個人宅向け在宅対応に1回平均98分、フィーが見合うか?(国内調査)

日本総合研究所の持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けた研究チームが日本保険薬局協会の支援を受け、薬局薬剤師が個人宅向け在宅業務に要する業務負荷(時間的負荷と精神的負荷)についての調査結果をまとめ、18日に公表しています。

【日本総研 2025.08.18】
薬剤師の個人宅向け在宅業務実態に関する大規模調査
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/column/opinion/pdf/20250818_kawafune.pdf
https://www.jri.co.jp/column/opinion/detail/16039/

調査は今年6月に行われ、2025年5月分について、NPhA事務局を介して、日本保険薬局協会正会員である地域連携薬局に所属の薬局内で個人宅向け在宅業務に最も携わっている薬剤師(各施設1名)を対象に行われ、886名が回答しています。

調査の結果の一部を紹介します

  • 回答施設の立地で多かったのは、診療所前(38.6%)、次いでモール型(15.2%)
  • 疾患別で多かったのは、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの慢性疾患
  • 薬剤師1人がひと月に訪問した回数は平均11.4回(中央値は7回、100回超も)
  • 薬剤師1人がひと月に訪問した実患者人数は平均5.5人(中央値5人)
  • 夜間の訪問があったことのある薬剤師は全体の18%で、休日は6.9%、深夜は873人中2件にとどまった
  • 主治医の求めで緊急訪問をしたことがあった薬剤師は26.4%で、月に11回以上と答えた人も1.1%いた
  • 月4回の上限や、中6日以上空けられなかったために、薬剤師の3割が指導料を算定ができていない訪問があったと答えた
  • 地域ケア会議・サービス担当者会議への出席した薬剤師は27.2%、地域ケア会議に出席した薬剤師は11.0%、退院時カンファレンスへ出席した薬剤師は1.9%だった
  • 「平均的な業務時間であったと思われる患者1名」を対象に尋ねたところ、9.2%が往診同行したと答えた
  • また、この対象患者について、1訪問にかかる在宅業務の作業時間を尋ねたところ、平均98分の作業時間を要していることが明らかになった。
    • 訪問調整や事務連絡・問い合わせにかかる時間(8分)
    • 調剤業務にかかる時間(24分)
    • 移動にかかる時間(25分)
    • 患者や患者家族とのコミュニケーションや、薬学的管理業務にかかる時間(16分)
    • 在宅訪問の報告書作成時間(11分)
    • 訪問に紐づく、多職種とのコミュニケーションの時間(6分)
    • 訪問に紐づかない、多職種とのコミュニケーションの時間(8分)

これは、厚生労働省タイムスタディ調査における「薬局における処方箋1枚の処理時間」の12分41秒の約8倍にあたる

  • これらを考慮し、収益について推計したところ、薬剤師1人が1時間の在宅業務で得る収益は4,715円に対し、薬剤師1人・1時間換算した給与費4,890円で、給与費以外に様々な費用が発生していることを踏まえると、在宅業務では大きな赤字が生じていると考えられる

一方、自由記述で尋ねたところ

  • 在宅業務を行ううえで、効率が悪いと感じている業務としては、
    患者の個人宅往訪のための移動時間、訪問時に患者(家族)が不在なための待ち時間、報告書等の作成などの声が多くあがった
  • 在宅業務を行ううえでの課題としては、
    緊急時や時間外対応における人員確保、他職種(医師、ケアマネ等)との連携・情報共有、患者とのコミュニケーション(電話に出てくれない、訪問しても鍵を開けてくれない、暴言・セクハラなど)、外来業務との両立などの声が多くあがった

在宅医療の推進に向け、薬剤師の果たすべき役割の拡大に対する期待は高まっていますが、一方で、厚労省の技官からは、「調剤報酬の中で在宅にどこまで費用投入するかが今後の課題」との指摘があり、8倍もの時間的リーソースがとられるのなか、外来と在宅の技術料バランスをどうするかが今後重要な検討事項となりそうです。

【厚労省・安川薬剤管理官】調剤報酬の在宅評価課題‐「漫然算定では適正化に進む」
(薬事日報 2024.03.18)
https://www.yakuji.co.jp/entry109039.html

一方で、私が知る限りでは、海外で日本のような community pharmacy の薬剤師による在宅業務は限定的です。

一部ニーズが高い高度調剤についても、海外では専門の業者が直接配送しているパターンが一般的なようです。

豪州では高齢者施設に薬剤師を直接配置する(→TOPICS 2025.08.16)など、在宅患者の対応に薬剤師の関与が必要であることは確かですが、医療介護の限られた財源と人的リソースを考えた時、対象患者をどうするかなども今後は考える必要があるかもしれません。

今後、この調査や分析を踏まえ、薬局薬剤師および保険薬局がさらなる価値提供を行えるようにするための提言等が行われるとのことですが、チェーン薬局が効率的に取り組んでも採算がギリギリで、現場の負担が大きいということなら、制度設計の見直しだけでなく、リソースを投入してまで薬剤師による在宅業務をさらに推進すべきなのか、費用対効果も含めて検討する必要があるのではないかと思っています。


2025年08月21日 10:48 投稿

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