医薬品が車の運転に与える影響

眠気や集中力の低下など、車の運転に精神神経系に影響を与える薬剤は少なくありませんが、薬剤毎にどの程度注意すべきかについては日本ではあまり整理されていないのが現状です。

たまたまNHKのBS海外のニュースで、この問題が報じられていて、スペインではすでに多くの薬剤がリストアップされ、くすりのパッケージにはピクトグラムで「服用後は運転を避ける」ことがはっきりわかるようにされていると報じられていました。(実際にはこの表示を軽視して、事故を起こす人も少なくないようですが)

このニュースちょっと気になったのでWEBで検索したところ、欧州では、リスク別にリスト化するなどの総合的な取り組み(The Integrated Project)が既にすすめられていることがわかりました。

この取り組みは、DRUID (Driving under the Influence of Drugs, Alcohol and Medicines)といい、薬剤やアルコールの車運転に及ぼす影響などを検討し、2010年までに交通事故対策のためのガイドラインを作成するというもので、欧州19か国の関係団体が参加しています。

DRUID http://www.druid-project.eu/

このプロジェクトの中には、7つの作業部会があり、その一つに“Work Package 4 – Classification”(→リンク)というものがあります。

この部会は、スペインの Valladolid 大学が中心となってすすめられているもので、医師・薬剤師などの医療専門職、及び患者向けに、運転能力に影響のある医薬品の分類とくすりと運転に関するラベリングのあり方が検討されています。

欧州では1999年にベルギーが分類リストを発表したのに続き、2000年にフランス(現在は2005年更新版)、2002年にはスペインが相次いで作成した他、ドイツ、ポルトガルなどでも医薬品の分類が行われています。そして、2006年にはICADTS (International Council on Alcohol, Drugs and Traffic Safety)(http://www.icadts.nl/)が、ベルギー、フランス、スペインの分類を参考に389の物質(成分)について分類を行っています。

Categorization System for Medicinal Drugs Affecting Driving Performance(ICADTS)
http://www.icadts.nl/medicinal.html

ICADTSでは、リスクに応じて次の3つに分類しています。(下記表は、日本で販売されているものを中心に抜粋、原本でご確認下さい)

CategoryI:Presumed to be safe or unlikely to produce an effect
(安全または影響はないと思われる

CategoryII:Likely to produce minor or moderate adverse effects
(軽度又は中程度の有害事象が起こる可能性がある)

CategoryIII:Likely to produce severe effects or presumed to be potentially dangerous
(深刻な有害事象の発生や潜在的な危険が予期される)

抗ヒスタミン剤 眠剤・抗不安薬・抗精神病薬・抗うつ薬 その他
I ロラタジン、アゼラスチン、エバスチン、フェキソフェナジン、 SSRI(パロキセチン、フルボキサミン他)、メチルフェニデート、ペモリン シメチジン、ラニチジン、ロキサチジン、アルピレノロール、ソタロール、アテノロール、アセブトロール、ラベタロール、NAIDs(ジクロフェナク、イブプロフェン他)、エルゴタミン、セレギリン、デキストロメトルファン、ノスカピン
II クロルフェニラミン、カルビノキサミン、フェニラミン、シプロヘプタジン、メキタジン、オキサトミド、セチジリン、ケトチフェン ソルピデム(服用後10時間以内)、メダゼパム、クロナゼパム、プラゼパム、クロキサゾラム、フルフェナジン、ペルフェナジンハロペリドール、ブロムペリドール、クロザピン、クエチアピン、スルピリド、リチウム、リスペリドン、デシプラミン、イミプラミン、クロミプラミン、 ファモチジン、ニザチジン、メトクロプラミド、インスリン、ピンドロール、プロプラノロール、ナドロール、メトプロロール、カルベジノール、オキシコドン、ジヒドロコデイン、コデイン、5HT1偏頭痛治療薬(スマトリプタン、ソルミトリプタン他)、エトクスシミド、クロナゼパム、カルバマゼピン、バルプロ酸、ラモトリジン、トピラマート、ガバペンチン、トリヘキシフェニジル、アマンタジン、ドパミン作動薬(ブロモクリプチン、ペルゴリド他)、ドネペジル、
III ジフェンヒドラミン、クレマスチン、アリメマジン、プロメタジン、ヒドロキシジン(BZ系) ジアゼパム、クロルジアゼポキシド、ロラゼパム、アルプラゾラム、クロチアゼム、バツビツール類、ベンゾジアゼピン系眠剤、クロルプロマジン、レボメプロマジン、ペリシアジン、ロキサピン、アミトリプチン、アモキサピン、ミアンセリン、トラゾドン フェンタニル、モルヒネ、フェノバルビタール、プリミドン、フェニトイン、メプロバメート

一方、フランスでは、分類リストに加え次のようなステッカーを作成し、外箱への表示も義務づけています。(スペイン、オランダ、ノルウェー、デンマーク、フィンランドにも同様のものがあるようです)

Be careful. Do not drive without having read the leaflet.
Be very careful. Do not drive without advice of a medicalprofessional
Attention: danger: Do not drive.

こういった情報は日本でも必要だと思うのですが、商業的に利用されることを避けるために公表したがらないのかもしれません。

しかし、OTCなどにもこういった成分が数多く含まれていることを考えると、フランスのように外箱にはっきりとわかるようにすることも必要ではないでしょうか。

なお、作業部会では欧州各国の取り組み状況について、下記のレポートでまとめています。

Review of existing classification efforts(DRUID)
リンク(PDF:1083KB。2008.2更新版)(リンク切れ)
最終版(Deliverable 4.4.1 2011.7.21)

関連情報:
第二類医薬品に分類される第一世代抗ヒスタミン剤の危険性:認知・記憶機能、運転に対する影響
(内科開業医のお勉強日記 2009年6月7日)
http://intmed.exblog.jp/8364866/
抗ヒスタミン剤の販売、服用に注意喚起
(薬局のオモテとウラ 2009年6月7日)
http://blog.kumagaip.jp/article/29662466.html

参考資料:
 DRINKS AND DRUG EXPERINCE ROAD SAFETY AND LICENSING IN SPAIN
 http://www.icadts.org/T2004/pdfs/208.pdf
 Medicinal drugs and traffic safety: the Spanish experience
 http://tiaft2006.slonic.net/proceedings/pdf/MD-05.pdf
 http://www.tiaft2006.org/proceedings/pdf/MD-05.pdf
 An overview of the existing drugs and driving categorizations
 http://www.icadts2007.org/print/90overviewexistingdrugs.pdf(リンク切れ)

2012.12.17 最終版へのリンク追加 2013.11.20 リンク確認


2009年06月10日 16:02 投稿

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