新年雑感2015

 新年明けましておめでとうございます。

 昨年は、日常業務に加え、日常生活の場で個人的にさまざまなことについて時間を割くことが迫られ、ほとんどといっていいほど余裕がない一年でした。

 日薬学術大会に参加するなどして、最近の現場の取組み状況にも目を向けたいと思っていましたが、最低限の薬学系雑誌にすら目を通す余裕がありませんでした。

 一方でWEB上では、最新の情報を発信する方も増え、こんな状況で私が情報発信をしていいのだろうかと自問自答する1年でもありました。

 そんな関係で、新年雑感も去年あたりから、はっきりとしたものが浮かばなくなってしまいましたが、次の3つについてはキーワードとして今年注目したいと思っています。

1.スイッチOTCの行方

 前記事で紹介しましたが、今年は(虫歯)予防薬という新しいタイプの要指導医薬品が登場する予定です。

 虫歯を予防という public health 活動に薬局が新たな取り組みとして関わるためのツールとしての試金石的なものになるのではないかと思いますが、学校や保育所・幼稚園での集団での洗口の取組と、薬局でのフッ化物洗口液の販売と指導がどう異なるか、どう両立させていくかということも考える必要があるように思います。

 一方、せっかくスイッチされても安全性等に関する製造販売後調査期間に症例が集まらないなどの理由のために、販売を中止するものも出てきました。エパアルテがその代表ですが、ロートアルガードプレテクト(成分:トラニラスト)も同様の理由で販売を中止が余儀なくされる可能性があると耳にしています。(そうえいえば、アルガード抗アレルギーカプセル(成分:エメダスチンフマル酸塩)もひっそりと販売中止。同じ理由かもしれない。もっとも、花粉症の薬はやっぱり医者でもらう人もまだまだ少なくないということが大きいのかもしれない)

 ロキソニンのようにブランド力があるものは成功するかもしれませんが、医療用で市場を失い、OTC市場にうって出るというのは簡単ではないようです。(佐藤製薬のルミフェンなどはどうなんだろう)

 また、適正販売や購入者を限定するための販売手順の検討などで、正式承認されても、実際の販売開始までに時間を要する場合も少なくありません。(アンチスタックス、セレキノンs=九州・沖縄地区限定販売など)

要指導医薬品一覧(厚労省)
 http://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/ippanyou/newyoushidou.html

 生活者のニーズでスイッチが見込まれても、医師会などの反対の他、こういった承認・販売のハードルの高さが、新規スイッチの意欲を失わされているようにも思われます。(そういえば、2011年まで公表されていた「一般用医薬品としても利用可能と考えられる候補成分」の公表はどうなったんだろう)

関連情報:TOPICS
 2012.12.28 スイッチOTCについてオープンな議論を求める要望書

2.薬局でのクリニカルサービスの取組み

 まず、以前から紹介しようと思っていた、カナダ薬剤師会雑誌に最近掲載された調査報告を紹介したいと思います。

Paying pharmacists for patient care
A systematic review of remunerated pharmacy clinical care services
Can Pharm J. Jul 2014; 147(4): 209–232.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4212445/
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4212445/pdf/10.1177_1715163514536678.pdf

 この調査はカナダのほか、米国・欧州・豪州・ニュージランドで行われている、地域薬局で実践されている clinical care services について調べたもので、サービスの内容と行うための要件などがまとめられています。

 上記 によれば、海外では薬剤師の職能はこの10年で、minor ailments schemes(軽度の疾患への対応)、medication therapy management programs、ワクチン接種、禁煙指導などに活動の場を広げていると指摘、国や保険会社がそれらに対しどのくらいの報酬が支払われているかについても記されています。

 日本では最近。「薬局による健康情報拠点推進事業」の一環として、薬局での自己採血検査を自治体が後押しするという動きがあることを記事・ツイッターなどで紹介しましたが、海外では既に地域薬局や薬剤師を医療政策中でどう活用するかが具体化されているのです。

 一方で通産省では、下記のような検討会が設置され、現在審議が行われており、こういった取組が今後ビジネス化することも予想されます。(どのような議論が行われるか議事録に注目したい)

セルフメディケーション推進に向けたドラッグストアのあり方に関する研究会
(通商産業省)
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/shoujo/self_medichation/001_haifu.html

 日医は、この事業に対しては警戒をもっていることが、下記ペーパーから伺えます。

薬局等でのセルフメディケーションの現状と課題について
-自己採血検査を中心にー
(日医総研WP No.328 )
http://www.jmari.med.or.jp/research/research/wr_560.html
http://www.jmari.med.or.jp/download/WP328.pdf

 ちょっとどうかなという部分もありますが、こういった取り組みが過度のビジネス化される懸念については私も同意するところです。

 病気の早期発見や病状のチェックに薬局などでの血液検査自体にも賛否もあるようですが、国がどのような視点で薬局を利活用し、どういう政策効果に結びつくかを公にすることができなかったことが現在の不信感にもつながっているように思いました、(なぜ、厚労省は海外の動きをもっときちんと示さなかったんだろう)

関連情報:TOPICS
 2014.08.31 薬局での自己採血検査を県が後押し(茨城県)
 2013.11.03 セルフケア・セルフチェックと地域薬局の関わり(厚生労働科学研究)
 2008.04.05 薬剤師はさらなる役割を担うべき(英国)

3.多職種連携のために今何が必要か

 数年来言われていることですが、在宅業務がすすまないことに、薬剤師の職能への理解不足がよく指摘されているようです。

 ちょうど薬学雑誌の新年号に、日本薬学会第134年会 シンポジウムS32「多職種連携実践のための教育がなぜ薬剤師に必要か?」が、誌上シンポとして特集が組まれていて、興味深く読みました。(多職種連携実践を英語で、Interprofessional work (IPW)というのは初めて知った )

