セルフケア・セルフチェックと地域薬局の関わり(厚生労働科学研究)

 以前ネット販売の検討会の記事で概要版を紹介した、厚生労働科学研究の報告書全文がWEBにアップされました。(下記ページの下の方にPDFファイルがあります) 今後の地域薬局の果たすべき姿が示されており、必見です。

セルフケア・セルフチェックを支援する医療提供体制と一般用医薬品の役割に関する研究
(平成24年度 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究)
http://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=201235032A

 この研究では、地域薬局におけるセルフチェック・セルフケアを支援する国内外の取り組み事例の紹介と、そのために必要な人材、インフラ、教育、物(一般用医薬品や検査薬)などが提案されています。

 国外については、欧州5か国(フィンランド、デンマーク、フランス、ドイツ、スイス)について、書籍や文献などによる調査ならびに、各国の薬剤師会等へのインタビュー調査(今年3月に行った最新のものも含む)を行っています。(ニュージーランドについては現地大学薬学部の関係者に調査項目を送付し回答を得ている)

 以下、目に留まった部分を抜粋します。(ちょっとしたコメントも)

  • 医薬分業発祥の地である欧州では、長年培ってきた薬局の在り方(フィロソフィー)がすべての礎となっている。“薬局と薬剤師は、地域に医薬品を供給し、住民の健康に寄与するために、すべての薬局で均一で、質の高い、不断のサービスを提供する”(日本のような調剤専門薬局というのはない)
  • 欧州の薬局では、OTCはもとより、サプリや化粧品など保健衛生に関連する製品を数多く陳列することで、医療機関を受診していない医療消費者が薬局に立ち寄る機会を増やし、薬剤師が健康相談を行うことを容易にしている。(日本で調剤併設のドラッグストアが頑張っているが、実際に対応でき体制にあるかは・・・)
  •  欧州5か国では、薬局を医療インフラの一つとして位置づけ、全ての薬局で均一なサービスを地域住民へ提供することを目指していた。薬局で血圧、血糖などの簡易検査を行うなど、セルフチェックを支援する取り組みも各国で行われていた。チェック結果による指導も併せて実施していた。
  • 薬局1軒あたりがカバーする人口は、ドイツでは日本の約2倍、フィンランドでは約3倍、デンマークでは約8倍である。限られた総医療費、医療資源の中で、国民に均一で質の高いサービスを提供するには、薬局数は限定され、結果として利便性は優先されていない。(はっきりいって日本は薬局数が多すぎるとともに、本来必要とされる地域に不足しているという現実がある。利便性の名の下に経済性や効率性ばかりが優先されている)
  • 近年、欧州においても、開局制限施策を緩和しているが、現時点では、よい結果得られていない。制限を緩和した国では、処方頻度の低い薬で在庫がない場合、患者に2日以上待たせる結果となったり、薬局に競争原理が入ることで患者と話す時間を短縮したりするなど、全体的にサービス品質は低下している。(だからといって、インターネット販売が優位というわけではない)
  • 薬局における慢性疾患の重症化予防の指導は、米国が先行し、欧州でも積極的に実施する動きが見られた。米国では費用対効果を訴求することで薬剤師のサービスを確立するアプローチをとったため、疾病予後が明確で重症化すると医療費が高騰する糖尿病を選定し、薬剤師の予防指導の価値を経済的に評価した
  • ドイツではほとんどの薬局において、骨密度検査、血圧、血糖の(簡易臨床)検査等が実施され、結果により保健指導も行われいる。
  • デンマークでは薬局の業務にはすべてガイドラインがあり、全国、均一なサービスを提供することを目指していた。相談業務は基本相談と専門相談の2段階があり、相談業務を行うために、状況やニーズ共感性に応じて、相談を行う理論および手法を評価および活用できるなどのスキルが薬剤師に求められた。またすべての薬局で均一なサービスを提供するために、薬剤師会等がサービスの開発、標準手順の策定、薬剤師の研修、導入後のモニタリングと評価、継続的なサービスの改善までを担っていた。
  • スイスでは医療資源の有効活用を推進する目的で、薬局に設置した専用のスペースで来局者にインタビューを行い、アルゴリズムに基づき、トリアージを行う試みも始まっている。対応可能な疾患は、咳・膀胱炎・のどの痛みなどで、20疾患のアルゴリズムが準備されている。また。薬局の個室にて専門の医師をコンピューター画面上で呼び出し、医師の問診・診断を行い、FAXで処方箋を送ってもらい薬を交付するという試行事業も行われている。(TOPICS 2012.01.12
  • また、スイスでは薬剤師会が薬局に対し、ワクチン接種の講習会などを行い、一部の薬局ではインフルエンザワクチンの接種が実施されている。
  • フィンランドでは、医療消費者がインターネット上の問診票に回答し、薬剤師と面談の予約をとり、その後、薬局にて、血圧、体重、体脂肪を測定するヘルスコントロールプログラムが行われていた、薬剤師は検査結果に応じたアドバイスを行う。また、公衆衛生プログラムというのがあり、特定疾患に深い知識を有する専門薬剤師をほぼすべての薬局において育成し、同じ薬局内の非専門薬剤師を教育するミッションをもたせている。
  • ニュージランドではワクチン接種や薬剤師による採血も一部の薬局で行われていた。
  • 独では連邦薬剤師連合会が全国の薬局のショウウインドウに薬剤師が住民の健康を見守るイメージパネルを設置したり、“すべてのサービスは、皆さんの健康のために”と題し、「健康相談に応じられるのは、よく勉強している薬剤師だけです」といった大々的なキャンペーンを新聞・雑誌で行っていた。
  • フランスでは、患者数が増えて困っていた抗凝薬治療患者の服薬指導、糖尿病患者に対して、薬剤師が医療消費者に血糖な度の検査を行い、指導や専門委を行うサービスを開始。(現時点では、実施薬局はごくわずかだが) いずれのアプローチも、薬剤師が調剤から一歩踏み出した業務を行うにあたり、国民や社会にどのように、薬剤師の専門的知識の価値を理解してもらうかに焦点をあてている
  • フィンランド、デンマークでは、薬剤師の指導により目に見える形で改善し、患者や他医療職に薬剤師が専門家であることが理解されやすい、喘息などの吸入指導から始めている。(日本でも先進地では頑張っていますね)
  • 各国の薬剤師会は、薬局での健康相談や自己検査に関する教育プログラムを準備するとともに、薬局でのサービス内容を国民に広く周知する活動も行っていた。
  • 日本においては、(特に)一般用医薬品については、販売会社が提供する製品情報が中心で、医療消費者のセルフメディケーションを支援するための情報(例えば、ある特定の一般用医薬品を指定して購入する人に対し、その人に必要な薬かどうかを確認する方法など)が少なく、教育機会も少ない。
  • 日本においても、欧州諸国で見られたように、調剤業務に限定しない、地域医療に貢献できる薬局の役割を明確にすることが急がれる。そのためには薬剤師の資質向上のための研修、医師会等との連携、処方薬のみならず一般用医薬品や健食・サプリメントも取扱い医療消費者との接触の機会を増やすことが重要

