厚労省の「かかりつけ薬局」推進の本気度は疑わしい?

 既にご存じかと思いますが、21~22日の各紙は、厚労省が、規制改革会議のWGで、「かかりつけ薬局」の普及を促すとした方針を示したことを大きく伝えています。

第36回健康・医療ワーキング・グループ
(規制改革会議 2015.05.21)
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/wg3/kenko/150521/agenda.html

 また、厚労省はいつもの机上の理想論を主張したのかと思いましたが、下記記事によると、『「かかりつけ薬局」に再編する検討に入った』という文言も飛び出し、今回の本気度は今までとは違うのかもしれないとも思いました。

厚労省、全薬局「かかりつけ」に 10年後、患者情報を一元管理
(2015.05.22 共同通信)
http://www.47news.jp/CN/201505/CN2015052101001478.html
http://www.chugoku-np.co.jp/local/news/article.php?comment_id=156750&comment_sub_id=0&category_id=256

厚労省、重複投与の防止にむけ服薬指導を強化へ 「かかりつけ薬局」に再編も検討
(2015.05.22 産経新聞)
http://www.sankei.com/life/news/150522/lif1505220003-n1.html

 根拠となるのは、おそらくWGで示された下記図(クリックで別ウインドウで拡大します)にあると思うのですが、果たして、厚労省が考えるように簡単にうまくいくのでしょうか?

記載例(錠剤・カプセル剤の場合)

 日本経済新聞などによれば、とりあえず2016年度は「かかりつけ薬局」に対する調剤報酬の見直しをすすめる一方、2025年までにかかりつけ薬局の普及を強く進める構想もあるそうです。(26日開催の、経済財政諮問会議で厚労相が「薬局構造改革ビジョン」(仮称)で方向性打ち出すとのこと)

 上記の表の通りとなるならば、各患者がかかりつけ薬局を決めて、利用するともとれるのですが、現実問題、簡単に普及となるのでしょうか?

 現在の調剤報酬の仕組みにおける患者さんの負担は、総額の定率となっているので、これまでの制度通りなら、いわゆる門前薬局では、負担は軽く、かかりつけ薬局では負担は門前薬局より高くなります。

 お薬手帳問題をみる限り、患者さんの中には「価格の安さ」を求める方も少なからずおり、現行の制度のままで、また単なる机上の理想論に留まる可能性があります。(現場の努力次第と責任転嫁されてもね)

 厚労省が、患者さんに「かかりつけ薬局」をもってもらいたいと考えるならば、薬局側に対す誘導策だけでなく、一部負担金が安くなるなどの、患者さんへの誘導策も必要です。

 また、「かかりつけ薬局」をどう定義づけるのかも明らかではありません。おそらく、新たな施設基準を設けるのだと思いますが、完全な24時間応需体制や在宅業務への積極参画などのハードルが高い条件となると、厚労省の思い通りにはいかない可能性もあります。

 一方、記事にある「再編」という言葉も気になります。

 厚労相は22日の閣議後の記者会見で「病院前の景色を変える」と述べ、門前薬局ができにくくする制度にすることをうかがわせています。(でも、一方で門内薬局を認めるというのも変だよな)

 海外では、医薬品の適正供給を確保するため、現在でも薬局の適正配置や開局制限を行っている国もありますが、昭和50年の最高裁で距離制限による薬局不許可が違憲とされている日本において、薬局の適正配置や総数規制にもつながる「再編」が果たして可能なのかという思いもあります。

 では、2025年までにとされる「かかりつけ薬局」の普及のためには、どのような仕組みが必要なのか考えてみました。

2025年までに検討したいものとしては、

  • 一人ひとりが、「かかりつけ薬局」を選択する制度を導入する。「かかりつけ薬局」で調剤を受けた場合は、それ以外の薬局で調剤を受けた場合より割安にする。
  • リフィル処方箋の導入

次回診療報酬改定で検討したいものとしては、

  • 調剤の患者一部負担額を、総額の定率負担から、「薬剤費定率+定額(例えば、3割負担で450円、1割負担で150円)」とし、どの薬局でも同じ負担額となるようにする。(風邪薬や湿布薬だけなどでは割高になるようにする)
  • また、同じ薬局での調剤を繰り返し利用した場合には、この定額負担を割安にして、同一薬局での服薬管理を誘導する。
  • 35日処方を超える処方の分割調剤を義務化する。
  • 残薬確認による、処方日数の変更(減少のみ)や処方の削減は、事後報告のみで変更可とする。(処方医にも服用状況が伝わる)

 その他、かかりつけ薬局の普及を誘導する仕組みがあれば、コメントを頂ければと思います。

 また、地域包括ケアをすすめるには、かかりつけ薬局だけでなく、かかりつけ医を一人ひとりが有することも必要です。かかりつけ医を決めて、継続的にケアやアドバイスを受ける患者さんに対しても、一部負担額が少なくなるような仕組みも取り入れ、かかりつけ医を普及するための誘導策も必要ではないでしょうか?

