抗精神病薬と静脈血栓症リスク(英MHRA)

 MHRA(英国医薬品庁)は、3日公表された“Drug Safety Update newsletter”と“Public Assessment Report”で、抗精神病薬の使用により、venous thromboembolic(VTE:静脈血栓症)のリスク増加が否定できないとした見解を発表しています。

Drug Safety Update: Volume 2 Issue 11, June 2009(MHRA)
http://www.mhra.gov.uk/Publications/Safetyguidance/DrugSafetyUpdate/CON049070

MHRA Public Assessment Report: The risk of venous thromboembolism associated with antipsychotics – June 2009 (MHRA PDF:636KB、全37ページ)

 VTEは、下肢に深部静脈血栓症(DVT:deep vein thrombosis) を発生しやすく、しばしば肺塞栓症(PE:pulmonary embolism)の原因となります。

 MHRAでは、1963年7月から2008年6月までにイエローカード副作用報告システムなどを通じて寄せられた、抗精神病薬の使用との関連が疑われる303例のDVT、PEの報告(因果関係の特定はさまざまな要因がからみあい、難しい)と、抗精神病薬とVTEの関連を記した11の論文を分析をおこなっています。

 “Public Assessment Report”によれば、303例の内訳は、DVTが107例、PEが146例、併発が50例となっています。また、薬剤のタイプは大部分が非定型(271例)で、うちクロザピン(クロザリル:本邦では近く発売)が186例と非定型の69%を占め、オランザピン(ジプレキサ)35例、リスペリドン(リスパダール)33例などが続いています。

 さらに“Public Assessment Report”では、日本からの報告を含む関連の論文を概説していますが、これら論文はretrospective研究であり、母集団などが異なるなどのためにメタアナリシスが行えないとして、抗精神病薬とVTEとの関連性は結論付けられないとしています。

 また、発現のメカニズムですが、はっきりとわからないとしながらも、血小板凝集の関与を示唆しています。

 これらを踏まえ、MHRAでは医療専門職に対して下記の様なアドバイスを行うとともに、EUで発売される全ての抗精神病薬について、製品情報で注意を呼びかけるとしています。

  • 抗精神病薬の使用とVTEのリスク増加が関連している可能性がある
  • 現時点ではデータが十分ではないため、従来型と非定型の薬剤との間に差違があるかどうかは不明
  • 抗精神病薬の治療前及び治療中は、VTEの考えられる全てのリスクファクターを確認と予防対策がとられるべきである

 MHRAへの報告は、比較的若い人に多くなっていますが、近年報告されている認知症患者が抗精神病薬を使用して死亡リスクが高まるというのも、もしかしたらVTEと関連があるのかもしれませんね。

 EUでは、クロザピン、オランザピン、アリピプラゾール(エビリファイ)については、すでにVTEについての警告文がありますが、日本では、クロザリルに記載があるだけのようなので、私たちも把握しておいたほうがよいかもしれません。

クロザリル添付文書(ノバルティス社)
 http://www.novartis.co.jp/product/clo/pi/pi_clo.pdf

資料:Antipsychotic drugs(MHRA)

参考:
MHRA Drug Safety Update: Antipsychotics and risk of venous thromboembolic events(National electronic Library for Medicine 2009.6.4)
深部静脈血栓症(メルクマニュアル家庭版)
 http://mmh.banyu.co.jp/mmhe2j/sec03/ch036/ch036b.html
医学大事典(医学書院)


2009年06月05日 14:33 投稿

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