 国内6地区で行われているセルフケア・セルフチェックの支援体制の取り組みも紹介しています。あの糖尿病診断アクセス革命についても報告されています。

北海道 薬のツルハ 薬局店頭検診(生活圏内にある薬局の店内で自ら検体を採取して検診を受ける)の取り組み評価
神奈川県中区薬剤師会 検査値から食事の傾向と過不足栄養素を読み取り、適切な指導を行うため、管理栄養士を講師に招いて食事と栄養の講義を受けるなどの取り組みを開始した
福井県永平寺軸、坂井地区 喘息やCOPDのスクリーニングを行う“息切れチェックシート(但しアイパッド版)”の評価
長野県 東町薬局 個別のブースを設営し、健康相談を活発に行う
高知県薬剤師会 2011年10月に県下156薬局で行われた自己血圧測定、自己体脂肪測定と薬剤師による健康相談の評価
糖尿病診断アクセス革命 東京足立区と、徳島で行われている取り組みの状況

 それにしても、こういった調査報告は横のつながりがあるはずの薬剤師会が、もっと早い時期に詳細にまとめることができるはずなのに、どうして厚生労働科学研究の形でしか公にできないのでしょうか?

 また、常日頃思うのですが、日本では、保険薬局に課せられた薬歴などのさまざまなルールや確認が、相談業務などの新たな取り組みに対する余裕を失わせていると思います。(高得点で対象となってしまった、個別指導でつくづくそう思った)

 地域薬局や薬剤師をどう活用させるかの視点で、調剤業務の(ルールの)簡素化などもそろそろ検討する必要があると思います。

 現在、ともすると日本では、在宅をやらない薬局はダメ薬局とばかりに報酬も削るよという動きも出ていますが、海外の各国政府では、地域薬局という医療資源と薬剤師の職能を 特に public health でどう活用するかに確実に動き出しています。

 確かに在宅で療養されている患者さんの自宅を訪問し、残薬確認などを通じて処方の適正化などの必要性を感じますし、日本の取り組みは先進的であるとの評価もあります。しかし、海外では地域の薬剤師に求めるものは明らかに違うようにも思われます。

 厚労省も少しは考えているのでしょうが、報告書にあるような海外のこういった動きを紹介しても、これは医師の領域だと医師会に一蹴されるから、現時点ではあまり大きく取り上げないのだと思いますが、世界でも人口比でかなりの数がいる薬剤師の活用を海外の事例に学びながら、真剣に考える時期が来ていると思います。

関連情報:TOPICS
 2011.10.20 日本セルフメディケーション学会で話をしました
 2012.01.12 netCare~薬局でプライマリ・ケア(スイス)
 2012.11.12 100 Pharmacists Talking(Video・FIP)


2013年11月03日 11:03 投稿

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