一般用医薬品のインターネット販売に関する意見書(薬害オン会議)

 上告審棄却で、今後医薬品のネット販売のルール作りがすすめられる方向のようですが、民間の医薬品監視機関の薬害オンブズパースン会議(http://www.yakugai.gr.jp/)がこの問題についての要望書を22日、厚労大臣宛てに提出したそうです。 

一般用医薬品のインターネット販売に関する意見書
(薬害オンブズパースン会議 2013.01.23)
http://www.yakugai.gr.jp/topics/file/ippanyouiyakuhin_no_internethanbai_ni_kansuru_ikensho.pdf
(コピペすみません)

一般用医薬品のインターネット販売に関する意見書

第1 意見の趣旨

 薬事法を改正して明文の規定を設けて、「対面販売の原則」を明記したうえで、 一般用医薬品のインターネット販売を原則として禁止するべきである。

第2 意見の理由

  1. 一般用医薬品のインターネット販売について、本年1月11日、最高裁判所は、 ケンコーコム株式会社及び有限会社ウェルネットが第1類及び第2類の一般用医薬品について、 インターネット販売をすることができる権利 (地位) を有することを確認した束京高裁判決に対する国の上告を棄却した。
  2. この最高裁判決は、 第1類及び第2類の一般用医薬品のインターネット販売を一律に禁止することは、 憲法22条1項で保障された職業活動の自由を相当程度制限するものであるから、 省令で規制するには、 法律の委任が必要であるが、 現行薬事法には根拠規定がなく、 立法過程を考慮に入れても、省令で一律禁止することまで委任したとは読み取れないから、違法・ 無効であるとしたにとどまる。
    従って、 法律に明文の規定を設けてインターネット販売を禁止することを違法としたものではなく、まして、インターネット販売で、一般用医薬品の安全な使用が確保できるとしたものではない。
  3. 現行の薬事法は、20 06(平成18)年に改正されたものであるが、この改正は、 リスクの程度に応じた専門家による実質的な情報提供と相談対応によって、 一般用医薬品の安全な使用をはかることを目的として行われたものである。 医薬品の安全な使用を確保するには、販売に当たり、専門家が購入者との双方向のコミュニケーションを通じて、 副作用について注意を喚起したり、必要に応じて医療機関の受診を勧めたり、濫用が疑われるときには販売を断るなどの対応をすることが求められる。 そこで、 薬事法改正の元となった 「厚生科学審議会医薬品販売制度改正検討部会報告書」は、「対面販売」を原則とするべきであり、対面販売になじまないインターネット販売については、 第3類を除き、 慎重に対応すべきであるとしたのである。
    混乱が生じた原因は、 厚生労働省及び国会が、 薬事法改正作業に当たり、上記検討会の結論を反映する明確な条文を薬事法に設けなかったことにある。 従って、 薬事法を改正し、 明確な条文を設けるべきである。
  4. これに対し、インターネット販売の規制は、高齢者や障害者、離島居住者などの利便性を損なうとの指摘があるが、 これらの方々こそ専門家の関与の元で安全に医薬品を使用することが求められる。
    サリドマイドもスモンも一般用医薬品によって起きた薬害であり、 現在も、 スティーブンス・ジョンソン症候群など一般用医薬品による重篤な被害が発生している。 医薬品の副作用被害は、 ひとたび発生すれば、 被害者の人生を全く異なるものとしてしまうことさえある。「安全性」があってこその「利便性」なのである。
  5. 厚生労働省は、 最高裁判決を受けて、 検討会を設置し、 早急に新ルールを決定したいとしているようであるが、 法律に明確な規定を設けることを怠り、 それを判決で指摘されたからといつて、 基本方針まで変えるのは筋違いである。
    インターネットにおいて 「対面販売」 に匹敵する安全性を確保する方策はないのか、 あるとすればそれはどのような方法かについて検討する場合は、 まずは、 一度決めた方針に従って薬事法を改正して明確な禁止規定を設けたうえで、 時間をかけてしっかりと検討するべきである。
  6. なお、店舗販売においても、「対面販売」を初め改正薬事法の趣旨が生かされていなぃとぃう実態がある。登録販売者資格の不正取得問題も生じている。
    この際、 店舗も含めて一般用医薬品販売の在り方を総点検して、 薬事法改正の目的を貫徹させるべきである。 

 医薬品販売制度改正検討部会報告書ですか。懐かしいですね。

 昔から訪問されている方はご存じかと思いますが、本サイトでも詳細に検討部会の状況について紹介(Keywords 医薬品販売制度の見直し)していましたが、「対面販売」については、報告書の 3.改正の具体的内容の(2)の(1)できちんと言及していたんですね。

厚生科学審議会 医薬品販売制度改正検討部会報告書
(厚労省 2004.12.15)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/12/s1215-9a.html
 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001qsro-att/2r9852000001r6na.pdf

