認知症治療薬の使用制限(英国)

 英国では昨年来、ドネペジル(アリセプト)を始めとする認知症治療薬について、費用対効果からその使用を制限する案を打ち出していましたが、NICE(国立医療技術評価機構)は11日、7月13、14日に行われた公聴会で出されたアルツハイマー病協会、認知症ケア財団、英国看護協会、英国精神科医師会や認知症治療薬メーカーによる使用制限に反対する意見陳述について、すべての意見を棄却すると発表し、英国内では大きな反発を招いています。

 NICE announces Alzheimer’s disease drug appeal outcome and NHS guideline to support patients and carers
(National Institute for Health and Clinical Excellence 2006.10.10)
  http://www.nice.org.uk/page.aspx?o=373237

 日本では、ドネベジルは軽度及び中等度のアルツハイマー型痴呆と診断された患者のみが使用することになっていますが、英国では、認知症治療薬が一人当たり1日2.5ポンドでかかるとして、Memantineを除きドネペジルなどは軽度から中等度の人には補助的な使用のみとして、使用は推奨できないとする案が示されていました。

 エーザイ社の現地法人と共販のファイザー社は「NICEは、患者様や患者団体、研究者、医師から集められた認知症治療薬の軽度および中等度のアルツハイマー病治療におけるベネフィットに関するエビデンスを無視しました。イングランドとウェールズは、世界で唯一、アルツハイマー病の初期段階での治療の機会を逸する国となりました。」とする遺憾の意を発表し、また英国各紙も今回の決定を疑問視する記事を掲載しています。

 英国NICEが軽度アルツハイマー病治療における 認知症治療薬使用制限案見直しを棄却
   (エーザイ社 2006.10.11)
   http://www.eisai.co.jp/others/061011notice.html

 タイムズ紙によれば、認知症治療にかかる費用は6000万ポンド程度であり、NHSの薬剤予算の1%にも満たないという。しかしその一方で、英国では患者一人あたり年間2万5000ポンドもかかる乳がん治療薬ハーセプチンをはじめ、がん治療薬の保険による使用をめぐって大きな論議になるなど、限られた医療資源をどこに重点的に配分するかという難しい判断に迫られているようです。

 認知症よりもがん治療を優先すべきとの動きにも見えなくはありませんが、高齢化社会を迎えるわが国でも今後、英国と同じような問題がおそらく出てくるのではないでしょうか。

 参考:Alzheimer’s drugs appeal refused(BBC NEWS 2006.10.11)
     http://news.bbc.co.uk/1/hi/health/6036519.stm?ls
    Briefing: controversial drug decisions by Nice
     (TIMES ON LINE 2006.10.11)
     http://www.timesonline.co.uk/article/0,,2-2399013,00.html 


2006年10月12日 23:00 投稿

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