FRAX、ビスホスホネートと顎骨壊死

 地元では医師会の計らいで医師向けの勉強会に時々参加させてもらっているのですが、16日は骨粗鬆症と顎骨壊死をテーマとした講演会が行われました。忘れないよう、メモ代わりに興味ある話をいくつかまとめした。

1.FRAX(WHO骨折リスクツール)

 患者さんの骨折リスクを評価するために、WHOが開発したツールというのがあるそうです。(すでにご存じの方は、読み飛ばして下さいね)

 このツールは、骨粗鬆症の危険因子と大腿骨頸部の骨密度(BMD、この項目は入れなくてもよい)をオンライン上で入力すると、これら因子を組み合わせて10年以内の骨折発生リスク(大腿骨近位部骨折の発生リスク、主な骨粗鬆症骨折(脊椎、前腕、股関節部あるいは肩部の臨床的な骨折))を算出するというもので、下記ページからアクセスすることができます。

FRAX(WHO骨折リスクツール・日本語版)
 http://www.shef.ac.uk/FRAX/index_JP.htm

FRAX計算ツール・日本人用
 http://www.shef.ac.uk/FRAX/tool_JP.jsp?locationValue=3

 日経メディカルオンラインのインタビュー記事によれば、このFRAXは、骨密度(BMD)のみに基づいて治療が必要か否かを判断している診療ガイドラインの有効性と精度を改善するため、危険因子を加味して、治療が必要か否かを総合的に判断するために作成されたもので、各国の疫学データも反映されているそうです。

 数字を入れて試してみましたが、たばこやアルコールの定期的摂取も骨粗鬆症のリスクとして、やはり無視できないようですね。

 現時点では、診療ガイドラインに取り入れられることはないようですが、将来的にはどの時点で薬物治療を開始するかという指標になる可能性もあります。

関連記事等:
骨粗鬆症による骨折リスクを評価する「FRAX」とは
  (日経メディカルオンライン 2008.6.10 要会員登録)
 http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/200806/506629.html

骨粗鬆症による骨折の危険因子は
  (骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版)
  http://minds.jcqhc.or.jp/stc/0046/1/0046_G0000129_0018.html

2.ビスホスホネート製剤による顎骨壊死のリスク

 講演では、歯科治療中のビスホスホネート製剤の使用、ビスホスネート製剤使用中の歯科治療についてのいくつかのコメントがありました。

  • ビスホスホネート(BP)系薬剤関連顎骨壊死(bisphosphonate related osteonecrosis of the jaw:BRONJ)の原因や病態はまだはっきりわかっていない。
  • 米国口腔外科学会の定義(「BP系薬剤による治療を現在行っているか、または過去に行っていた」「顎顔面領域に露出壊死骨が認められ、8週間以上持続している」「顎骨の放射線療法の既往がない」という特徴を全て満たす)などが知られているが、国際的な統一した見解がないため、実は定義がはっきりしていない。(今年5月に、重篤副作用疾患別対応マニュアルが公表されているが、原稿自体は2年前にできたものであり、最新の情報は網羅されていない可能性がある)
  • BRONJの発生頻度は、注射剤では1000人に1人程度で決して無視できない数字だが、内服薬では10万人に1人以下であり、ベネフィットを考えれば、歯科治療に伴って安易に中止すべきではない(副作用に敏感な患者さん以外は、過度に心配する必要はないようです) 
  • ステロイド、糖尿病、喫煙、飲酒、歯周病など口腔衛生状態が発症リスクを高める(質問をしたところ、薬局でも、患者さんに口腔ケアに心掛けたり、歯科での口腔内のチェックを呼びかけるようアドバイスがありました。となると、寝たきりの患者さんにはBP系薬剤は不向きなのかなあ?)
  • BP系薬剤と歯科治療についての留意事項について、学会としてのステートメントが近く発表される予定である(カナダなどでは、すでに関係学会からガイドラインが示されている)

関連記事等:
BP系薬剤関連顎骨壊死(bisphosphonate related osteonecrosis of the jaw:BRONJ)
 (ブログ:ROCKY NOTE〜地域医療総合ページ
 http://rockymuku.sakura.ne.jp/seikeigeka/bisufosufone-totogakkotuesi.pdf

ビスホスホネート系薬剤による顎骨壊死(重篤副作用疾患別対応マニュアル)
 http://www-bm.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1l01.pdf

3.その他
  • 全ての骨折予防の観点から現時点でエビデンスがあるのは、アレンドロン酸とリセドロン酸だけである
  • 健康であれば、股関節を動かす(?)ということは重要である。骨折予防という観点で、すべてをバリアフリーにする必要性はない。(ナーシングホームで全てをバリアフリーにしたところ、かえって骨折が増えたという海外報告があるという)

関連情報:TOPICS
  2008.11.13 ビスホスホネートに心房細動のリスクは認められない(米FDA)
  2008.01.08 ビスホスホネート製剤と筋骨格痛


2009年07月17日 15:02 投稿

Comments are closed.