一般用医薬品・検査薬に対する医師の意識(日医総研WP)

 サイトの改ざんのトラブルで、しばらくメンテナンスが続いていた日医総研のウェブサイト(http://www.jmari.med.or.jp/)ですが、今日アクセスしたところ、知らない間に、衝撃的(?)な内容のレポートがアップされていました。

一般用医薬品および一般用検査薬に対する意識調査結果
(日医総研ワーキングペーパー No.318 2014.06.08)
http://www.jmari.med.or.jp/research/research/no_545.html
http://www.jmari.med.or.jp/download/WP318.pdf

 この調査は、セルフメディケーション、スイッチ OTC を適正に進める方策を検討するため、医師の意識、現場の医師が直面している一般用医薬品等に係る問題等について把握することを目的に、厚生労働科学特別研究事業「一般用医薬品の地域医療における役割と国際動向に関する研究」の一部として今年4月に行われたもので、  日本医師会会員から無作為に25 分の1 抽出した5,694 人に送付、有効回答のあった1,954人(有効回答率34.9%)の調査結果をまとめたものです。(信頼性は高いと思う)

調査票
http://www.jmari.med.or.jp/download/WP318.pdf#page=69

 レポートは、「一般用医薬品について」「スイッチOTC化について」「一般用検査薬」「自由記述意見」などで構成、現場の医師のさまざまな意見も紹介されており、非常に興味深い内容となっています。

 このレポートから目に留まった部分を抜粋します。(コピペすみません)

一般用医薬品ついて

  • 過去に一般用医薬品を原因として副作用がおこった(あるいはそのように推察される)患者を診察したことがある医師は48.0%。患者を診察したことがある医師がもっとも多い診療科は皮膚科で 80.0%であった。以下、呼吸器内科、消化器内科、消化器外科、内科の順に多かった。
  • 一般用医薬品の中に依存性のある成分を含有する医薬品があることを、「知っている」が59.0%、「知らない」が39.8%であった。

スイッチOTC化について

  • エパデールTについて、生活習慣病分野で初めてのスイッチOTC 化であったことを「知っていた」のは16.2%、そもそもエパデールがスイッチOTC化されたことを知らなかったのは54.8%
  • 生活習慣病のように比較的長期にわたる疾病の治療薬のスイッチOTC 化が進むことについて「反対」は28.2%、「どちらかというと反対」32.6%となったが、「どちらともいえない」(28.7%)、「どちらかというと賛成」(6.8%)、賛成(2.7%)とした人もいた。
  • スイッチOTC 化のあり方については、「短期間服用する医薬品(風邪薬など)や外用薬に限るべき」という回答がもっとも多かった(59.8%)が、できるだけ幅広く推進すべきという人も10.5%いた。

一般用検査薬について

  • 今後、一般用検査薬(スイッチOTC化)にしても良いと考えているものが「ある」し人は、31.6%を占めた。
  • 一般用検査薬にしても良いという回答が多かったのは、「尿潜血」58.7%、「血糖値」56.7%、「便潜血」53.6%、「排卵日」47.8%であった。
  • 一般用検査薬が拡大することで、どのような問題があるかについては、「結果に安心して診療所・病院に行かなくなる」が56.4%でもっとも多く、また、「利用者の不安が高まる」も半数近く(47.0%)に達した。

自由記述意見
(スイッチOTC化への拡大化に対する意見)