 対面販売の原則

  • 医薬品の販売時においては、販売者側からその医薬品に関する「適切な情報提供」が行われ、購入者に十分に理解してもらうことが重要である。また同時に、購入者の疑問や要望を受けた場合に「適切な相談応需」が行われることが必要である。
  • こうした「適切な情報提供」及び「適切な相談応需」が行われるためには、薬剤師等の専門家の関与を前提として、
    ・専門家において購入者側の状態を的確に把握できること、及び
    ・購入者と専門家の間で円滑な意思疎通が行われることが必要である。
  • これらが確実に行われることを担保するには、購入者と専門家がその場で直接やりとりを行うことができる「対面販売」が必要であり、これを医薬品販売に当たっての原則とすべきである。

 この原則がきちんと薬事法に反映されていれば、今回の事には至っていなかったのかもしれません。

また、ネット販売については、次のように記されていましたね。

情報通信技術の活用

  • 情報通信技術の活用については、行政、製造業者等による啓発や情報提供については積極的に進めるべきである一方、医薬品の販売については、対面販売が原則であることから情報通信技術を活用することについては慎重に検討すべきである。
  • Aグループ医薬品(現在の第1類のこと)については、対面販売とすべきであり、情報通信技術を活用した販売は認めることは適当でないと考えられる。
  • Bグループ医薬品(第2類)及びCグループ医薬品(第3類)については、対面販売を原則とすべきであるが、購入者の利便性に配慮すると、深夜早朝に限り、一定の条件の下で、テレビ電話を活用して販売することについては、引き続き認めることも検討する余地はあると考えられる。
  • Cグループ医薬品については、リスクの程度や購入者の利便性、現状ある程度認めてきた経緯に鑑みると、薬局、店舗販売業の許可を得ている者が、電話での相談窓口を設置する等の一定の要件の下で通信販売を行うことについても認めざるを得ないと考えられる。

 上記の「一定の条件の下で、テレビ電話を活用して販売することについては、引き続き認めることも検討する余地はあると考えられる」の部分ですが、覚えている方もいるかもしれませんが、医薬品販売制度改正検討部会に先立つ2003年から2004年にかけて、薬局・薬店での薬剤師の不在問題が表面化した際に、大手ディスカウントショップの「ドン・キホーテ」が、夜間に医薬品の無料配布を行い物議となりました。

医薬品販売の規制緩和とドン・キホーテ騒動 (1)
(ELECTRIC DOC.2003.09.01)
http://e-doc.xii.jp/archives/9

医薬品販売の規制緩和とドン・キホーテ騒動 (2)
(ELECTRIC DOC.2003.09.14)
http://e-doc.xii.jp/archives/15

 このため、厚労省では下記の検討会を開催し、報告書をまとめました。

深夜・早朝における医薬品の供給確保の在りかた等に関する有識者会議
http://www.wam.go.jp/wamappl/bb13GS40.nsf/aCategoryList?OpenAgent&CT=30&MT=060&ST=110
(厚労省WEBサイトにあった議事録はどうも削除されてしまっているようですが、資料はWAM NET にまだ残っていました)

深夜・早朝における医薬品の供給確保のあり方について(報告書)
(深夜・早朝における医薬品の供給確保のあり方等に関する有識者会議 2004年1月22日)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/03/dl/s0313-8k.pdf

 そして厚労省は、「夜間のTV電話での対応」を容認する一方で、通常の時間帯での薬剤師等の常時配置を、薬事法施行規則に明記することを検討し、パブリックコメントを行ったのですが、

  • OTCで重篤な副作用が起こる可能性は殆ど無い。
  • 薬剤師不足や薬剤師の偏在がある。
  • 一般用医薬品は使用者の判断・自己責任で使用されるものである

など、反対意見が続出(当時としては異例の2275件の意見が提出。規制緩和を求める、ドラッグストア関係者が集中的に参加したとの説あり)し、厚労省の方針が撤回を余儀なくされたということもありました。(2004年2月「薬事法施行規則」及び「薬局及び一般販売業の薬剤師の員数を定める省令」の改正等に係る意見募集について」に寄せられた御意見について

 WAMNET 資料にもありますが、結局のところ、2003年から2004年にかけての薬局・薬店での薬剤師の不在問題も薬事法改正に至る出発点なのです。(今だって、薬剤師がいない時間帯は第1類は販売できませんというのはおかしい)

 こういった歴史を思い起こせば、現場の実情や要望に合わせてその後、例外が次々と出て、いわば一部業界の圧力に沿って、厚労省ではそれを省令などで規定してきてしまったというのが今回の顛末なんでしょうね。(報告書に従えば、第1類の空き箱による陳列OKというのもやっぱり変な話だと思う)

