新年雑感

1.医薬品のネット販売について対応策の検討

 まさかこの話題をTOPにするとは思いもよらなかったのですが、TOPICS 2012.12.21 でも紹介した通り、国が5月に上告していた、医薬品のネット販売に関する上告審の判決が1月11日に言い渡されることが決まっています。

 各紙によれば、二審判断の見直しに必要な弁論が開かれないことから、2社のネット販売権を認めた二審判決が維持される公算が大きいとされていて、ケンコーコムは判決が確定次第、第1類の販売も開始するとの報道もあります。

医薬品ネット販売、13年1月にも再開へ 「吉報」「これはありがたい」
(J-CAST ニュース 2012.12.30)
http://www.j-cast.com/2012/12/30159913.html

 この問題についての個人的な考え方はTOPICS 2012.04.29(ディスカッションも注目して下さい)で述べましたが、長年にわたり先人たちは「一般用医薬品(大衆薬)は、薬剤師のいるところで供給されるべきもの」という常識が、あらゆる面で効率を優先する時代の要請によって、自らの手でこれをなし崩しにしてきた以上、薬事法にネット販売についての禁止の条文に盛り込まれない限り、やむを得ない判断になるのではないかと考えています。

 確かに海外では、非処方せん薬については、多くの国でネット販売が認められているという現実があります。

 しかし、医薬品の販売を行うサイト(薬局)に対しては、認証制度の導入や、倫理規定や行動基準などが設けられ、それを遵守することも求められています。

医薬品のインターネット販売をめぐる動向
(国立国会図書館 ISSUE BRIEF NUMBER 727(2011.11. 1)
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/pdf/0727.pdf

 また、ネット販売を認めている国でも、利用はそれほど多くないとの調査報告もあります。それは薬局の適正配置など、必要な薬がすぐに入手できる体制や、OTC医薬品の購入にあたっては薬剤師などに相談するという国民性もあるからです。

 TOPICS 2012.04.29 でも指摘しましたが、「誰が、生活者のための一般用医薬品販売するべきか、どちらが優れているか」という議論ばかりではなく、現状の問題点を検証し、「どのようにすれば、誤用や乱用(自己判断による不適当な連用も含む)を防ぎ、生活者がより安全に正しく一般用医薬品を利用できるか」ということについての議論を改めて行うことも必要ではないかと考えます。

 即ち、店舗販売においても、効率性だけではなく、薬剤師などに気軽に相談できる販売体制のあり方も検討すべきであり、セルフメディケーションのアドバイスを Face to Face で受けたいと思う場づくりも必要ではないでしょうか。(100 Pharmacists Talking やさまざまな動画で海外の薬局の様子がうかがえますが、安さを訴求したPOPなどは見かけるものの、他の商材と同様の感覚で山積み・大量陳列で消費を訴求するという陳列はあまり見かけません)

関連情報:TOPICS
  2012.04.29 医薬品ネット販売を認める判決に思う
  2012.11.12 100 Pharmacists Talking(Video・FIP)
  2012.09.14 日本人はOTCの副作用や依存性はあまり気にかけない?
  2012.03.22 海外におけるセルフメディケーション(厚生労働科学研究)
  2012.02.06 中学生から見たセルフメディケーション
  2009.08.31 若い世代ほど、注意が必要なOTCをネットで購入(国内研究)
  2009.06.12 OTC選択で薬剤師の助言は消費者に重視されているか(ニールセン調査)
  2008.10.11 風邪薬販売時に薬剤師からの情報提供は必要とされていない?
  2008.08.07 医薬品のネット販売制限は消費者の利便を損なうか?


2013年01月01日 00:00 投稿

コメントが4つあります

  1.  ネット販売については、ポイント付与と同様に、枝葉末節で混乱が起こっています。 海外でも米国と、英国では大違いですし、フランスや北欧諸国もまた様相が異なっています。
     処方せん医薬品ですら、ネットでの購入が進んでいる国もあり、そもそも何のために面倒な手続きを要求するのかという点を考える必要があります。
     店舗販売しかも、専門家を擁した許可に基づく店舗を原則とするならば、ネット販売を含む郵便等販売についても、同様の安全性・利便性の確保が図られるべきと思います。

  2.  スイッチについても、日本では例外的な扱いが続いています。欧州では、処方せん医薬品として導入された新薬についても、一定の期間が経過し、安全性・有効性の確認がなされれば原則として、非処方せん医薬品に移行することとされています。
     日本では、出来高払いの医療保険制度の下に、医療保険の適用にしがみつく体制がスイッチを特殊なものとし、OTC医薬品の範疇を制約してきました。
     今般の薬事法改正で生まれた「薬局医薬品」の扱いは、薬剤師専用薬の誕生を促すものととらえることができそうです。

  3.  既に指摘が出ているように、調剤医療費の伸びの主体は、高価な新薬の増勢にあります。
     一方、サービスの対価としての費用については、それに見合ったものかとの批判は起こってくるでしょうし、これに耐える立証は不可欠です。
     殊に、OTCの第一類医薬品販売(販売しない場合を含め)では、薬剤師による判断が求められており、そのための説明などが必要となりますが、そのコストは販売の利潤しか見込めない状況です。 この点も含めた、薬局の適正利益が論じられる必要がありそうです。

  4.  海外では、個人の権利と責務という考え方が日本とは異なると思えるほど強いようです。 服薬(とその管理)もまず第一義的に服薬する者の権利と責務であり、他者はそれを支援する立場に立つという考え方と思います。 その支援者に、どれほどの専門技能者を充てるかも選択の問題となります。 医師や薬剤師を雇用できるほどの資産家もいるかもしれませんが、社会資源の見地からは、適切な訓練を受けた非医療職の活用も不可欠となるでしょう。
     そのような中で、薬剤師がすべてを管理し、実務にあたるとするのか、施設の職員に(本人が取り組むこと)を支援する技術の取得を進めるのかは、おのずと自明となるのではないでしょうか。