第一類の販売には、販売実践ガイダンスの開発が必要

 調剤と情報の2009年1月号で、日薬の一般用医薬品委員会の委員でもある東和薬局の武政文彦氏は、来年6月の新薬事法の全面施行を受けてすすめられている一般用医薬品販売(OTC販売)の大変革について、「一般用医薬品販売のコペルニクス的転回」と題して、その社会的背景や今後の課題についてさまざまな提言を行っています。

 武政氏は、まず今回の制度改正でOTC販売は、大量生産・大量消費を背景とした「供給者中心」から、一人ひとり違う個人に向けた適正生産・適正消費が行われる「消費者中心」に変わると指摘し、作る側や売る側の論理ではなく、買う側中心に物事を考えるべきだとしています。

 そのうえで武政氏は、今後スイッチが期待される第一類医薬品の販売のあり方について、「販売者責任」「販売の手順」「医師らとのcollaborative care(共同医療)」「製品開発と許認可制度」「販売時の対価」の5つのポイントを挙げ、これらについて詳しく解説を行っています。

 この中には、本サイトでも指摘したOTC販売における今後取り組むべき下記のような課題が具体的に示されており、非常に興味深い内容になっています。是非一読をおすすめします。

  • 新しい一般用医薬品が登場するためには、標準的な販売の手順(総合的な販売手順・個別的販売手順)が確立させる必要がある
    (総合的な販売手順は、日薬が2007年3月に発表した「一般用医薬品販売の手引き(暫定版)が該当すると思われます)
  • 個別的販売手順は、メーカー側から提供されたものは存在するが、可能な限りEBMの手法を採用し、企業のバイアスを排除した独立・客観的な「販売実践ガイダンス」を、開局薬剤師と薬科大学などの研究者が共同して開発する必要がある
    (調剤と情報の参考文献にもありますが、武政氏は英国王立薬剤師会が策定している“Practice Guidance”(TOPICS 2008.09.16)のようなものを想定しているのではないかと思われます)
  • 「縄張り争い」や「業権闘争」に終止符を打ち、「自己完結型OTC薬」の発想から一歩踏み出し、医師らとのcollaborative care(共同医療)の発想を取り入れ、医師・薬剤師は患者、消費者のために協力して医療を行う「新しい医療スタイル」を目指すべきである
    (英国MHRAが示したタムスロシンの再分類案(TOPICS 2008.11.28)やPGDを活用した英国の処方せん医薬品の試験販売(TOPICS 2008.03.16)、シンバスタチンの販売指針[PDF:英国王立薬剤師会]などがこれらにあたるのかもしれません
  • 医薬品の再分類(Reclassficaiton)システムがきちんと機能するようなプロセスを構築する必要がある
    (英国やニュージランドなどの国では、すでにルールが確立しているようです(下記資料リンク参照)
  • 第一類の販売は薬剤師が薬物資料に深く関与することで、国民(消費者)の健康と安全に寄与している。また、第一類医薬品の情報提供は法的に義務づけられているのであるから、適切な社会的報酬が薬剤師に支払われるべきではないか
     (英国では、地域薬局の薬剤師が行う禁煙指導に対して、相談料が支払われています(TOPICS 2007.03.26))

 日薬の委員をされている武政氏の提言であり、おそらく日薬は、「販売実践ガイダンス」の作成とその実践を目指しての取り組みを検討していると思いますが、我が国の薬剤師をとりまく状況についても十分考慮する必要があります。

 それは、日本では全ての薬剤師が薬剤師会に入会していない(強制加入ではない)、あるいは必ずしも自らの意志で加入しているわけではない(管理薬剤師を辞めたり、職場を変えれば薬剤師会も退会)点と、第一類医薬品の販売を積極的に行う薬局が必ずしも多くないという2つの現実があるからです。

 せっかく、「販売実践ガイダンス」を作成してても、薬剤師会の会員ではなければ入手できない、知らなくてもよいとなると、結局一部の薬局だけでしか行われないことが当然予想されます。これでは、社会へのアピールにつながりません。英国のように、“Practice Guidance”を公開(フリーアクセス)にし、地域薬局の薬剤師はこういった手順で第一類を販売しますということをオープンにすることで解決するかもしれませんが、やはり薬剤師会への加入率を高めることも重要です。

 そして、需要がない、効率が悪い、近隣の医療機関に配慮する必要があるなどとして、第一類はもとより一般用医薬品をあまり取り扱わない薬局もまだまだ見かけます。「対面販売で薬剤師が説明します」とアピールしながら、「薬局に行ってみたけれども取り扱っていなかった」というのでは、やはり国民(消費者)は納得がいかないのではないでしょうか? こういったことが続けば、ネット販売業者に対してスキを与えることになりかねません。もっと日薬は、一般用医薬品の取り扱い(通常在庫)を会員薬局に対して求めることも必要ではないでしょうか。

参考:
武政文彦:科学的な販売で消費者のセルフメデフィケーションを支援する一般用医薬品販売のコペルニクス的転回,じほう, 調剤と情報(15),86-90(2009.1)

資料:(医薬品の(再)分類に関する公的規制機関の解説ページ)
  Legal status and reclassification(英国 MHRA)
  Classification of Medicines(ニュージーランド MEDSAFE)  

関連情報:TOPICS
   2008.09.16 OTC販売時の業務指針・チェックリスト(英国)
   2008.04.05 薬剤師はさらなる役割を担うべき(英国)
   2007.03.26 英国の薬剤師事情レポート(日本社会薬学会フォーラム)
   2008.12.05 英国におけるスイッチOTC25年の歩み
   2008.11.28 タムスロシンのOTC化を検討(英国)
   2008.11.15 薬局は公的クラミジア対策サービスも紹介すべき(英国)
   2008.03.16 処方せん薬の試験販売と医師への紹介率(英国)
   2007.11.16 BTC薬制度導入についての公聴会が開かれる


2008年12月28日 20:15 投稿

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