多職種連携実践のための教育がなぜ薬剤師に必要か?
(薬学雑誌Vol. 135 (2015) No. 1 p. 107-135)
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/yakushi/135/1/_contents/-char/ja/

多職種連携実践のための教育がなぜ薬剤師に必要か?
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/135/1/135_14-00222-F/_pdf

IPWにおける薬剤師 – 医師連携のあり方 – 医師の立場から
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/135/1/135_14-00222-1/_pdf

IPWにおける薬剤師-看護師連携のあり方—看護師の立場から
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/135/1/135_14-00222-2/_pdf

臨床における薬剤師のスタンスからIPWの阻害要因を考える
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/135/1/135_14-00222-3/_pdf

効果的なIPWに向けたIPEの取り組み
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/135/1/135_14-00222-4/_pdf

 前の2つのポイントにもつながりますが、薬剤師が医療従事者として、他職種とどう役割分担し、どのような具体的な役割があるのかを、他職種や社会からまだまだ認知されていないことが大きいのではないかと改めて感じました。

関連情報:TOPICS
 2010.01.22 チーム医療における薬剤師の役割

 つまるところ、日薬の実践に基づいた広報活動はもちろんのこと、今年こそは国が薬剤師をどう医療や社会で活用していくかを明確化していくことが求められる1年になるような気がしてなりません。

 まとまりがない内容になってしまいましたが、今年もよろしくお願いします。


2015年01月02日 02:10 投稿

コメントが3つあります

  1.  あけましておめでとうございます。
     昨年も、ツイートの書き込みを含め、大いに啓発されました。
     スイッチについては、ご指摘のように障壁があり、断念する事例も出てきています。 
    一つには、海外でも先例がありますが、商業的に採算が合わないことが見えてしまうものがあります。 年末の税制改正大綱では、OTC医薬品購入費の所得控除制度創設は、医療費控除の見直しの先送りと合わせ、長期検討案件となりました。 
    新年には、また仕切り直しとなりますが、取り組みを進めることになります。

  2. なぜ、スイッチ薬やスイッチ検査薬が進まないのか。
     単刀直入にいえば、医師が猛烈反対するからです。
     これを一部のスイッチ推進派のお歴々がいろんな修飾語を交えて書いても、靴の上から痒いところを掻いているだけ。
     医師は医学的管理、薬剤師は薬学的管理で・・・・、それぞれの役割分担がある。
     それを薬剤師が自覚しているならばいいけれども、変にセルフメディケーションを叫んで薬剤師が臨床領域に足を踏み入れることに、医師は我慢がならないのでしょう。
     医師の職域を侵すな。医師の既得権を侵すな。
     薬剤師は今あるOTC薬を販売して、医師の出す処方箋を黙って調剤していればいい・・・。
     それ以上、おかしなことを考えるな・・・。
     厚労省は財務省の絡みもあり、逼迫した医療財政を少しでも削減できればいい。
     だけど、医師会の反対があれば、即刻、それを取りやめにする。その程度の覚悟です。
     どこまで、本気になっているのかわかりません。
     まあ、明治時代以降、脈々と培ってきた医師中心の既得権による医療文化はそうやすやすと手放さない。スクラップアンドビルドは無理です。
     本来なら、そういうことでは発展性がないのでしょうが・・・。
     私はそのように思っています。
     病院薬剤師ならば、医師も理解を示すところもあるでしょうが、医療機関外の薬剤師ともなれば、全く、それはないでしょう。

  3.  医薬ジャーナルなど、薬学雑誌としてはマシな雑誌に、著名な薬学業界の先生方(お歴々)がスイッチ薬の必要性を鼻息荒く執筆されていました。
     掲載日をみると、ほんの数年前のことです。
     そういえば、登録者誕生、リスク区分などの改正薬事法が2009年にあって、あれから7年目を迎えようとしています。
     わずか、7年間で、OTC薬業界は劇的に変化しました。
     今ではスイッチ薬は鳴りを潜めてしまいました。
     医師会の圧力によって押さえつけられてしまったという感じです。
     エパデールがその典型例です・・・・。
     昨年は医療用検査薬のスイッチ化が厚労省主導で実現化されることになりました。
     そこでも、身体への侵襲性の高い自己採血検査(セルフメディケーションによる糖尿病境界領域予備軍)は医師会の猛烈反発でダメになりました。
     検査薬スイッチ化はスイッチ薬を含めたOTC薬の応用(セルフメディケーション活性化)に、そして、医師への受診勧奨の一翼を担うものとして、厚労省などが力を入れたものでした。
     医師会は医師の職域を侵すものとして、スイッチ薬に続いて、スイッチ検査薬にも理解を示すことはありませんでした。
     セルフメディケーションを踏まえた臨床での薬剤師の微妙な立ち位置、これは医師には相容れない領域・・・。
     昨年までに、その上述の結論が少しずつ見え始めてきたという思いがしました。
     自由市場でのOTC薬、検査薬と国民皆保険の庇護のもとでの公的市場(税金と保険料、本人の一部負担)での処方薬と検査薬。これを比較すれば、全額負担である前者の売り上げが伸びるわけがありません。その上、後者は軽病までも取り込んでいます。
    メーカーが前者に力を入れないのは当然です。そこでのスイッチ化も申請、承認許可に至るまで、多大な費用をかけなければなりません。同じかけるなら、処方薬(GEなど)にかける方がメリットがあります。当然、メーカーはスイッチ化にもさらに力を入れなくなるでしょう。
    処方薬にかける費用よりも、OTC薬の方が安くなり、適切な情報提供できる環境整備が構築できれば、違ってきますが。まず、現実的には無理でしょう。