 薬害オン会議の意見書の通り、検討部会報告者が求めた基本方針は守られるべきであり、今後予想される薬事法改正に反映されることが必要となるでしょう。

 薬事法改正にあたっては、これら2つの検討会での議論を改めてふりかえるとともに、医薬品販売制度改正検討部会報告書でしるされた、「対面販売」とは何かを改めて考える必要があるようです。

関連情報:Keywords 医薬品販売制度の見直し

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2013年01月23日 01:12 投稿

コメントが3つあります

  1. アポネット 小嶋

    ここに自己レスをするのもどうかと思いましたが、安倍政権が新たに設置した「産業競争力会議
    」(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/)の23日開催の第1回会合で、株式会社ローソン代表取締役社長CEO の 新浪 剛史 氏がインターネットの医薬品販売などについて、次のような意見を述べたそうです。

    資料6-6  新浪議員提出資料
    http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai1/siryou6-6.pdf

    (3)健康寿命伸長産業の確立
    → 男性70 歳/女性74 歳の健康寿命を伸長させ、医療・介護費用を軽減し、“将来不安”を取り除いていく → “健康寿命伸長産業”の推奨

    – 予防医療を中心に新たな産業とし、“マチの健康ステーション”(クリニック、調剤薬局、コンビニ、ドラッグストア等)

    – “早期発見”により注力し、この分野での技術発展やより多くの技師育成/看護師育成を図る(子育て中や子育て後の看護師免許を保有する女性を再教育し、活用していく)。
    →健康診断の受診を企業に義務付ける等の仕組みを検討
    →医療保険や公的支援から早期発見への配分を行う(例:健診や人間ドックの税額控除)。
    例:薬事や医療食について、解像度が高くなっている自宅TV や店舗でのTV といったICT を用いて、センターにいる薬剤師や管理栄養士、理学療法士とのTV 会話を通じて、薬や食事の紹介を受ける健康相談ができる仕組みをつくる。LOG が残せるがゆえに、仮に事故が起こっても後でレビュー可能となる。

    - 現行の登録販売者は専門性が低い。OTC 医薬品第1 類及び第2 類全てを、上記TV 会話等のICT による薬剤師の活用で、安全を担保して24 時間販売が可能。病状によっては、最も近い医師への紹介を行う仕組みを検討。→ ゆえに医療費の削減と新たな雇用機会。

    – 健康状態が改善した人達へのインセンティブに関し、健保、企業、国にて仕組みを確立する。

    – 美味しくて低糖質等の高機能性食品産業の拡大による雇用増 → 将来の社会保障費削減

    – 医師・看護師・介護士・薬剤師の役割分担の変更
    医師の作業領域を可能な限り、看護師/介護士/薬剤師に委譲する。結果として、とりわけ介護士の地位を上げ、所得も上げ、若い世代が積極的に就労を希望する職業とする。

    “マチの健康ステーション”という部分には支持できます(といってもコンビニと薬局が合体ということなんだろう)が、元記事にあるような10年前の議論が蒸し返されるような気が。

    関連記事:
    ローソン・新浪社長 OTC薬「テレビ会話で24時間販売」を
    (RISFAX 2013.01.24)
    http://www.risfax.co.jp/risfax/article.php?id=40328

  2. アポネット 小嶋

    関連ブログです。

    [薬局新聞]「離島の購入弱者」引き合いにしたネット業者の言い分に憤り
    (薬局のオモテとウラ 2013.01.24)
    http://blog.kumagaip.jp/article/61693054.html

    大いに同意するところです。

    記事で紹介されている論文は本サイトでも紹介しています。

    離島における一般用医薬品の入手状況調査から考える
    (アポネットR研究会 最近の話題 2011.05.01)
    http://www.watarase.ne.jp/aponet/blog/110501.html

    過疎地における薬剤師の役割は何か?
    (アポネットR研究会 最近の話題 2012.06.29)
    http://www.watarase.ne.jp/aponet/blog/120626.html

  3. アポネット 小嶋

    先月、「スイッチOTCについてオープンな議論を求める要望書」を提出した新薬学研究者技術者集団(http://pha.jp/shin-yakugaku/)が30日、厚労相宛てに次のような要望書を提出しています。

    薬事法に対面販売を基盤としたインターネット販売原則禁止をまず明文化するとともに、インターネット販売が安全性を担保した販売を可能とできるかについては十分な時間をかけて検討するよう要望します(新薬学研究者技術者集団 2013.01.30)
    http://pha.jp/shin-yakugaku/proposal/03_08.html
    内容的には、「薬事法に現行の対面販売を基盤としたインターネット販売原則禁止の明文化」を求めるとともに、インターネット販売については安全性を担保した販売を可能とできるかについて十分な時間をかけて検討するよう要望するなど、薬害オンブズパースン会議と同様のものとなっています。