関連情報:TOPICS
 2015.03.16 「医薬分業」公開ディスカッションが開催
 2013.05.14 欧州9か国における地域薬局をとりまく状況


2015年05月24日 01:50 投稿

コメントが5つあります

  1. マイナンバーなるものが通る今の日本では、誰かが声高に「かかりつけ薬局」「門前薬局」の再編!と言えば、そうなのかって思ってしまって、流れ的にはそうなるんでしょうね。
    厚労省は財務省その他もろもろに対応して、医薬分業路線を止めさせないためにこんな事を言ってると思いますよ(善意的解釈)。

    しかし、そもそも医療機関より何m離れたら「門前薬局」なんですか?
    医科のように「病院とは」「総合病院とは」「診療所とは」って定義づけされてるわけじゃないですよね?
    じゃあ、過去に最高裁判例がある以上、何m以内を門前薬局とし、点数に差をつければ違憲でしょう?勇気の?ある誰かが裁判起こせば国は負けますよね。
    医療業界人に言うように、省令とか通知のちょろって書いてあるから、なんて話は司法の場では通らないですよね。ケンコーコムの薬事法裁判で学習してないんですよね。司法は「法」に書いてなければいけないんです。

    距離がダメなら%で・・・・って言ったら、例え1kmも2kmも離れていたとしても、過疎地域等、医療機関が1件しかない・・・とか、周辺に薬局がなく、近くの診療所がたまに書いて、処方箋が何枚かしかこなくても90%とかになりますよね。

    まあ、何にしても厚労省の方々、「門前薬局」なる法的定義をまず、ですけどね。
    例えしっかと法的に理論武装したとしても、日本国憲法で国民の自由は保障されてますからね、医療関係でない患者が訴えたら違憲判断出ますよね、どう考えても。

    まあ、世の中これで流れて行くんでしょうけど・・・・
    半強制的に「かかりつけ薬局」を持たされるなら、薬が無くていつ薬がもらえるかわからない・・・・状態か、いつもは大学病院前で、たまたま近くの歯科に行っても大学病院前まで薬をもらいに行かなければいけない。
    患者の不自由がかなり目に見えないと政策の転換はしないでしょうね。

    もし「かかりつけ薬局」をしたいなら、各薬局の一番の問題である在庫。
    薬価収載の医薬品総数を減らす。
    日本〒やコンビニのように、本部から医薬品が配送され定番商品しか置かない。
    そうすれば金太郎飴のように、どこ行っても薬すぐもらえますよね。

  2. アポネット 小嶋

    残薬の問題も出るかもしれないけど、在庫のことを考えると、欧州のように箱出し調剤という選択も必要かも。

    また、指導対策のために厳格な記載が求められる薬歴の在り方や、助手導入についても併せて考える必要もあるかもしれませんね。

    さらに、もう今となっては無理かもしれないけど、電子お薬手帳の統一も必要。(今はどちらかというと、患者さんの囲い込みの手段と見えなくもない)

    調剤業務をなるべく簡素化するなどして、OTC販売や患者さんとの対話などに薬剤師が時間を割けるようにしないと、「かかりつけ薬局」を目指そうと思っても、下記のようなことが実現できないのでは?

    <患者本位の医薬分業で実現できること>
    ・薬剤師は、患者の状態や服用薬を一元的・継続的に把握し、処方内容をチェックする
    ・複数診療科を受診した患者は、多剤・重複投薬等や相互作用が防止される
    ・患者は、薬の副作用や期待される効果の継続的な確認を受けられる
    ・在宅で療養する患者も、行き届いた服薬管理・指導が受けられる
    ・薬への理解が深まり、飲み忘れ、飲み残しが防止される。これにより、残薬が解消される
    ・薬剤師は、こうした取組を、地域のかかりつけ医など多職種と連携して行う
    ・患者はOTCの使用方法を含め、気軽に健康相談を受けられるなど
    http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/wg3/kenko/150521/item1.pdf#page=3

