マラソン前の鎮痛薬の予防的使用は臓器にダメージを与える

 スポーツファーマシスト必見の報告です。スポーツ選手の間で、鎮痛薬が広く常用されていることは以前紹介(TOPICS 2012.06.06)しましたが、マラソン大会の参加者を対象にレース前の鎮痛薬の使用と、レース中及びレース後の体調の異常との関連性を調べた研究結果が、BMJ Open 誌のオンライン版に掲載されています。

Consumption of analgesics before a marathon and the incidence of cardiovascular, gastrointestinal and renal problems: a cohort study
BMJ Open Published Online 19 April 2013)
http://bmjopen.bmj.com/content/3/4/e002090.full
http://bmjopen.bmj.com/content/3/4/e002090.full.pdf

 以前のバージョンに、質問票やより細かいデータがあります。(こちらもかなり興味深い)

Previous versions
http://bmjopen.bmj.com/content/3/4/e002090.draft-revisions.pdf

 この研究は2010年に開催されたボンマラソン(たぶん市民マラソン)の参加者7,048人を対象にアンケート調査(回答数4,268人、回答率60.6%)の形で行われたもので、研究者らは年齢や鎮痛剤の使用の有無の記入のないものなどを除外した3,913人のデータを解析しています。

 研究者らは血尿や消化管出血、心血管イベントなどの有害事象をアウトカムとして、次のようなことが分かったそうです。

  • 参加者の49%が何らかの鎮痛剤を使用していた(女性の方が61%と多く、またフルマラソンの方が59%と多かった)
  • 最も多く使われたのはジクロフェナク(47%)で、イブプロフェン(37.3%)、アスピリン(7.3%)、その他(ナプロキセン、メロキシカム、セレブレックス、アセトアミノフェンなど)と続き、入手ルートが分かった1083人中1041人はOTCだった(服用者全体の54%に相当)
  • 用量は、ジクロフェナク100mg、イブプロフェン800mgなど高用量を使用していた人も少なくなかった
  • マラソン時の鎮痛薬の使用のリスクについて知らないと答えた人が回答者の93%を占めた
  • 鎮痛薬をレース前に使用した場合のレース中またはレース後の有害事象の発症率はマラソンで18%、ハーフマラソンで7%で、マラソン群の方が高かった
  • 鎮痛薬使用による有害事象のオッズ比は5.1(95% CI 3.9-6.7)で、マラソンでのオッズ比9.04(95% CI 5.31-15.39)は、ハーフマラソンのオッズ比3.20(95% CI 2.32-4.42)より高かった
  • 種類別ではアスピリンやイブプロフェンが高く、特に高用量を使用したケースでは特に高くなった
  • 有害事象のイベントは、普段定期的に鎮痛薬を使用していることとの関連性はなかった
  • 腎不全3例(いずれもイブプロフェン服用例)を含む、入院が必要となった重篤な事例が9例あった

 研究者らは、普段プロスタグダンジン類によって保護されている臓器組織が、NSAIDsのシクロオキシナーゼ阻害作用によってダメージとなったとして、マラソンのレース前・レース中のこれらの使用は避けるべきことが示唆されたとして、持久力が求められるスポーツの試合前及び試合中に鎮痛薬を用いることは深刻な健康問題をもたらす可能性があるとしています。

 日本でも、OTC鎮痛薬(特にNSAIDs)は気軽に入手できます。海外より承認量(常用量)が少ないとはいえ、運動による痛みを防ぐためにあらかじめ多めに服用するということがあるかもしれません。これは、大変リスクを伴っている可能性があるということであり、日本においてもまず現状についての調査が必要ではないかと思いました。

関連情報:TOPICSTOPICS
2012.06.06 サッカー選手と鎮痛薬の使用
2012.12.08 運動前のイブプロフェンの服用は小腸にも有害(海外研究)

関連記事:
Painkillers taken before marathons linked to potentially serious side effects
(Eurek Alert! 2013.04.19)
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2013-04/bmj-ptb041913.php
Marathon runners may risk health by taking painkillers, researchers find
(The Gardian 2013.04.19)
http://www.guardian.co.uk/lifeandstyle/2013/apr/19/marathon-runners-health-painkillers-researchers
Taking painkillers before a marathon may be harmful
(WebMD UK 2013.04.20)
http://www.webmd.boots.com/fitness-exercise/news/20130420/painkillers-before-marathon-harmful
Analgesic use before marathons can be damaging
(PJ Online 2013.04.19)
http://www.pjonline.com/news/analgesic_use_before_marathons_can_be_damaging

23:50リンク追加


2013年04月20日 14:34 投稿

コメントが2つあります

  1. アポネット 小嶋

    J-stage で検索したらありましたね。

    運動後急性腎不全
    (日本内科学会雑誌 Vol. 94 (2005) No. Suppl P 97)
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika1913/94/Suppl/94_Suppl_97/_pdf

    この急性腎不全症候群は、日ごろ健康な若い男性が風邪気味で鎮痛薬を服用後、運動会や体育に参加して、短距離を全力疾走した後に発症する。患者は運動会当夜に激しい背腰痛 を訴え、しばしば救急外来を受診するので、尿路結石であるとか、悪心・嘔吐も伴うので急性腸炎、ときに急性膵炎、腰椎ヘルニア誤って診断される。

    同じ著者でさらに詳しいのが、

    運動で生じる急性腎不全
    (日本内科学会雑誌 99(5) p970-976,2010)
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/99/5/99_970/_article/-char/ja/
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/99/5/99_970/_pdf

    運動前に解熱鎮痛薬の服用30%、かぜ気味も42% みられ、これらは低尿酸血症とともに、発症の促進因子である。

    「運動会後数日間背腰痛があったなあ」ということで、診断されずに見過ごされ自然治癒している例が相当多いと考えられる.運動後急性腎不全(ALPE)の患者が疼痛を訴え救急外来を受診しても,安易に鎮痛薬NSAIDを投与してはいけない。

    急性腎不全の発症には脱水が重要な因子となるので、マラソンなんかは一番危険かも。

    これも同じ著者です。

    運動後急性腎不全(ALPE)
    (Gout and Nucleic Acid Metabolism 34(2)p145-157,2010)
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/gnam/34/2/34_145/_article/-char/ja
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/gnam/34/2/34_145/_pdf/-char/ja

    これも関連しますね。

    腎性低尿酸血症(難病情報センター)
    http://www.nanbyou.or.jp/entry/756

    運動会シーズン、風邪気味だからと風邪薬などを飲んで当日頑張ってしまうと、とんでもないことになることがあるんですね。

    OTC販売時も要注意ですね。

  2. アポネット 小嶋

    Eurek alert! の翻訳記事です。

    マラソン時の鎮痛剤の副作用
    (LINK de DIET 2013.04.22)
    http://www.nutritio.net/linkdediet/news/FMPro?-db=NEWS.fp5&-Format=detail.htm&kibanID=39749&-lay=lay&-Find