「地域医療連携体制の構築と評価に関する研究事業」報告書

 全国保健所長会ウェブサイト(http://www.phcd.jp/)に掲載されている報告書で、医療連携における保健所の取組事例が紹介されています。この中には、医療連携に関わる地域薬局の事例がいくつか紹介されています。

「地域医療連携体制の構築と評価に関する研究事業」報告書(2010年3月)
(全国保健所長会 2010.8.1掲載 ファイルは48.4MBと非常に大きいです) 

 この研究事業は、地域医療連携体制構築に向けた保健所の調整機能の強化に資するため、全国保健所の先進的事例について、現地ヒアリング調査を実施・検討したものをまとめたもので、18事例(4疾病13事例及びその他5事例)についてその内容が詳しく紹介されています。

 この事例の中には、地方紙等で紹介されている富山県新川地区の「在宅終末期医療連携パス運用」、本サイト(TOPICS 2009.07.15)や調剤と情報の2009年10月号で紹介された石川県南加賀地区の「糖尿病地域連携クリティカルパス策定推進事業」が、地域薬局・地域薬剤師との連携した取り組みとして紹介されています。

在宅終末期医療連携パス運用(p39-51)

 平成18年7月から医師会に事務局を置く在宅医療療養連携協議会が、診診連携を基盤とした病診連携・多職種チーム連携で運用している在宅終末期医療連携パスに対し、平成19年から地元保健所が本格的に関与を始めている事例。

  • 13病院のうち8施設の病院が参加ののほか、在宅ケア対応可能施設として、病院5施設、診療所22施設、調剤薬局29施設及び訪問看護ステーション6施設が参加
  • 訪問看護師・調剤薬局薬剤師等多職者が参加する連携協議会に連携懇話会が発展(2007.6)
  • 富山県薬剤師会が受託した在宅医療医薬連携推進事業(国庫補助事業)の一環として、新川医療圏薬剤師会が、当該検討会を設置し、関係機関と連携しながら、調剤薬局の薬剤師による麻薬管理・服薬指導等のモデル実施(2008.4~)
  • 連携体制における地域薬局の役割は、薬歴管理、服薬指導、服薬支援、薬剤服用状況、薬剤保管状況の確認
  • 在宅終末期医療連携パス、在宅医療マップ、お薬手帳をツールとして活用
  • 調剤薬局薬剤師は、退院時カンファレンスに参加し、医療用麻薬の適正使用による疼痛緩和を含む訪問服薬指導を行う
  • 調剤薬局間では、地域でグループを組み、麻薬小売業者間譲渡許可を申請して、医療用麻薬の譲渡・譲受が可能な体制を構築する等医療用麻薬の在庫不足発生の可能性にも対応
糖尿病地域連携クリティカルパス策定推進事業(p147-156)

 2008年度から南加賀圏域における糖尿病地域連携クリティカルパス(地域連携パス)の策定・推進(南加賀かけはしネット)について、保健所及び地域医療連携室に事務局を置く石川県のモデル事業として、病院、医科診療所、歯科診療所、調剤薬局、行政等の参画によって、医療機関主体で連携体制の拡大及び評価を目指している事例。

  • 2010年2月の病院の登録割合は40.0%(8/20施設)、診療所は77.9%(74/95施設)、歯科診療所は81.1%(77/95施設)及び調剤薬局は38.0%(35/92)
  • 2009年4月から2010年2月までに地域連携パスを発信した病院は5施設及び診療所は2施設で、運用患者数は128人
  • 地域薬局の役割は医薬分業している、かかりつけ医から診療情報提供書・地連携パスを受ける。服薬指導、治療中断への受診勧奨
  • 医科・歯科及び医科・薬科連携も連携体制に組み込んでいるが、大半は未だ顔の見える関係ではなく、事務作業の増加も伴うことから、当該連携が伸び悩むことが懸念される。このため、最も取組の遅れている市民に対する普及・啓発を重点的に推進することによって、患者の方からも、歯科・薬科との連携について専門医等に相談できるようにすることが期待される。

 報告書はまだ全部目を通してはいませんが、先進事例で地域薬局(調剤薬局)との連携が具体的に記されているのはやはり少なく、医療連携・連携パスにおける地域薬局や薬剤師の関わりの難しさを感じますが、4疾患のうち、がんにおける緩和ケア、糖尿病については薬剤師の職能の発揮の可能性はあると思います。

 いずれにせよ、地域における医療連携をすすめるには、コーディネーターとしての行政、とりわけ保健所の役割が鍵を握るのではないかと改めて感じました。

関連情報:TOPICS
 2009.07.15 薬局の役割が明記された糖尿病地域連携パス(石川県)
 2009.03.18 「地域連携パス」における地域薬局の役割
 2010.01.15 地域連携クリティカルパス「東京都医療連携手帳」

在宅医の診診連携に薬剤師が参画しがん終末期のケア体制が充実
(Medical Partnering vol.42 2009.7)
http://ds-pharma.jp/medical/gakujutsu/partnering/pdf/200907_16_02.pdf


2010年08月05日 01:56 投稿

コメントが1つあります

  1. アポネット 小嶋

    全国保健所長会ウェブサイト(http://www.phcd.jp/)にさらに、「地域連携クリティカルパスの普及・推進に関する研究報告書」が掲載されています。

    地域連携クリティカルパスの普及・推進に関する研究報告書(2010年3月)
    (全国保健所長会 2010.8掲載 ファイルは30.4MBと非常に大きいです)

    元記事でも紹介した、富山県新川地区の「在宅終末期医療連携パス運用」(P7-17)が改めて紹介していますが、他の現地報告のパスでは、症状が重い人が対象と言うこともあり、薬剤師の出番はほとんどないようです。

    なお、P106-124で、地域連携クリティカルパスの普及・推進方策(改訂3版)が記されています。薬局の活用などについても触れられていますが、まず保健所の人に、私たちの在宅などの地域活動について理解してもらう必要があるかもしれませんね。