ITを活用した地域医療情報ネットワーク(山形県)

 検査データや処方薬の情報などの医療情報について、ITを活用して医療機関同士で共有するという取り組みは、補助金などを受けて限られた地域では既に行われていますが、このほど山形県では、県全体で取り組む計画案を発表しています。

 この取り組みは、「地域医療情報ネットワーク(仮称・やまがた医療連携ネットワーク)」の整備基本計画(案)といい、同県のホームページでこのほど公表され、6月15日までこの基本計画案へのパブリックコメントが行われています。(パブリックコメント終了後は下記ページはリンク切れになる可能性があります)

「山形県地域医療情報ネットワーク整備基本計画」(案)についての意見募集(山形県)
 http://www.pref.yamagata.jp/pickup/public_comment/6090001ijnwkkanpc.html

山形県では、現在の地域医療の課題として、

  • 現在の各医療施設における個々のサービス提供を中心とした手法では、多様化する患者ニーズに十分対応することは困難
  • 利用するそれぞれの医療施設において、待ち時間や一からの病状説明が生じるなど、患者の負担が大きい。
  • 重複検査や薬の重複投与などにより、県民・患者の身体的負担や医療費負担が過剰になる場合がある。
  • 不十分な併用禁忌1チェック、病名と薬のミスマッチなどが生じるおそれもある。
  • 他の医療施設における病状と、患者の現在の病状とを比較するのに技術的制約があり、主に患者の訴えと現在の検査結果で診察・診断を行うことになるため、効果的に医療を提供できない場合もある。
  • 医療機関間の情報伝達として、電話、FAX等を中心にした従来の手法には限界があり、検査情報、画像情報等に関して紙やフィルムを用いた手法では、迅速に行うことは困難で情報連携の範囲も限られる。
  • 医療機関において蓄積された医療情報が、地域全体で有効に活用されておらず、県民・患者のさまざまな負担軽減に還元されていない

などを挙げ、中核病院とかかりつけ医・調剤薬局などの連携強化に向け、ITを活用した、複数の病院・診療所がカルテなどの医療情報を共有できるネットワークの構築が必要だとしています。

医療情報・共有参照機能
  • 医療機関が有する医療情報を、地域の各施設で共有・参照する機能
  • 各地域の基幹病院、医師会等の現状を踏まえ、地域の実情に合わせて、すべての地域で実現
  • アレルギー・病名等に患者基本情報、画像検査・検体検査等の情報、薬の処方情報 などを共有・参照する

 上記イメージ(基本計画案より引用)には薬局が含まれていませんが、基本計画案には「医療機関と調剤薬局において調剤情報を共有し、処方、薬歴について一貫性を持って、効率的に管理することが可能になり、医療の安全性の向上につながる」と記されており、薬局=診療所と解釈してよいものとものと思います。

 山形県では、上記のような形での医療情報の共有が行われることで、

  • 他の医療機関等で受診した際のアレルギー情報や病歴等の情報を共有・参照することで、患者の訴えから漏れた情報についても把握が可能となり、安全性が向上する。
  • 他の医療機関等にて処方された薬、検査内容を迅速に把握することにより、重複投与や併用禁忌、重複検査(画像診断を含む)を未然に防ぐことができる。また、災害等の緊急時において投薬状況の把握が容易になり、継続した投薬が可能となる。
  • 調剤薬局と調剤情報(疑義照会や後発医薬品への変更した情報)を共有することにより、医師が処方した薬歴と、実際に患者が処方されている薬歴の“ズレ”を解消することが可能となり、処方に関する安全性が向上する。
  • 他の医療機関等における投薬や検査の状況まで把握することができるため、重複投与、重複検査を防ぐことにより、県民の医療費負担軽減にも寄与する。
  • 地域連携クリティカルパスを運用する上で、医療機関等との間での切れ目のない医療提供が可能となることに加え、効果の解析が容易になることから、パスの高度化に寄与する。
  • ヒヤリ・ハット、未遂事故(インシデント)、医療事故(アクシデント)等の情報の分析・共有を行うことで、各医療機関における医療安全対策の立案・実施を効率的に行うことができる。

などのメリットがあるとして、将来的には福祉事業所や救急なども幅広くネットワークに参加する形を目指したいとしています。

 また、ネットワークに参加する施設の状況をみて、各医療施設に点在する処方情報を元に、重複投与や併用禁忌等を自動的にチェックし、医療事故等を未然に防止するとともに、薬剤にかかる県民・患者の医療費負担の抑制につなげる「処方チェック機能」の運用も検討しているとのことです。(2012年度以降)

 参加する施設の費用負担や情報のセキュリティー対策などに課題が想定されるものの、2次医療圏ごとに医師会などと検討を進め、まずは医療情報を共有するシステムについて、2010年度までに庄内医療圏で、2012年度までには山形県全域での実現を目指しているとのことです。

 おそらく山形県の取り組みがモデルとなり、10年〜20年後にはITを活用した地域医療が全国に広がっていくことが予感されます。

 患者さんの利便性のためには中核病院近くに薬局の整備が必要という市長もいます(TOPICS 2009.06.01)が、多くの人が自宅の近くなどにかかりつけ薬局を持ついう時代も近いのかもしれません。

 山形県では三師会で共同で「お薬手帳」を作成(→山形県薬剤師会HPにリンク)するなど、薬の情報の共有がすすんだ県ですが、このネットワークが構築されたときに、果たして「お薬手帳」はどのような姿に変わるでしょうか。

参考:山形新聞6月3日
 http://yamagata-np.jp/news/200906/03/kj_2009060300053.php


2009年06月04日 14:51 投稿

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