薬局版QIというのをご存じでしょうか?
かく言う私も十分理解していないので調べまくったところ、カケハシさんの情報サイトがわかりやすく解説していました。
5分でつかむ!クオリティ・インディケーター(QI) 薬局の質を見える化し、業務の改善に役立てる新指標
(Musubi 2024.08.21)
https://musubi.kakehashi.life/blog/quality-indicator
端的に言うと、ファーマシューティカルケアを評価するために、検査値などの結果だけではなく、適切なケアを必要とする患者に実施したかどうかというプロセスの部分に着目することで、ケアの質を間接的に評価するというものです。
今回の厚生労働科学研究は、対人業務の質向上に向け、薬剤師業務の質を可視化するため、ケアの質評価指標であるQuality Indicator(以下QI)の日本での導入をすることで、「対人業務の見える化」のための指標を作るための研究ともいえるものです。
藤田氏はかつて日経DIで、関連の連載記事を投稿しています。(正直、当時は何のことか、よくわからなかった)
藤田健二の「薬局の質をものさしで測る」
(日経DI 2018.07-2019.6)
https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/di/column/fujita/
【2024厚生労働科学研究】
薬局薬剤師の対人業務の質評価指標の開発
https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/177618
(分担研究)
海外の薬局版QIの把握
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202424014A-buntan3.pdf
この報告書によれば、QIは2007年度以降に薬局のサービスの質を評価するためにオランダで制度化。
当初は保険者とも連携、各保険者が独自に 6項目前後のQIを選定し、それに基づくスコアの上位 50%の薬局に対し、年間4,000〜5,000 ユーロの追加報酬が行われていた。
しかし、制度が定着することにより、多くの薬局でQIスコアが高水準に達した結果、コアのばらつきが小さくなり、識別力のある評価指標としての限界が指摘。
2018 年以降、薬剤師ガイドラインの遵守促進に焦点を当てた新たな QI 設計に転換。具体的には、「Professional Standard Pharmaceutical Care」として定義された 3領域(喘息、GDV(Gepersonaliseerde Distributie van Medicatie:日本でいう一包化薬などの個別配薬)、糖尿病)に基づく評価指標を新設し、「Growth Ladder(成長ラダー)」と呼ばれる段階的評価形式に改められた。
しかし、Growth Ladder の客観性の低さや QI の項目数(66→10項目)の減少を理由に、2019年には追加報酬と QIスコアとの連動が終了、2020年には QI開発委員会から保険会社が離脱し、現在に至っているという。
オランダ薬剤師会(KNMP)では現在でもこの方針転換の是非について、議論起きているとのこと。
現在は、QIスコアを基に質の低い薬局を特定し、スコアが平均から統計的に外れた薬局に対して理由の説明を求めたり、現地訪問による監査を実施したりすることがあるとのこと。
一方で、世界的な動向についてどうかというと、2024年の時点では薬局版QIが開発されているものの、継続的に運用している国はオランダ以外には存在しておらず、国家レベルでの制度化や持続的な運用には至っていないことが判明。
2025年に入り、世界から集まって行われたQIワークショップでは、いくつかの国で薬局版QIの開発や運用の見通しが明らかになった。
また、このワークショップでは、糖尿病ケアの質を評価するための20のQIを選定、2025年10月頃から実施予定の国際共同研究において、世界20か国の薬局薬剤師の糖尿病ケアの質を評価するために活用される予定とのこと。
14th PCNE Working Conference, Ágnes-Heller-Haus (AHH), Innsbruck, Austria
Strengthening pharmaceutical care research and practice
(PCNE 2025.02.05-08)
https://www.pcne.org/conference/34/14th-pcne-working-conference
藤田氏は、「薬局薬剤師の質評価に関する世界的な潮流を示すものであり、この調査結果は、薬局薬剤師の質評価に関する世界的な潮流を示すものであり、各国の関心の高さを反映している」として、国際共同研究によって開発されたQIと今後開発予定の日本のQIとの統合は、諸外国との薬剤師業務の比較評価を可能にし、グローバルな薬学的ケアの発展に貢献することが期待されるとしています。
こういった状況を踏まえ、同じ研究員の佐藤周子氏が、「薬局における疾患別対応マニュアル」および「薬剤使用期間中の患者フォローアップの手引き」等を対象とした文献レビューと、先行研究でまとめた約130項目のQIとの比較検討を通じて、包括的なQI候補60項目を開発、内容的妥当性を評価した後、複数の薬局の協力のもと、3カ月間の運用試験を実施する予定とのこと。
(分担研究)
QI候補の開発
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202424014A-buntan4.pdf
包括的なQI候補(60項目)としては次の60項目を挙げている
- 睡眠鎮静薬・抗不安薬:1項目
- 抗うつ薬:1項目
- 認知症治療薬:1項目
- 抗血栓薬:13項目
- 高血圧治療薬:1項目
- 脂質異常症治療薬:1項目
- 糖尿病治療薬:20項目
- がん治療薬:8項目
- がん疼痛治療薬:1項目
- その他治療薬:4項目
- 服薬アドヒアランス:7項目
- 一般(共通):2項目
3カ月間の運用試験については、薬事日報が先日、その概要を報じています。
【横浜薬科大 藤田氏ら】AIで薬局QIを自動算出‐10月にも運用試験スタート
(薬事日報 2025.07.28)
https://www.yakuji.co.jp/entry121188.html
https://www.m3.com/news/general/1287668
薬事日報によれば、欧州を中心とした臨床薬学研究団体のPCNE(Pharmaceutical Care Network Europe)でも18種類のQIを開発、運用試験と同じタイミングで日本を含めた20カ国の薬局で一斉に検証することになっていて、運用試験では、200のQIを選定、ベンダー5社の薬歴システムを利用している薬局の協力を得て進められるとのことです。
個人的な感想ですが、Pharmaceutical Care を推進するには、必要なものだと思います。
一方で言葉は悪いですが、「質の高い薬学的管理の提供への転換といった実態のないものをアカデミアとぐるになって無理やり作りあげて、リソースとコストをさらにかけようとしているのではないか」という懸念も頭によぎりました。
カケハシさんの記事にもありますように、QI算出には業務負担が伴います。
薬歴の電子化により効率化できるとしていますが、薬歴至上主義の業務をますます加速するだけではないでしょうか?
近い将来、厚労省はこれらQIスコアを満たしているか否かで、加点もしくは査定の対象とするのではないかと考えています。でもこれは今の加算主義と何ら変わらず、業務負担が増えるだけだと思います。
医薬分業への是非に対して根拠を示したいとする思いもあるのでしょうが、算定のハードルをあげて、フィーを抑制したいという考えも見え隠れします。
英国やフランス、カナダなどでは、地域薬局の業務は調剤よりもファーストアクセス対応に軸足を移している感もあります。こういった国々が薬局版QIについて、どのようなスタンスでいるのか知りたいところです。
実用化に向けての今後の研究の進展に注目しましょう。
関連論文:
Pharmaceutical Care Network Europe definition of quality indicators for pharmaceutical care: a systematic literature review and international consensus development
(Int J Clin Pharm.. 2023 Aug 30;46(1):70–79.)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10830737/
2025年08月29日 13:23 投稿