医薬品乱用の実態~特に市販薬(厚生労働科学研究)

4日掲載の下記記事をみて、例年出される報告書を思い出しました。

危険ドラッグを含む薬物乱用・依存状況の実態把握と薬物依存症者の社会復帰に向けた支援に関する研究
(平成28年度厚生労働科学研究)
http://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=201623007A
https://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=201623007A

 分担研究として下記の報告書などが記されています

  • 飲酒・喫煙・薬物乱用についての全国中学生意識・実態調査(隔年実施)
  • 全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査(ほぼ隔年実施)
  • 「危険ドラッグ」を含む薬物乱用・依存に関する国際比較研究 (特別実施)
    ※薬物使用に関する全国住民調査もある(隔年実施、H28年度は未実施年)

 記事で取り上げられているのは、全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査結果で、興味ある結果が記されていました。

 この調査は2016年9月から10月にかけて全国の精神科医療施設229施設におけるアルコール以外の薬物関連精神障害患者の実態を調査したもので、2262症例を分析対象としています。

 記事にある「市販薬の乱用は236人(10.4%)」というのは、この症例のうち「生涯使用経験」したことのある、薬物の種類の一つで、医薬品としては、睡眠薬・抗不安薬662人(29.3%)に次いで多く、鎮痛薬(処方非オピオイド系)61人(2.7%)と比較してかなり多いと言えます。

 今回の報告書では、下記のような医薬名も具体的に列挙しています(報告書131-133ページから抜粋)

種類 医薬品名(症例数)
乱用歴のある睡眠薬・抗不安薬 エチゾラム204、フルニトラゼパム143、トリアゾラム120、ゾルビデム84、ベゲタミン56、ニメタゼパム54、ブロチゾラム34、アルプラゾラム34、プロマゼパム30、ベンザリン17、ジアゼパム17、ロラセパム16、ゾピクロン14、クロナゼパム7、ロフラゼブ酸エディル6、ニトラゼパム6、アモバルビタール5、エスタゾラム5、ロルメタゼパム5、クアゼパム4、ラメルテオン4、ペントバルビタール3、リーゼ3、エスゾピクロン3、クロキサゾラム2、リルマザホン2 その他1例多数
乱用歴のある処方・非オピオイド系鎮痛薬 ロキソニン19、セデス(もう発売していないはずだけど)5、SG顆粒4、ボルタレン4、カロナール4、リリカ3、バファリン2、イミグラン1、テルギンG(?)1、ナロン(?)1、ブルフェン1、ペレックス1
乱用歴のある処方・オピオイド系鎮痛薬 ペンタゾシン9、ブプレノフィン3、トラマドール3、モルヒネ2、スタドール1、フェンタニル1、
乱用歴のある市販薬 ブロン(錠・液ともに含む)101、パブロン29、ウット27、ナロンエース15、バファリン11、セデス10、ドリエル9、ベンザブロック8、レスタミン8、イブ7、トニン7、ナロン7、ロキソニン5、ノーシン3、ルル3、イヴ2、ケロリン2、コンタック2、リスロン2、エスタック2、アストフィリン1、アネトン1、イブクイック1、エフストリン1、カイゲン1、カゼリック1、カフェイン1、ケロール1、コーラック1、ジキニン1、トラベルミン1、ノバコデンシロップ1、リコリス1 新ルビカップ1
乱用歴のあるADHD治療薬 リタリン30、ベタナミン8、コンサータ3、ストラテラ3、モディオダール3、ヴァイバンス1
乱用歴のある「その他」の薬物 カフェイン2、クロルプロマジン2、サートラリン2、クエチアピン2、ピペリデン2、ミルナシプラン2、その他1例多数

 具体的な乱用されている医薬品名が報告書に詳細に記されたのは今までなく、去年から今年にかけての一連の乱用対策の関連もあるのかもしれません。(商品名(特にに市販薬)が正確でなかったり、一般名と混在しているのはもう少し整理して欲しかった)

 なお、H19(2007年)報告書で、1987~2006年調査での医薬品名が取り上げられています。

全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査
(H19年度厚生労働科学研究)
http://www.ncnp.go.jp/nimh/yakubutsu/report/pdf/J_NMHS_2007.pdf

 やはり驚くべきは、トリアゾラムの乱用と症例数で匹敵する、ブロンの乱用の実態ではないでしょうか。おそらく毎回の調査で症例を把握しているはずなので、経年の症例数の変動を示して頂ければと思いました。

 2位のパブロンやその他総合感冒薬の乱用も軽視できないと思います。

 総合感冒薬はブロンなどに含まれ咳止め成分に加えアセトアミノフェンなどが含まれるものもあり、知らず知らずにアセトアミノフェンによる肝障害という潜在リスクもあります。

 パブロンゴールド微粒など、総合感冒薬の大包装品は店頭での目玉商品として安売りの対象となりやすく、ネット上では複数個購入できるサイトも未だ散見されるなど、販売側が乱用者に手を貸しているという状況もあります。

 また、レスタミン(コーワ糖衣錠)も、“レタスOD“として乱用の対象になっています。120錠入りでネット670円で買えるというのも一考する必要があるかもしれません。

 ジキニンが入っていないのは意外でした。ノーシンも下位ですが、ニーズが多かった一昔前だと、潜在的な乱用者がいたと個人的には思っています。

 dot の記事を見ると、厚労省の担当者のコメントを見ると、現場にも問題があるように聞こえてなりませんが、 厚労省もしっかりと、市販薬依存への危険性を社会に訴えることは可能なはずです。

 実際、英国では一部の製品について、パッケージの正面にはっきりと ’Can Cause Addiction. For three days use only’ という表示が義務づけられています。(TOPICS 2009.09.04

 報告書で研究者らは、わが国の市販薬は、様々な成分が混在して含有されており、ほとんど「ガラパゴス」状態を呈している。その点で、最も身近な乱用薬物として可能性を潜在していることを注意すべきであろうと、市販薬の乱用について警鐘を鳴らしています。同感です

 なお過去の研究報告書は下記サイトにも掲載されているので、興味ある方はご参考下さい。

研究報告書
(精神保健研究所 薬物依存研究部)
http://www.ncnp.go.jp/nimh/yakubutsu/report/index.html

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2017年05月05日 23:26 投稿

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