認知症と非定型抗精神病薬

 近年、アルツハイマー型痴呆症に伴う、他者への攻撃性、妄想や幻覚などの行動障害を改善するために、リスペリドンなどの非定型抗精神病薬が使われることがありますが、このほど、南カルフォルニア大学の研究グループが、これらの薬剤の有効性と安全性についての研究を行い、The New England Journal of Medicine に論文を発表しています。

Effectiveness of Atypical Antipsychotic Drugs in Patients with Alzheimer’s Disease
NEJM 355:1525-1538)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17035647
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa061240

 この研究は、ナーシングホームなどで暮らしていない、自宅療養中の421人の患者に行われた二重盲検試験で、オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、プラセボのいずれかが投与され、その経過を比較しています。

 結果によれば、36週間の間に82%が何らかの理由で投与が中止され、投与中止までの期間は平均8週間だった。この期間は服用群とプラセボ群で有意な差はなかったそうです。

 このうち、運動失調や鎮静、振戦、体重増加などの副作用が原因で投与が中止されたのは、オランザピン群で24%、クエチアピン群で16%、リスペリドン群で18%に達し、これはプラセボ群の5%と有意な差があったそうです。

 また、効果がないとして中止した時期は、オランザピン群で22.1週間、リスペリドン群で26.7週間で、これはクエチアピン群の9.1週間、プラセボ群の9.0週間と有意な差があったそうです。

 一方、12週間後の症状の改善について比較したところ、オランザピン群で32%、クエチアピン群で26%、リスペリドン群で29%と、プラセボ群の21%と比較し有意な差はみられなかったそうです。

 つまりこの研究によれば、認知症患者に対する非定型抗精神病薬の投与は臨床的にはあまり意味がなく、むしろ副作用のリスクの方が大きいとしています。

 FDAでは、2005年4月に「非定型抗精神病薬を高齢者認知症患者の行動障害の治療目的で用いると患者の死亡率がプラセボに比べて死亡率が有意に上昇する(1.6倍〜1.7倍)」という勧告を出し、ラベリングでこういった目的で使わないよう黒枠警告で注意喚起をしてはいますが、実際には米国では現在でもかなり使用されていることから、今回の論文を各紙が取り上げています。

関連情報:
FDA Issues Public Health Advisory for Antipsychotic Drugs used for Treatment of Behavioral Disorders in Elderly Patients
(FDA Talk Paper 2005.4.11)
http://www.fda.gov/bbs/topics/ANSWERS/2005/ANS01350.html
http://www.fda.gov/drugs/drugsafety/postmarketdrugsafetyinformationforpatientsandproviders/ucm053171

参考:
Antipsychotic Medications Used to Treat Alzheimer’s Patients Found Lacking
(NIH News 2006.10.11)
http://www.nih.gov/news/pr/oct2006/nimh-11.htm
http://www.nih.gov/news-events/news-releases/antipsychotic-medications-used-treat-alzheimers-patients-found-lacking
Antipsychotic Drugs for Alzheimer’s?
(WebMD 2006.10.11)
http://www.webmd.com/content/article/128/117082.htm
http://www.webmd.com/alzheimers/news/20061011/antipsychotic-drugs-for-alzheimers
Study: Some Alzheimer’s Drugs Very Risky
(Washington Post 2006.10.11 AP通信配信)
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/10/11/AR2006101101588.html
Little Benefit Seen in Antipsychotics Used in Alzheimer’s
(Washington Post 2006.10.12)
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/10/11/AR2006101101595.html
小田陽彦,前田潔:老齢精神障害の特徴と非定型抗精神病薬:日薬雑誌 58,861-864,2006

2016.04.11 リンク再設定


2006年10月15日 23:00 投稿

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