地域における在宅医療の進展状況(日医総研・都調査)

 日医総研はこのほど地域における在宅医療の進展状況に関する調査をまとめたワーキングペーパーを公表しています。

地域における在宅医療の進展状況に関する調査
-「在宅医療の進展状況に関する調査(郡市区医師会調査)」の報告-
(日医総研ワーキングペーパー No.232 2011 年4 月26 日)
要旨:http://www.jmari.med.or.jp/research/summ_wr.php?no=456
本文:http://www.jmari.med.or.jp/research/dl.php?no=456

 この調査は、全国の郡市区医師会における在宅医療の整備体制や、実施状況等の現状の他、各医師会において、特に地域医療に効果がみられた在宅医療に関する事業を把握し、在宅医療における郡市区医師会の関わり方やあり方等について検討を行うために行われたもので、全国920郡市区医師会のうち、大学・職域・その他の医師会等を除いた全国の818郡市区医師会にアンケート方式で調査が行われています。(有効回答数569医師会、有効回答率69.5%)

 調査項目には、管下(地域医師会)における在宅医療の基盤の進展状況として、私たちとも関係がある「在宅かかりつけ医と保険調剤薬局との連携」という項目について尋ねていて、その結果は

  • かなり進んでいる・・・・・・24医師会(4.3%)
  • やや進んでいる・・・・・・・156医師会(27.7%)
  • あまり進んでいない・・・・221医師会(39.3%)
  • ほとんど進んでいない・・107医師会(19.0%)
  • わからない・・・・・・・・・・・・55医師会(9.8%)

と、一定の連携が見られるのは全国で3割程度の地域しかないことが明らかになっています。

 また、薬局との連携を含むものではありませんが、

  • 「地域連携パスの普及」・・・・・・・・・かなり・やや進んでいるが、117医師会(20.8%)
  • 「退院時カンファレンスの開催」・・・かなり・やや進んでいるが、102医師会(18.1%)
  • 「在宅医療に関する連絡協議会の設置・支援」・・かなり・やや進んでいるが、126医師会(22.3%)

といずれも2割程度しかすすんでいないことが明らかになっています。

 さらに、WPの後半にはさまざまな事例が取り上げられています(地元でも年1回ですがやっています)が、地域薬剤師会などが関わる事例もあります。

 一方、東京都も 平成22年10月に都内医療機関を対象とした、がんの緩和ケア提供体制等の実態調査を行い、このほど結果が発表されています。

 東京都がんの緩和ケア提供体制等の実態調査 報告書(東京都・福祉保健局)
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/iryo/iryo_hoken/
gantaisaku/gantaisakukyougikai/arikatakentoubukai/arikata_report/

 こちらの方も、都における今後の緩和ケアのあり方を検討する基礎資料とするために行われたもので、こちらは薬局に対しての調査も行われています。(麻薬に係る調剤の実施」している薬局3,432件を抽出し、調査対象として調査票を発送。有効回答数は2,703件)

 調査結果によれば、

  • オピオイド製剤を取り扱っている薬局→71.6%
  • オピオイド製剤の1か月平均調剤件数→「0件」の薬局が約2割、「1件未満(0件を除く)」の薬局が約1割、「1件以上2件未満」の薬局が約2割
  • オピオイド製剤のうち、半数以上の薬局で取扱いがある製剤→デュロテップMTパッチ(56.1%)、MSコンチン錠(62.4%)、オキシコンチン錠(72.2%)、オプソ内服液(57.9%)、オキノーム散(57.7%)
  • 訪問服薬指導を実施している薬局→31.7%
  • 平成21年度のオピオイド製剤の年間服薬指導件数→「0回」の薬局が約5割、「1回以上5回未満」の薬局が約1割(つまり、薬局として実施できる体制はあっても、実際にはオピオイド製剤の服薬指
    導実績はほとんどない薬局が多い)
  • 平成21年度の1年間において、がん患者の退院時カンファレンスへの参加実績→36施設(回答者全体のわずか1.3%)

 また、他の医療機関等との連携で困っていることについて尋ねたところ、カンファレンスに参加できない、在宅医療への参画が難しい、患者に関する情報提供が少ないという意見が多かったそうです。

 さらに、在宅緩和ケア推進に必要だと思うことについて聞いたところ、学習会の開催によるスキルアップに関する意見が最も多かった他、他職種との情報の共有化、連携を求める声も少なくなかったそうです。

 現在日薬では、モデル調査などを踏まえて、在宅療養推進アクションプランを策定・実施し、現場の薬剤師に在宅への取り組みを促していますが、こういった実態を見ると、在宅活動の拡大はまだまだ時間がかかるようにも思われます。

在宅療養推進アクションンプランの策定と事業実施について
2010.10.21 日薬定例記者会見 資料より)
http://www.nichiyaku.or.jp/press/wp-content/uploads/2010/10/101021_1.pdf

在宅療養推進アクションプランの実施についてその2
(2011.07.06 日薬定例記者会見資料より)
http://www.nichiyaku.or.jp/press/wp-content/uploads/2011/07/110722_3.pdf

  詳しくは、日薬会員向けページの「在宅医療・介護保険関連情報」で紹介。

また日薬は、厚労省の「医療計画の見直し等に関する検討会」で、

開局薬剤師が関わる在宅医療の現状と今後の医療計画について(日薬提出資料)
第5回医療計画の見直し等に関する検討会 平成23年7月13日開催)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001jlr7-att/2r9852000001jlvh.pdf

と、地域包括ケアシステムとの整合性をはかりつつ具体的な施策を盛り込むことを求めています。

 個々の薬局の受け入れ態勢などの充実など、さまざまなアクションプランを実行や「薬剤師にお任せ下さい」と社会に訴えるも必要かとは思いますが、まずは地域レベルの実態調査を行い、「全国各地でどのような取り組み(特に薬剤師会支部レベルでの多職種との連携状況)が行われているか」といったことをまとめたり、「どのようにすればこれらの取組が地域全体の取組として広がっていくか」などを整理・分析し、在宅医療どのようなことが可能なのかを具体的に会員に示すことも必要ではないかと感じました。

 日薬会員向けページに掲載されている調査研究書を見ると、在宅活動の重要性は確かにわかるけど、規模や体制によって取り組めない薬局も少なくない。こういった薬局はどうするのか、またこういった薬局が取り組めるにはどうしたらよいか、医療専門職との連携づくりなどもっと現実的な情報も欲しい。(点と点の連携だけでは広がりは時間がやはりかかる。できない理由を探していると言われそうですが。)

関連情報:TOPICS
 2011.02.17 在宅医療における薬剤師の役割と課題(社会保障審議会医療部会)
 2011.02.16 在宅における薬剤師業務をどう評価するか(中医協)
 2010.08.27 薬剤師の在宅活動が厚生労働白書で取上げられる
 2010.08.05 「地域医療連携体制の構築と評価に関する研究事業」報告書

関連記事:
【東京都・緩和ケア実態調査】進まぬ退院時カンファレンス‐参加薬局は約1%
(薬事日報 HEADINE 7月26日)
http://www.yakuji.co.jp/entry23761.html


2011年07月29日 01:16 投稿

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