承認されていない。

 そのような状況において、以下のようなことが課題として挙げられる。

 OTC医薬品の製造販売については、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35 年法律第145 号。以下「医薬品医療機器等法」という。)の規定により、製造販売業者たる製薬企業が厚生労働大臣に申請し、薬事・食品衛生審議会での議を経て取扱いが決せられることとなっている。しかしながら、スイッチOTCについては、製薬企業にはあらかじめ評価検討会議に要望を提出することが求められ、評価検討会議においてスイッチ可との見解を得るまで厚生労働大臣に直接申請することが事実上困難な取扱いがなされるなど、評価検討会議がスイッチOTC化の可否の決定の機能を担う実態にあり、薬事・食品衛生審議会との二重審査が指摘されている。また、明確な規定がないにもかかわらず、会議の運営に関わる議論の中で、合意形成にあたり全会一致が原則とされている。

 加えて、スイッチ可とされ、製造販売承認に至った場合も、他のOTC医薬品には存在しない様々な条件が課されることがあり、スイッチOTCの開発及び普及・促進が進まない要因となっている。

 上記の結果、平成28年の評価検討会議設置後、本会議でスイッチOTC化について可とされた成分のうち、現在に至るまで承認に至ったスイッチOTCは以前より検討されていた2成分のみである。さらに、消費者や製薬企業等からの要望自体も減少傾向にあり、セルフメディケーションの促進の本来の目的は果たせていない。

 以上の基本的考え方に基づき、以下の措置を講ずるべきである。

<実施事項>
a アにおいて検討された方策を踏まえつつ、セルフメディケーションを更に促進し、消費者等の多様な主体の意見の反映、製薬企業の予見可能性向上という評価検討会議の本来の設置目的に資するよう、以下の対応を行う。

  • 評価検討会議の役割は、提案のあった成分のスイッチOTC化を行う上での課題
    ・論点等を整理し、薬事・食品衛生審議会に意見として提示するものであり、スイッチOTC化の可否を決定するものではないことを明確化する。
  • 消費者等の多様な主体からの意見が反映され、リスクだけではなく必要性についても討議できるよう、消費者代表を追加するなどバランスよく構成されるよう評価検討会議のメンバー構成を見直す。
  • スイッチOTC化するにあたって満たすべき条件、スイッチOTC化が可能と考えられる疾患の領域、患者(消費者)の状態や薬局・薬剤師の役割についても議論・検討し具体化する。
  • 全会一致が原則とされている評価検討会議の合意形成の在り方を見直し、賛成、反対等多様な意見があり集約が図れない場合は、それらの意見を列挙して、薬事・食品衛生審議会に意見として提示する仕組みとする。

b 製薬企業が、別途、医薬品医療機器等法の規定により直接厚生労働大臣へ製造販売の承認申請を行うことも可能であることを明確化する。

c スイッチOTCの製造販売承認時等に課すことのできるセルフチェックシートの作成、販売実態調査の実施などの販売条件設定についての考え方を明確化し、真に必要であるものに限定する。

ウ. 一般用検査薬への転用の促進
【令和2年度検討開始、結論を得次第速やかに措置】
<基本的考え方>
 一般用検査薬への転用については、平成26 年の一般原則の見直しにより検討手順などが示されたが、検体については採取に際して侵襲性がないものが適当であるとされており、検体測定室事業やその類似サービス事業における検査では自己採血による穿刺血が認められていることと整合していないとの指摘がある。このほか、検査結果が定性ないし半定量数値のものに引き続き限定されていることなどから一般原則の見直し等以降も、スイッチOTC化が可とされたものは排卵日予測検査薬1種類のみに止まっている。

 スイッチOTC化の検討に当たっては、製薬業界が業界統一のガイドライン案を作成することを前提とされており、個別製薬企業による承認申請が法の規定に即して取り扱われるかは明らかでない。

 以上の基本的考え方に基づき、以下の措置を講ずるべきである。

<実施事項>
a アにおいて検討された方策を踏まえつつ、近年の技術進歩も踏まえ、スイッチOTC化が可能と考えられる検査薬の種類とそれに応じた患者(消費者)の状態や薬局・薬剤師の役割について議論・検討の上で具体化する。その際には、自己管理が期待される領域の検査薬について、使用後の医療機関への受診勧奨を、検査項目に応じて適切に行うこと等の方策を検討する。また、検査薬のうち、低侵襲性であるもの、定量の数値で判定されるもの、血液検体を用いたもののOTC化の可否も含めた一般原則の見直しについて期限を定めて検討する。

b 検査薬のOTC化に当たっては、関係業界全体としてガイドライン案の提案が行われるのとは別に、個別製薬企業からの医薬品医療機器等法の規定により直接厚生労働大臣に承認申請が行われた場合の取扱いを明確化する。

 これまでも、スイッチOTCの拡大には慎重な姿勢を示していた中川新体制となった日本医師会と、生活者の立場にたって、日薬や業界団体がどのような反応をするかが注目です。

 7月8日には、これまでの議論をふりかえった「中間とりまとめ」が示される、医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議の開催が予定されており、おそらくこの答申が示されるでしょうから、議論の紛糾は必至でしょう。

医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議
 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-iyaku_346305.html

関連情報:TOPICS
  2016.08.06 スイッチOTCの候補成分の要望の募集が開始(厚労省)
  2016.05.05 海外におけるスイッチOTCの状況(2016)
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2020年07月02日 23:10 投稿

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