フランスにおけるBZ系薬剤の適正使用への取り組み

日本で未だ広く使用されているBZ系(ベンゾジアゼピン系)薬剤ですが、フランスでは当局による適正使用のためのさまざまな対策が行われています。

フランス当局のANSMは6月30日、ゾピクロン、ゾルピデム、ニトラゼパムの3剤を販売する製薬会社に対し、30錠包装を止めて、1週間分の治療コースに相当する5~7錠包装での供給(フランスでは箱出し調剤)するよう要請しました。

【ANSM 2025.06.30】
Médicaments de l’insomnie : des boîtes de zopiclone, zolpidem et nitrazépam avec moins de comprimés pour un meilleur usage
https://ansm.sante.fr/actualites/medicaments-de-linsomnie-des-boites-de-zopiclone-zolpidem-et-nitrazepam-avec-moins-de-comprimes-pour-un-meilleur-usage

フランスでは、2012年9月、同年1月にと取りまとめられた専門家報告書に基づき、ベンゾジアゼピン系薬剤の乱用監視と対策を強化し、適正使用を促進し、過剰使用とそれに伴うリスクを抑制するための「ベンゾジアゼピン系薬剤の乱用削減に向けたANSM行動計画」をまとめ、「不眠治療に対しては4週まで、不安治療に対しては12 週まで」とした継続処方期間の制限を課しました。

Plan d’actions de l’ANSM visant à réduire le mésusage des benzodiazépines – Point d’information
(ANSM 2012.09.25)
https://archive.ansm.sante.fr/S-informer/Points-d-information-Points-d-information/Plan-d-actions-de-l-ANSM-visant-a-reduire-le-mesusage-des-benzodiazepines-Point-d-information

その後現在では、これらのBZ系薬剤については、依存性のリスク、運転能力を損なうリスク、記憶障害や転倒のリスクがあるとして、(不眠症に対しては)数日から3週間の短期間のみ処方されるべきとした勧告が行われています。

今回の小包装のみで供給要請についてはこういった勧告を実効性あるものにするためのものといえるでしょう。

ANSMでは、「成人における重度の偶発的または一過性の睡眠障害の治療において、これらの薬剤の特有のリスクを考慮し、可能な限り最も低い有効用量で、かつ可能な限り最短の治療期間で使用されるべき」としたうえで、これらの薬剤は持続的な誤用が問題となっている。特に、推奨される治療期間(数日から3週間)を超えて使用されることが多くあると指摘。

そして服用中の患者さんに対しては、これらの薬剤の副作用(記憶喪失、転倒など)に長期間にわたりさらされるだけでなく、用量と治療期間の増加に伴い増加する身体的および精神的依存のリスクも高まるとしています。

そこでANSMでは、パッケージの錠剤の数を減らすことは、長期使用のリスクを軽減し、したがって依存症のリスクも軽減することになるとして、BZ系薬剤の処方にあたっては短期間のの処方にとどめること、また、薬剤師に対しては、治療期間が許す限り、これらじゃ小包装での調剤するよう協力を要請しました。

ANSMでは、今年4月にも国民及び医療従事者に対して、BZ系薬剤の適正使用を呼び掛けています

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Bon usage des benzodiazépines
(ANSM 2025.04.08)
https://ansm.sante.fr/dossiers-thematiques/bon-usage-des-benzodiazepines

患者向け情報

  • 不安や不眠症の治療には、薬物療法以外の方法もあります(身体活動を行う、普段昼寝をしている場合は昼寝の時間を短くする、騒音や光、画面への露出を減らす、部屋の温度を調整するなど)。薬剤師や医師にご相談ください。
  • ベンゾジアゼピン系薬剤は、時に深刻な副作用を引き起こす可能性があり、依存症につながる可能性があります。
  • これらの薬剤は、不眠症や不安の症状を緩和するだけで、その原因を治療するものではありません。
  • 使用期間はできる限り短くしてください。その効果は定期的に医師によって再評価される必要があります。
  • ベンゾジアゼピンは短期間のみの使用にすべきです
      不眠症の場合、数日から3週間まで
      不安の場合、最大12週間まで。
  • 治療を中止する際の副作用のリスクを軽減するため、必要に応じて用量を徐々に減らし、服用間隔を空ける場合があります。初回の処方時に、医師は治療の中止方法について詳細に説明します。ご不明な点がありましたら、医師にお気軽にお尋ねください。
  • 複数のベンゾジアゼピンを同時に服用しないでください。副作用が蓄積される可能性があります。

また、患者向け、医療従事者それぞれに対して、リーフレットやポスター、動画などを作成しています

Les médicaments et moi – Focus benzodiazépines
(ANSM 2025.04.08)
https://ansm.sante.fr/page/les-medicaments-et-moi

また、薬剤の自己負担額についても、ゾピクロン、ゾルピデムについては、自己負担額は公定価格の85%(償還率15%)となっています。(→TOPICS 2025.04.20)これは、有効性、副作用、対象とする疾病の重篤度、公衆衛生上の利益等の観点から、重要度が低いためです。

日本でも最近は、新たに不眠などでBZ系薬が処方されることは以前より少なくなりましたが、かかりつけの変更の事由により新たに医療機関にかかった際に、「今まで服用していた」という理由のみでこういった薬剤の処方を断られるという話を聞くようになりました。

適正化を進めるのであれば、フランスのような国民や処方医に対してのしっかりとした取り組みが必要だと思います。

参考:
Dès ce 1er juillet, les boîtes de somnifères vont drastiquement changer : ce qu’il faut savoir
(Top Santé 2025.07.01)
https://www.topsante.com/medecine/medicaments/grandes_familles_de_medicaments/des-ce-1er-juillet-les-boites-de-somniferes-vont-drastiquement-changer-ce-quil-faut-savoir-919525

関連情報:TOIPICS
2017.03.21 BZ系薬剤への注意喚起、十分な対策となっているだろうか?(リンク切れあり)2025.04.20 フランスにおける医薬品償還率


2025年07月02日 14:26 投稿

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