睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン(Update)

 国立精神・神経医療研究センターと日本睡眠学会は13日、「睡眠薬の適正使用及び減量・中止のための診療ガイドラインに関する研究班」および「日本睡眠学会・睡眠薬使用ガイドライン作成ワーキンググループ」が共同で策定した、「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」を公表しています。

「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」の策定と発出について
(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 2013.06.13)
http://www.ncnp.go.jp/press/press_release130611.html
http://www.ncnp.go.jp/pdf/press_130611_1.pdf

睡眠薬の適正な仕様と休薬のための診療ガイドライン
-出口を見据えた不眠医療マニュアル-(2013.06.13)
http://www.ncnp.go.jp/pdf/press_130611_2.pdf
青数字になっている引用文献がないみたいんだけど)

  このGLは、平成24年度厚生労働科学研究・障害者対策総合研究事業として策定されたもので、医療者および患者の両者に向けて、不眠医療を安全かつ効果的に行う(受ける)ために必要となる最新の情報が盛り込まれています。

睡眠薬の適正使用及び減量・中止のための診療ガイドラインに関する研究
(厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究 2012年度)
http://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=201224085A

(本ガイドラインを遵守することで、睡眠薬を用いた不眠症の薬物療法の適応と最適化が明示されるのみならず、認知機能障害等の副作用や、社会問題化している常用量依存や乱用、多剤併用、高用量処方などの長期服用時の臨床的問題の抑止に寄与すると考える)

 GLでは、どのような治療が必要かを症状に応じて、適切な治療法に導く治療アルゴリズムを作成、眠れないと訴える患者には、まず生活習慣の改善を指導(睡眠衛生指導)したうえで、リスクを評価した上で、薬物療法や認知行動療法などを試みるというようになっていて、また減薬や休薬についての指針も記されています。

生活習慣の改善(睡眠衛生指導)の例

  • 定期的な運動
  • 寝室環境(快適で騒音のない睡眠環境)
  • 規則正しい食生活(睡眠前に軽い軽食を取ると睡眠の助けになることも)
  • 就寝前の水分は取りすぎない
  • 就寝4時間前以降はカフェインの入ったものは接らないようにする
  • 寝るための飲酒は逆効果
  • 夜は喫煙を避ける(ニコチンには精神刺激作用がある)
  • 昼間の悩みを寝床に持っていかない

 またGLでは、医療者と患者が不眠治療中にしばしば遭遇する代表的な40のクリニカルクエスチョンを作成、最新のエビデンスに基づいた現時点での最良の回答を示しています。これは、現場でかなり役に立ちそうです。(それぞれに、「患者向け解説」「勧告(いわゆる推奨グレード)」「医師向け解説」がある)

