軽度の疾患に対しての薬剤師処方はどのような影響をもたらしたか(加オンタリオ州)

カナダのオンタリオ州では、2023年に軽度の疾患に対して処方箋を発行できるようにした薬剤師の処方権限を拡大する政策実施政策が開始されています。

この研究は、この政策が薬局への来局数にどのような影響を与え、医療機関間の患者の流れや薬剤の代替にどのような影響を与えたかを検討したものです

【J Health Econ. 2025 Aug 9.】
Prescribing power and equitable access to care: Evidence from pharmacists in Ontario, Canada
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0167629625000864

オンタリオ州では2012年から非常に限定された範囲で、薬剤師による処方が開始。

2023年1月には、処方権限の拡大を規定する法律が施行され、薬剤師が13の軽症疾患に対して直接薬を処方できるようになりました。

この権限拡大の目的は、回避可能な救急外来受診を減らし、医師がより複雑な治療に集中できるようにすることで、最終的に患者が軽症疾患に対してタイムリーなケアを受けられるようにすることにありました。

この研究はAdvan の歩行者データを使用して、薬局を訪れたり、医療機関を受診するパターンを検討したものです。

その結果、この薬剤師の処方権限を拡大する政策実施直後、救急外来への受診者数は9%減少した一方で、薬局への来店者数は平均16%増加するとともに、そのうちの1/4が受診勧奨などにより、医療機関を受診するとした結果が得られたそうです。

研究者らは、薬局で相談を受けることが医師の診察を減らしたり、患者の健康を危険にさらしたりするものではなく、救急外来のスペースをより重篤な症例のために有効に活用できることを示唆しています。

また、軽症の健康問題に対するケアを薬局を通じて利用できるようにすることで、特に低所得地域に住む人々にとって、医療へのアクセスを真に向上させることにつながるともしています。

さらに、業務範囲の見直しは単なる利便性の問題にとどまらず、医療へのアクセスに新たなバランスをもたらし、これまで医療を受けるのに苦労していた人々に、より身近な形で医療を提供できるようになることが示されたともしています。

この論文を紹介した下記記事によれば、

Empowering pharmacists is about more than saving emergency departments – it’s about equity in health care
(Health Debate 2025.10.07)
https://healthydebate.ca/2025/10/topic/empowering-pharmacists-saving-emergency-departments/

さらに、業務範囲の見直しは単なる利便性の問題にとどまらず、医療へのアクセスに新たなバランスをもたらし、これまで医療を受けるのに苦労していた人々に、より身近な形で医療を提供できるようになることが示されたとしています。

つまり、地域薬剤師が医療政策として軽度疾患にしっかり対応する仕組みを作ると、医療システムへの負担を減らすだけではなく、さまざまな理由で医療にアクセスあまりできなかった人たちを必要な医療につなげる効果もあるということなのでしょう。

この論文をXで紹介したところ、フォロワーの方からはこういう意見を頂きました。

そういうことだと思います。
同時に、薬局にそうした機能を持たせるためには、地域薬剤師を『自律的・主体的に行動する医療従事者』として扱う必要があります。
日本でありがちな、
『薬剤師は薬を販売・交付し、説明をする人』
『販売時の制限や注意喚起の方法は厚労省が決める』 では、患者にも薬剤師にもそうした意識が芽生えにくいです。

かかる前薬局としては実感します。アクセスできていない方がどれほど多いか…アクセス出来ている人だけに丁寧に医療を提供するのも大切ですが…

日本で同じことをするには、法的なものだけではなく、まだまださまざまな課題がありそうですね

これを踏まえ、この記事では、今回の研究結果を踏まえ、政策立案者と医療リーダーにとっての次の明確な優先事項が4つあるとしています。

  1. 業務拡大についての広報を重点的に行う
    公共キャンペーンでは、これらの政策が持つアクセス格差の縮小効果を最大限に活用する必要がある
  2. 薬剤師をプライマリケアチームに組み込む
    薬剤師が処方記録をかかりつけ医や他のプライマリケア専門家と共有できるようなコミュニケーションシステムを構築すべき
  3. 慎重かつ意欲的に業務範囲を拡大する
    特にアクセス格差が最も大きい地方や医療過疎地域においては、対象疾患を拡大することが有益である可能性がある
  4. 利用状況だけでなく、成果も評価すべきである
    今の研究では、患者の転帰、満足度、費用対効果を測定し、その効果が単なる理論上のものにとどまらないことを確認すべきである

