緩和ケアや終末期ケア向上のための薬剤師の役割は?(英国)

英国王立薬剤師会(RPS)はこのほど、薬剤師チームを「緩和ケアと終末期ケアの中心に据える」改革を求める政策文書(policy document)を公表しています。

【RPS 2025.11.27】
Pharmacy teams must be fully integrated into palliative care, says RPS
https://www.rpharms.com/about-us/news/details/pharmacy-teams-must-be-fully-integrated-into-palliative-care-says-rps

この政策文書は、命を脅かす病気を抱える人々や終末期を迎えている人々が最善のケアを受けられるようにする責任を負う主要な関係者を対象として、2018年にRPS Walesによって発行されたものを基に、英国内のさなざまなガイダンスを反映をしたものとして策定されています。

政策文書では患者へのサポート、医薬品のタイムリーな入手、患者記録へのアクセス、緩和ケアに関する教育とトレーニングの改善、緩和ケアチームへの薬剤師の組み込みなど、次のような11項目にわたる推奨事項が示された他、営業時間外の緊急薬および規制薬への迅速なアクセス、薬の処分やサービスへの案内を含む死別後のサポート、すべての地域での主導的な小児緩和ケア薬剤師の役割の創設などが含まれています。

Palliative & End of Life Care
Pharmacy’s contribution to improved patient care
https://www.rpharms.com/Portals/0/RPS%20document%20library/Open%20access/Palliative%20Care/RPS%20Palliative%20Care%20Policy%20-%20100725-E.pdf
https://www.rpharms.com/recognition/all-our-campaigns/policy-a-z/palliative-and-end-of-life-care

患者への支援と情報提供

1.処方された医薬品について、薬局チームとの定期的に話し合える仕組みづくり

2.薬剤師は、包括的医療、社会福祉、第三セクターが行う支援にアクセスできるよう紹介などの体制を整えること

3.死別後の家族や介護者に対し、迅速かつ配慮あるサポートを積極的に提供できる薬剤師

タイムリーなアクセス

4. 緊急の規制医薬品を含む医薬品の入手プロセスを可能な限り容易かつ迅速にするシステムづくり(「Just in Case(JIC)」サービスばど)

5.GPの緩和ケア登録簿に登録された際に健康状態を⾃動的に共有し、選択した地域の薬局の薬剤師を含む多職種チームと事前ケアプランを共有する機能

6. タイムリーな情報伝達と更新を保証する単一の統合された電子健康記録

7. 受けるケアのケアの質を損なうことなく、⾃らが選択したケア環境で最期を迎えたい
という希望が全⾯的にサポートされること

人材

8. 処方と処方の中止(減薬)を含む医薬品の安全かつ効果的な使用に関する専門知識を提供するため、薬剤師は全ての多職種緩和ケアチームに組み込まれること

9. 各分権国の政府は、多職種緩和ケアチーム内における薬剤師の役割の開発に向けた体系的なアプローチとる必要がある(コンサルタント薬剤師(Consultant Pharmacist)、専門薬剤師(Specialist Pharmacist)、上級総合薬剤師(Advanced Generalist Pharmacist)、緩和ケア薬剤師技術者(Palliative Care Pharmacy Technicians)などの活用)

10. 統合ケア委員会(Integrated Care Boards)または保健委員会(Health Boards)は、各国・地域において小児緩和ケア担当主任薬剤師の役割を委託しなければならない。

教育

11. 高度な役割の発展を支援するために、薬局チーム向けの緩和ケアおよび終末期ケアに関する教育と研修を強化する必要がある。

一方この政策文書で注目したのは、この提言4にある、「Just in Case(JIC)」サービスという仕組みです。

Palliative Care Just-in-Case (JIC) Service Guidance
(NHS STW)
https://www.shropshiretelfordandwrekin.nhs.uk/wp-content/uploads/20230829-Just-in-Case-Guidance-V7.pdf

緩和ケアの90%は患者の⾃宅で行われ、患者と介護者の多くは⾃宅での終末期を望んでいるにもかかわらず、末期疾患の多くはホスピス、病院、または介護施設で管理されています。突然の痛みや症状の発現による苦痛、そして予防的な処⽅の欠如は、病棟が意図しない死の場となる⼀因となっています。

Just‑in‑Case (JIC) サービスは、突然の痛みや症状の発現に必要な⽪下薬剤へのアクセスを可能にし、経口薬を服⽤または耐えられない場合に遅滞なく治療を開始できるようにすることで、終末期ケアをサポートすることを目的としています。

万が⼀の時の備え(JIC)パックはかかりつけ医が発行し、地域の薬局で調剤されます。

  • 切れにも効果のある強力な鎮痛剤
    (モルヒネ硫酸塩注射液、ジアモルフィン、オキシコドン)
  • 終末期における呼吸音を抑える薬
    (臭化ブチルスコポミン注射液、ヒヨスシン臭化水素塩、グリコピロニウム)
  • 吐き気止め
    (レボメプロマジン注射剤、シクリジン、ハロペリドール)
  • 不安や落ち着きのなさを和らげる薬
    (ミタゾラム注射剤)
  • 注射用水

※各地域で入っている薬剤は異なる

どうもこれらの薬剤がセットされたパックになっていて、担当の医療従事者向けの説明書が入っているそうです。

必要に応じて、パックを開封し、かかりつけ医または地域看護師が適切な薬剤を投与するとのことです。

使用に関してはプロトコルに従い、パック薬剤は事前に患者または家族が薬局にとりにいくか郵送という仕組みがとられているそうです。

以前投稿しましたが、同様のものとして、オランダではDe praktische palliatieve kitというのがあります。

日本では麻薬などの法規制があるので難しいと思いますが、こういう仕組みもあってもいいかもしれません。

参考:
Just in Case Pack Service
An Additional Pharmaceutical Service
(NWSSP)
https://cpwales.org.uk/wp-content/uploads/2023/05/2303-JIC-Service-Specification-v2-07.22.pdf

‘Just in case’ medicines in palliative care
(スコットランド政府 2025.01.22 Update)
https://www.nhsinform.scot/care-support-and-rights/palliative-care/dying-death-and-grief/just-in-case-medicines-in-palliative-care

Just in Case Bags
(Treboeth Pharmacy)
https://treboethpharmacy.co.uk/services/just-in-case-bags/


2025年12月02日 13:50 投稿

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