クリニカルクエスチョンの例

眠れない時だけ睡眠薬を服用してもよいでしょうか?(Q6) 不眠が比較的軽症で、睡眠薬を少量だけ服用している場合は、眠りにくい夜だけ頓用しても不眠症状は悪化しない(推奨グレードB)が、全ての睡眠薬については確認されていない。BZ系については、薬物離脱性の不眠症状の悪化が見られる危険性が否定できないため、屯用は推奨されない。(推奨グレードC2)
寝付けないときや、夜間に目を覚ましたときは何時頃まで追加屯用してもよいでしょうか?(Q7) 服用は起床時の6~7時間前までとし、それより遅い場合は半分にすることを推奨。(推奨グレードC1)(追加屯用の可否についてはあいまい)
睡眠薬より寝酒の方が安心のような気がします。(Q8) アルコールは眠りが浅くなって頻繁に目が覚めるなど睡眠の質が悪化する。睡眠を改善する目的で、睡眠薬の代わりに寝酒を用いることは推奨されない(推奨グレートD)
睡眠薬は、晩酌後何時間くらい空けてから服用したらよいでしょうか?(Q9) アルコールを飲んだ時には睡眠薬を服用しないことが原則、お酒の酔いがさめてから服用しても、アルコールの影響が体から消失するには、一般に考えられるより長い時間が必要
睡眠薬を服用した翌朝に運転しても大丈夫ですか?(Q10) 睡眠薬を服用した翌朝に自動車運転を行うことは推奨できない。(推奨グレードD) 一方で、不眠症自体も、日中の眠気や判断力、集中力、反射能力の低下を惹起することに留意すべき。
認知症の不眠や昼夜逆転に睡眠薬は効果があるでしょうか?(Q13) 認知症では中途覚醒や早期覚醒などの不眠症状が見られたり、昼夜逆転などが見られるが、これらへの有効性は確認されていない。使用する場合は症状の改善に合わせて適宜減薬もしくは休薬が必要。(推奨グレードC2)
高齢者の不眠症にも睡眠薬は効果があるでしょうか?(Q20) 高齢者の原発性不眠症に対してはBZ系睡眠薬が推奨される。(推奨グレードA) 非服用時に比較して転倒のリスクを上げるが、骨折に関する強いエビデンスは。またメラトニン受容体アゴニスト投与は推奨しない。(弱い推奨)
漢方薬やメラトニンも不眠症に効果があるでしょうか?(Q28) 不眠症に対するメラトニンの効果は比較的弱く、主たる治療薬として推奨されることは難しい、漢方薬についても有効性は確認されておらず推奨されない(推奨グレートC2)
市販の睡眠薬も不眠症に効果があるでしょうか?(Q29) ジフェンヒドラミンなどを不眠症(特に慢性不眠症)患者に用いることは推奨できない。旅行や心配事などで数日程度眠れない場合の使用に際しても、持越し効果による眠気や精神運動機能の低下に十分留意するよう説明すべきである(推奨グレードC2)
市販のサプリメントも不眠症に効果があるでしょうか?(Q30) エビデンスレベルの高い臨床試験により有効性が検証されているものはごく少なく、また安全性の検証はほとんど行われていないサプリメント(不眠症の治療効果ではなく、ある種の快眠効果)を不眠症の治療に用いることは推奨されない(推奨グレードC2)
睡眠薬を止められなくなるのではないか心配です。(Q34) 短期使用では依存形成の危険性は少ないが、高用量・長期間の服用は依存形成リスクを上昇させるので避けるべき。(推奨グレードB)(患者向け解説は微妙に異なる)
睡眠薬を服用していると認知症になると聞いて心配です。(Q35) BZ系の長期服用で認知症が発症しやすくなるかを検討した疫学調査の結果は一定していない。高齢者への投与は認知機野の評価を適宜実施しながら慎重投与が望ましい(推奨グレードB)
禁断症状がでるため睡眠薬が減らせません。(Q39) ごく軽度のものも含める離脱症状は多くの患者で認められる。休薬を成功させるには、離脱症状を回避あるいは軽減するため漸減法などを用いて慎重に行うことが需要(推奨グレードB)

 研究者らは、睡眠薬に関するこれらの疑問に明確に回答することで、過剰な不安や誤解を解消し、不眠医療の質の向上と患者さんの安心に貢献できるものと期待しているとしています。

 一方、以前紹介した下記論文によれば、ベンゾジアゼピン系やゾルピデムなどのZ薬の長期処方は、転倒や骨折、交通事故、認知障害などと関連があり、長期の使用は禁断症状と潜在的な依存性とも関連づけられるとして、欧州ではこれら薬剤について、長期処方はやめる方向になっており、各国では国をあげて処方と消費の面から長期使用を控える Anti-BZD campaigns も展開されています(償還の制限など)。

Contribution of prolonged-release melatonin and anti-benzodiazepine campaigns to the reduction of benzodiazepine and z-drugs consumption in nine European countries.
Eur J Clin Pharmacol. Published Online 2012 Nov 1. )(オープンアクセス)
http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs00228-012-1424-1

 ですから、こういった世界の状況も踏まえて、このガイドラインを読み解く必要があるかもしれません。(一応、Q38で、「睡眠薬は無期限に長く服用する薬ではありません」「不眠症が寛解(回復)した後には、睡眠薬は可能な限り速やかに減薬・休薬すべきである」にはなっていますが・・・)

関連論文:
悩める国民を適切な医療に結びつけるための教育や方法とは
(薬学雑誌 133 (6) p631-643, 2013)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/133/6/133_13-00056-3/_article/-char/ja/
ゲートキーパーとしての薬剤師:医薬品の薬物乱用・依存への対応
(薬学雑誌 133(6) p617-630,2013) 
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/133/6/133_13-00056-2/_article/-char/ja/

関連情報:TOPICS
 2013.02.22 今や抗不安薬や眠剤への依存はシンナー等の依存を上回る

参考:
睡眠薬適正使用と休薬にガイドライン活用を-NCNPと睡眠学会WGが策定
(医療介護 CBニュース 2013.06.13)
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/40133.html
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130613-00000000-cbn-soci
睡眠薬の適正使用に向け診療GL本日発行,減薬・休薬の指針示す
(MT Pro 2013.06.13)
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/1306/1306037.html
睡眠薬の適切使用に向けた初の指針
(NHK NEWS WEB 2013.06.13)
 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130613/k10015276791000.html

6月14日 13:50更新


2013年06月13日 15:40 投稿

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