医薬品のリスクコミュニケーション(厚生労働科学研究)

  TOPICS  2012.03.22 に続き、最近全文がオンラインで読めるようになった2010年度の厚生労働科学研究の報告書の紹介です。

 今回紹介するのは、「国民および医療関係者との副作用情報にかかるリスクコミュニケーション方策に関する調査研究:副作用の効果的な情報伝達手法の検討」というもので、3年間の予定で行われている2年目の報告書です。 (2009年度分も掲載されています。こちらの方も興味深いです)

 患者さんへの医薬品情報(特に副作用について)の提供のあり方を考えさせられます。

 報告書全文は、下記サイトから見ることができます。(下記検索画面で、副作用情報または201034033Aというキーワードを入れ、検索をかけて下さい)

 厚生労働科学研究成果データベース検索トップ
   http://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIST00.do

 この研究は、日本における医薬品の安全性情報について、患者・消費者および医療職に対するリスクコミュニケーション(医薬品のベネフィットとリスクの科学的不確実性のバランス)のあり方を検討されているもので、2010年度の報告書では、マスコミ関係者、患者団体等の非医療者の協力も得て、さまざまな角度からこの問題について分析されています。以下概要について紹介します。

医薬品に関するリスクコミュヒニケーションの検討
欧州EMAおよび英MHRAの現状および取組に関する調査
(PDFファイル1-2)
EMA、MHRAを視察して、医薬品に関するリスクコミュニケーションに関する調査を行ったもの。患者向け医薬品説明書についても記されている。
EMAでは患者・一般市民への情報提供はリスクコミュニケーションの観点からホームページの改善が取り組まれており、特に承認から市販後まで時間的推移でみることが可能になっている。また患者・医療従事者間でその情報を共有できることも意識づけられている。(日本でもPMDAのHPがかなり工夫されているが、過去の添付文書の掲載など、時間的推移の把握は不十分)
MHRAでは、Drug Safety Update の情報がNHSのスタッフに配布しているBNF(医薬品集)に半年ごとに反映されている。
研究者らは、現在医療関係者向けに行われている使用上の注意の改訂などの情報について、もっとシンプルでわかりやすいものにすることや患者向けの安全性情報も同様に提供されることが望まれるとした他、現在全国の医療機関・薬局で提供されている薬の説明書について、一定以上の基準を満たしているかの調査や、ユーザーテストの実施などが必要だとしている。(私も同感。2011年度の報告書でこれについての調査がおこなわれているのかなあ?)
保険調剤薬局における調剤情報に基づくオセルタミビル適正使用に関する規制措置の効果の検討
(PDFファイル2-3)
PLos One 誌に掲載された論文(TOPICS 2011.12.21)の基となった調査です。
2007年3月にタミフルの10歳代への使用禁止という安全性確保措置が公衆衛生上十分に機能したかを調べています。
研究者らは10歳代患者の異常行動報告数の現象が見られたものの、9歳以下の小児の異常行動報告数が増加しているとして、10歳代のみとした措置に疑問を投げかけています。
患者に対する医薬品情報提供のあり方についてのアンケート調査
(PDFファイル3)
人間ドック受診者1707名を対象に行われたもので、薬の飲み方や副作用の経験の有無、医薬品情報提供のあり方について尋ねています。
副作用の経験者は18%で、対応法は医師に相談したが73%で薬剤師に相談したのは6%に留まり、インターネットで調べたが7%とこれを上回った。
医薬品の副作用について知りたいと答えたのは67%、情報についてほとんどが良い面も悪い面も隠さず公表することを望んでいた。
また、患者向け医薬品ガイドをリ利用したことがある人は2%(36人)だった。
(薬情の充実と服薬指導のよりいっそうの充実が求められているのでしょう)
医療関係者(薬局薬剤師)を対象とした医薬品副作用の情報提供についての意識調査
(PDFファイル3-4-5)
薬剤師924名を対象に行われた。PMDA等が発信する情報の利用状況や情報の提供方法などについての印象を調査。
PMDAの医薬品医療機器情報提供HP(サイドバー右上にリンクあり)を認知している薬剤師は82.3%だが、使用上の注意の改訂指示通知や患者向医薬品ガイドの実際の利用は3割程度に留まった。
48.4%が、処方薬の副作用に関する情報提供について不十分だと考えていた他、45.4%が患者・消費者とのリスクコミュニケーションに関しても不十分である考えていた。(やはり、何を基準にどこまで何を伝えるかがきちんと決まっていないことが大きいのでしょう)
製薬企業各社を対象とした副作用リスクコミュニケーションに関するアンケート調査
(PDFファイル5-6)
医薬品の副作用情報に関するリスクコミュニケーヨンについて、どのような考え方に基づき実施されているかについて、製薬協加盟の製薬企業勤務の安全性業務担当者を対象に調査。調査は進行中で、調査用紙が掲載されている。
感覚器障害者に対する情報提供手法の検討(視覚及び聴覚超会社に対する調査)
(PDFファイル6)
(薬関連ではありませんが)特定保健指導施設を対象にこれら障害のある人に対して健常者と同じように特定保健指導を行っているかどうかを調べた研究。実施しない施設が過半数に達した他、一部についてしか行わなかった施設も少なくなかった。
医療分野におけるリスクコミュニケーーションの社会経済的な影響の検討
(PDFファイル6)
報告書をご覧下さい
英国「Behind the Healine」が取り上げる健康・医学ニュース記事と日本との比較
(PDFファイル6)
本サイトでも時々紹介する英国NHS Choice を掲載する Behind the Healine の編集方針について説明した他、1か月間に掲載された記事の傾向と内容について、日本のメディアが伝える健康記事と比較したもの。
(研究者が指摘する通り、NHS Choicesなどに掲載される情報は研究の内容をわかりやすく知ることができる他、「Conclusion」の欄に研究の限界や実生活への適応についての見解が示されていて、医学研究をよりよく理解する手助けになっていて、日本でも公的なところがこういった情報の発信をする必要があると思う。執筆者の人選は大変だけど)

関連情報:TOPICS 2011.12.21 地域薬局の調剤データベースを用いたタミフルの研究


2012年04月15日 22:43 投稿

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