2023年1月のプログラム開始以来、薬剤師によるアセスメントは180万件以上に達し、地域薬局のほぼ100%がこのプログラムに参加。

そして、2025年9月にはこれまでの19の健康問題に加え14の病気について処方権を付与するすると発表する政策を発表しています。(→TOPICS 2025.09.20

調べたところ、この案に対しての意見募集も行われていて、Ontario College of Pharmacists ウェブサイトには、案に寄せられたさまざまな意見を公開していました。
(テキスト化されていますので簡単に読めます。もちろん多くの厳しい反対の意見もありました)

Public Consultation on Expanded Scope of Practice
(Ontario College of Pharmacists)
https://ocpinfo.com/consultation/public-consultation-on-expanded-scope-of-practice/

一方、この研究結果について、薬剤師の処方権限を拡大が有効だったかを疑問視する記事も目に留まりました。

Pharmacists prescribing rules fail to deliver: study
(Canadian Affairs 2026.03.16)
https://www.canadianaffairs.news/2026/03/16/pharmacists-prescribing-rules-fail-to-deliver-study/

その理由として、軽度の疾患の診察と処方には煩雑な書類作成を伴うことから、軽度の疾患を訴える患者は、受診勧奨を進める方がはるかに簡単な場合が多いとの現場の声もあるからだとしています。

一方、薬剤師による処方は、利益相反の問題もあります。

2023年3月に、カナダ病院薬剤師会誌による論説には前向きにとらえるべきとした意見も掲載されていました。

Pharmacy First
(Can J Hosp Pharm. 2023 Mar 1;76(2):83–84)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10049762/

カナダにおける薬局業務は、単なる技術的な調剤業務から、より臨床的かつ知的な役割へと変化しつつある。

これは、特に先進国を中心に、他の多くの国々における業務の変化と類似している。

こうした変化の度合いが国によって異なるのは、薬剤師の教育内容の違いを反映している可能性があるが、カナダのような単一の国内における差異については、必ずしもそうとは限らない。

つい最近まで、処方と調剤の機能を一般的に分離することは、潜在的な利益相反や処方ミスが患者に及ぶ可能性を排除し、患者にとって重要な安全策として評価されてきた。

しかし、処方における薬剤師の役割拡大に向けた動きが徐々に進んでいる。

“prescribe”(処方する)という言葉は、一般的に「薬剤師が調剤する第一種規制薬物の処方箋を書く」という意味で理解されているが、一般用医薬品(OTC)の処方を行ってきたともいえる。

薬剤師の処方権限を拡大する第一歩は、これまで第一種規制薬物であった多くの薬が規制緩和され、市販薬として入手可能になったことだった。

評価の結果、薬剤師が処方または推奨できる、しばしば強力な作用を持つOTC医薬品の数が着実に増加していることは、安全であると同時に、一般市民からも広く受け入れられていることが示された。

この役割の拡大により、医薬品に関する薬剤師の専門知識に対する一般市民の認識が高まっている。

どうでしょう、地域薬剤師が医療政策として軽度疾患にしっかり対応する仕組みづくりが医療政策として有用であるというエビデンスが少しづつ示されてきているように思います。

関連情報:TOPICS
2025.09.20 薬剤師に処方権が付与される33の病気と症状(加オンタリオ州)
http://www.watarase.ne.jp/aponet/blog/20250914.html


2026年03月17日 15:16 投稿

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