高齢者に対する適切な医療提供の指針(案)(Update)

 “厚生労働科学研究費補助金 研究報告書”でググっていたら偶然出てきたパブリックコメントです。総務省がe-GOV で行われているものではないので、ほとんど知られていないようですが、私たちにも関連深い内容となっているので、紹介したいと思います。

「高齢者に対する適切な医療提供の指針」に関するパブリックコメントの募集
http://www.jpn-geriat-soc.or.jp/member/kaikai/jgs_pcm_geriatric_care_GL.pdf
(ファイルは日本老年医学会のサイトにある)

 今回意見募集が行われているのは、日本老年医学会、全国老人保健施設協会、日本慢性期医療協会および日本医師会の協力を得て、「厚生労働科学研究費補助金(長寿科学総合研究事業)「高齢者に対する適切な医療提供に関する研究(H22-長寿-指定-009)」研究班がまとめた、高齢者に対する適切な医療提供の指針」(案)についてです。

 指針(案)は、様々な医療現場の医療従事者が、高齢患者に対して適切な医療提供を行えるよう支援
することを目的として、高齢患者に対して医療提供を行う際に考慮すべき事柄について次のような7つの基本的な要件が示されています。

  1. 高齢者の多病と多様性
  2. QOL 維持・向上を目指したケア
  3. 生活の場に則した医療提供
  4. 高齢者に対する薬物療法の基本的な考え方
  5. 患者の意思決定を支援
  6. 家族などの介護者もケアの対象に
  7. 患者本人の視点に立ったチーム医療

 このうちの私たちとの関連の深い、第4項「高齢者に対する薬物療法の基本的な考え方」について以下に抜粋させて頂きます。

「高齢者に対する薬物療法の基本的な考え方」
・有害作用や服薬管理、優先順位に配慮した薬物療法を理解し、実践する。

  1. 高齢者では有害事象が起こりやすい。薬物動態や薬力学の加齢変化 を理解し、原則的に少量から薬物を開始し、薬物に対する反応・副作用をモニターしながら漸増する。多剤併用(特に6 剤以上)に伴って予期せぬ相互作用や薬物有害事象の危険性は高くなるため、可能な限り多剤併用は避ける。また、高齢者にとって有害事象を起こしやすい薬剤が知られており、それらの薬に関しては特に慎重に適用を考慮する。
  2. 認知機能の低下、巧緻運動障害、嚥下障害、薬局までのアクセス不良、経済的事情、多剤併用など薬剤療法に対するアドヒアランスを低下させる要因は多岐に渡る。服薬アドヒアランスについて、本人だけでなく家族や介護者からも定期的に情報を収集し、アドヒアランスを低下させる要因を同定し、予防・改善に努める。また、合剤の使用や一包化、剤形の変更など服用が簡便になるよう工夫する。
  3. 高齢者は慢性疾患や老年症候群を複数有していることが多いが、高齢者対象の診療ガイドラインは十分に確立されておらず、若年者対象の診療ガイドラインの適用により必ずしも良好な結果が得られないため、疾患や症状毎に薬物療法を行う考え方は必ずしも適切でない。個々の患者の疾患や重症度、臓器機能、身体機能・認知機能・日常生活機能、家庭環境を総合的に考慮し、患者と家族の目指す治療目標に応じて薬物の適用と優先順位を判断し、必要な薬物を選択し、優先度が低い薬剤は中止を考慮する。
  4. 代替手段が存在する限り薬物療法は避け、まず非薬物療法を試みるべきである。全ての薬剤(ビタミンや漢方薬、OTC なども含む)をお薬手帳などを用いて把握し、併用薬が不明な場合、原則的に新たな処方は避ける。薬物動態や薬力学の加齢変化、生活環境の変化によって、薬物が不要になる場合がある事を理解し、定期的に必要性を見直すべきである。

 研究班では、この指針は個々の疾患に対する診療ガイドラインに置き換わるものでは無いが、実際に治療する際に考慮するべき項目が示しているとしています。

 なお、この指針づくりの基になったのは、2010年度から3年かけて行われている、「高齢者に対する適切な医療提供に関する研究」という厚生労働科学研究です。

 2010年度の研究では、「老健と療養病床における処方薬剤と有害事象の関連について後ろ向き調査」(老健258例、療養病床213例を解析)。「老年病専門医に対して高齢者の経管栄養療法に対する実態調査」が実施され、興味深い結果が得られています。(報告書はかなりの分量となっていますが、とちらも実質的にはファイル5までです。)

高齢者に対する適切な医療提供に関する研究
(厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究 平成22(2010)年度)
http://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=201025026A

 また、2011年度の研究では、高齢者医療研修会参加医師を対象とした、「治療方針決定に影響する15項目の定量的アンケート」「薬物療法に関するグループワークのレポート分析」や、老人保健施設を対象に、「「慎重投与薬リスト」の導入の有効性を検討する施設単位のクロスオーバー無作為比較試験」が行われています。(全文の成果データベースへの掲載は年度内までには行われます)

高齢者に対する適切な医療提供に関する研究
(厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究 平成23(2011)年度)
http://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=201115020A
(今回の研究関連の論文・学会発表が数多くあったことがわかる)

 研究班ではこの指針案について、医療従事者のみならず広く一般から意見を募集したいとしていますので、皆さんも提出してはいかがでしょうか?(1月20日まで)

関連情報:TOPICS
 2011.12.08 高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン(試案)
 2011.12.08 健康長寿診療ハンドブック(日本老年医学会)

2013.04.03 リンク再設定し更新


2012年12月15日 23:34 投稿

コメントが3つあります

  1. >皆さんも提出してはいかがでしょうか

     触発されて?、提出しました。

  2. アポネット 小嶋

    記事拝見させて頂きました

    パブコメ募集:高齢者に対する適切な医療提供の指針。まずは読んでみる。
    (10しす 2012.12.28)
    http://tensis.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/post-4c51.html

  3. アポネット 小嶋

    正式版が(たぶん)先月24日に公表されています。

    「高齢者に対する適切な医療提供の指針」の発表について
    (日本老年医学会)
    http://www.jpn-geriat-soc.or.jp/proposal/sisin.html

    高齢者に対する適切な医療提供の指針
    http://www.jpn-geriat-soc.or.jp/proposal/pdf/geriatric_care_GL.pdf

    全文で、「本指針は、医療従事者が高齢患者に対して医療提供を行う際に考慮すべき事柄を整理し、基本的な要件を示したものである。本指針は主に医師が使うことを念頭に作成されたが、高齢者医療に関わる他の職種にも適用できる。」としながらも、本指針は個々の疾患に対する診療ガイドラインに置き換わるものでは無いとしています。

    記事で紹介した部分に変更はなく、指針全体でも行われたパブコメの結果がどの程度反映されたのかどうかは疑問が残るところです。

    高齢者に対する適切な医療提供の指針。正式版も欠陥品。
    (10しす 2013.04.03)
    http://tensis.cocolog-nifty.com/blog/2013/04/post-8b47.html