  • 実際仕事が忙しくて受診できない方をみていると、もう少し早く受診すれば良かったのにと思うことがある。そう考えると一般用医薬品の種類が多くなっても良いかと思う。
  • 医療機関にかかりにくい、忙しい人には、早期発見につながる薬品、検査薬は有効。どのような薬物が一般用に販売されているかは、医師も理解しておく必要がある。
  • 基本的には、健康は自分で管理するもので人にゆだねることでもなく、人に管理されるものではない。できるだけ個人が利用しやすくするのがよいと思います。その点からすると、医院に行かなくても検査を自分でできる環境がととのうことは良い。
  • 薬剤師の教育が必要。手おくれにならないように医学的指導や医師をおとずれる機会を逃さないように。
  • 一般用医薬品を使用する人は積極的に定期健診や特定健診を受診するような指導が必要。
  • 湿布や外用薬、感冒薬はもう保険医療のカテゴリーからはずれても良いと思う。医療費の削減に必ず役立つ。
  • 健康増進にはいるような予防薬は国民皆保険を守る意味で保険をはずしていった方がよい場合もある。
  • 公的医療保険の医療費削減のためには、スイッチ OTC は不可欠。
  • 急性期医療については医師の関与は必須と考えるが、一部の予防医療は特に投薬については不要(関与が)と思われるものがある。また保険医療として扱うことが不適切と思われる予防医療もあり、適正化が望まれる。
  • 医療費削減のために必要。諸検査を全て保険でやりたがる人が多い。胃のくすり、ビタミン剤等簡単に出すようにしてはいけない
  • 生活習慣病は、運動や食事の教育が最も重要であるにも関らず、製薬業者主体で「内服薬によるコントロール」が中心になっているのは、医療の行政にも問題がある。
  • 米国の真似をして一般用医薬品や一般用検査等の規制を緩和するのなら、その一方で米国並に加工食品のカロリーや塩分、コレステロール含量等に対する表示を厳しくする、処方せんのリフィルを認める等、医療システムの整合性が取れる様にすべき。つまみ食いの規制緩和は国民の健康のためにならない。
  • 経済偏重、経済主体の現代社会を象徴する問題だ。一般用医薬品・検査薬を推し進めるのは病気の早期発見早期治療、という理由を前面には出していますが、結局、ビジネスチャンス、つまり金儲けの対象としての議論になっている。残念だが、病気の人が増え、そのための検査治療をすることがGDP を押し上げ、そのことが良い事という社会になってしまっている。このようにお金儲けをしたい人たちの論理の土俵で論議をするのは、生命・健康への方策を矮小化してしまう。

(医学的な問題や不安)

  • 使用頻度が多く副作用の出現が少ない薬は安全という油断は、極めて危険
  • 小 4 の男児がバファリン中毒になった例や、のどスプレーで軟喉蓋の粘膜がはがれて摂食不能になった例がある。昔、セデスで顆粒球ゼロになり死亡した患者がいた。
  • 最近認知症患者が急増しており、薬剤服薬等の自己管理にトラブルも多くなった。親と離れて生活している子供達が、インターネットで(親孝行の心算で)薬品類を購入して親に送り付け、親の方は訳が解らないま、子供が折角送ってくれたからと服用をしているケースが、案外多くて気になっている。
  • 病院に行く時間がなくネットで海外から①アレルギーの薬、②脂質異常症の薬、③脱毛治療の薬をとりよせた人がいる。①と③は、体に合わず、発疹が出た、だるさが強かったと相談された。②はこれからのむという人だった。
  • 市販の血管収縮剤入り点鼻薬の乱用による薬剤性鼻炎の方がいる。
  • コンビニ救急受診が減る半面、過剰内服による副作用や間違った服用法(腹痛なのにロキソニン内服など)をする人がいたため、安全面に不安が残る。

(国民(利用者)の理解や自己責任について)

  • 薬や検査は病院、医者による医療であるという意識が、日本人にはすりこまれていると思う。国民にその医療の一部を、自己責任でしろと言っても、安全、正確な薬の内服、検査の施行はできないのではないか。
  • 国民は自己判断にもとづく結果に対して自己の責任内であることを認識することに慣れておらず、この方面に対する教育も重要。
  • 一般用品をふやすのなら、身体とくすりの基本的なことを国民全体に教育する必要がある。
  • 医療の安全性は十分内容がわからずに利用した人々に問題がおこらないように、また、問題がおきても生命等に関係しないようにということを基準に自由化すべき。現在のやり方は意識の高い人達の希望を基準にしすぎている。
  • あるスポーツ大会にドクターとして参加していた時、軽症の熱中症の女性が運ばれて来ました。幸いすぐに症状は軽減したのですが、「頭痛があるので自分が持っている痛み止めを服用してもいいですか?」と言い、市販のロキソニンSを取り出し、一度に2 錠飲もうとしたので、ロキソニンは1回1錠であることを説明した。この例のように、きちんと用法、用量、注意事項を読まず服用する人がいることを考えると、効果の強い薬、副作用が重篤な薬が手軽に手に入るのは危険である。

(インフルエンザや感冒について)

  • 感染症の検査薬(特にインフルエンザ)は、夜間や休日診の受診抑制になるかもしれない。
  •  一次救急の混雑緩和にインフルエンザの一般用検査は特に有用。
  • インフルエンザ流行期に、家族がインフルエンザに罹患している場合、“出勤制限があるためインフルエンザ検査を希望する”(または会社で言われたため)例があったので、発症していない人については、受診でなく、一般検査薬が有効だと思った。
  • 感冒薬はもっと、一般用に切りかえてよい。インフルエンザの検査キットも一般用に切りかえてよい。そのことで感染の拡大も防げる。
  • インフルエンザ診断薬も最終的には医師の判定で「診断」を下すものであります。医師でない人間が判定はできても「診断」に至らない点を十分使う人が判断できるかが問題。自己判断で病状が悪化した場合は全額自費負担とすることも考えて頂きたい。

(インターネット販売について)

  • インターネットという特性上、同効薬で海外からの個人輸入の薬、検査薬も同じように扱われた場合、安いものを買い求める利用者が健康被害にあうことが危惧される。
  • 「利用者の自己責任」と「メーカー及び販売者の責任」が明確化されるのであれば、徐々に進めていいだろう。それを欠いた状態で「商業主義」を「利用者のため」とごまかして進めるのは許されない。日本を代表とするようなネット販売業者が、これまで多数のごまかしをしてきたことは、周知の通り(場を貸しているだけ、個々の業者のしたことは責任がないと逃げる)。

 一般用医薬品部会の議事録を見ると、エパデールのスイッチを契機に、部会の度に医師会の委員会からの懸念の声ばかりが示される(しかも厚労省や薬系委員がなかなか反論できない)など、スイッチOTCの動きが大きく止まった状態となっていますが、この調査における現場の声をみると、必ずしもそうではないということが伺えます。

要指導・一般用医薬品(議事録)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000008fcs.html#shingi127865

 特に自由記述の意見では、さまざまな具体的な問題例や課題が提示されており、個人的にはこのような調査が、薬事法改正~ネット販売の容認の議論の前になぜ行うことができなかったのか残念でなりません。

 このレポートによれば、今回の調査は、薬剤師、一般国民を対象にも実施されているということなので、その結果にも注目したいと思います。

 いずれにせよ、セルフメディケーションとは何なのかという共通認識を持たないと、スイッチOTCの拡大はすすまないと思います。(一般用医薬品部会での議論の平行線が物語る) 一般用医薬品部会においては、薬系委員の頑張りに期待したいと思います。(このレポート・厚生労働科学研究の結果を基に実りある議論を)

関連情報:TOPICS
 2013.11.03 セルフケア・セルフチェックと地域薬局の関わり(厚生労働科学研究)
 2013.10.08 スイッチOTCの承認審査が不当に妨げられている(OTC医薬品協会)
 2012.06.11 ニュージーランドのPharmacist Only Meidicines
 2012.12.28 スイッチOTCについてオープンな議論を求める要望書
 2012.11.21 生活習慣病分野におけるスイッチOTCのあり方に見解(日医)
 2012.11.01 エパデール問題、スイッチへの意義とプロセスの共通認識が必要
 2011.07.29 スイッチOTC医薬品の選定要件は?(厚生労働科学研究)
 2011.02.22 海外におけるスイッチOTCの状況
 2013.04.20 マラソン前の鎮痛薬の予防的使用は臓器にダメージを与える
 2012.12.18 タミフル、要薬剤師薬に分類変更へ(NZ) 


2014年06月23日 23:25 投稿

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