  3. 何とか厚生局の指導程くだらないものは無いですね。
    「薬歴」なるものは調剤報酬点数に出てきますけど、「薬歴簿」なるものは医師の「診療録」とは違って法に定義づけされて無いんです。それなのにくだらない指導で重箱の隅を突きまくって、くだらない指導に厚生局は何百億も予算取って、10項目を●×書くか否かですからね。
    薬剤師の「疑義照会」って、外用の用法が1回とか2回とかを聞くためのものじゃないって思うけど。そんなもん何とかテープが添付文書1回なら、一々医師に聞かなくても「1回です」って薬剤師の判断で言えばいいんじゃないですかね?どこに貼ってもいいじゃないですか?痛いとこで。それがそんなに重要な事ですか?
    薬剤師が1名しか登録してないのに、薬歴に名前書いてないとか、1名しかいなかったら別にいいじゃないですか?

    思うのですけど、分業が盛んになった25年ぐらい前・・・・・その頃のパパママ薬局と会営薬局の備蓄センター機能、が正しかったんですよ。
    在宅だって行くゆとりもあったし、学校薬剤師活動や、地域の活動に参加してましたし。
    それこそ自宅兼ですから、夜中も日曜も無く、玄関でピンポン♪されれば店開けて薬渡しましたよ。
    それがOTCのチェーン屋さんがどんどん拡大し、パパママ薬局が衰退し、今度は調剤のチェーン屋さん。
    勤務薬剤師ばっか増えて、労働時間内の仕事しかしない、薬剤師として社会に貢献すべきとの倫理観を教育されない。ちょっと仕事に慣れたぐらいで高給で引っ張りだこ。

    原点回帰と日薬言ってましたけど、ほんと、それをもっと強く推進して欲しいです。
    昔の我々は皆やってた事ですよ。
    そして、パパママ薬局の頃は、もっとお客さん(患者)の身近にいましたよ。
    すみません、あまり答えになってないコメントで。

    でも、温故知新、だと思います。

  4. アポネット 小嶋

    各紙が「病院前の景色は変わる」と伝えた、22日の閣議後の記者会見の概要が25日にアップされています。該当部分を紹介します。

    塩崎大臣2015.05.22 閣議後記者会見概要
    http://www.mhlw.go.jp/stf/kaiken/daijin/0000086708.html

    昨日、規制改革会議健康医療ワーキンググループが行われて、厚労省の事務方が参加してまいりました。構造規制の話がありましたが、厚労省から御説明申し上げた大半は、本来の医薬分業の実現に立ち返る、言ってみれば医薬分業の原点に立ち返って本来の患者本位の医薬分業を実現していくために何をしていくかということで、かかりつけ薬局の機能を明確化する、それは調剤報酬などを抜本的に見直すということで、いずれにしても患者本位の医薬分業の実現を改めて取り組みますということを申し上げたわけでありまして、門前薬局が7割も占めているということでありますけれども、少し時間はかけるとしても、言ってみれば病院前の景色を変えるということだと私は思っております。構造規制についてのお尋ねがありましたが、いわゆる門前薬局からかかりつけ薬局への移行、これは地域かもしれませんが、身近な所のかかりつけ薬局への移行を図っていこうというのが、医薬分業の原点に立ち返るという意味合いでございますが、その際に併せて経営上の独立性や患者選択の自由を確保するといった要件を満たしながら、形式的な参入規制は見直すということを説明させたところでございます。いずれにしても患者本位の医薬分業実現に向けて薬局全体の在り方を考えていく中で、この構造規制についても議論を進めたいと思います。

    門前薬局からかかりつけ薬局への移行をちゃんとやることで、本来の医薬分業の目的である良質な医療と、無駄な排除というものをなくしていくということとを同時に達成するということでありまして、その中で構造規制に関しても検討していくべきと。その際の論点は、やはり本来の医薬分業の目的を達成するためには、経営上の独立性というものがないと駄目だと、それから、一方で患者が自ら薬局も医療機関も選べるというフリーアクセスの確保ということもやった上で、全体としてどうするかということを考え、形式的な参入形式にこだわることはないということであり、一方で本来の医薬分業の目的を達成するために、何が必要なのかというのはさっき申し上げたような報酬の抜本見直しなどによって、身近なかかりつけ薬局があることによって、より健康になれるということを確保するということが大事なので、どういう結果が生まれてくるかについては、まだ更に議論を重ねる中で、自ずと出てくることだと思っています。様々な方々の御意見を決めなきゃいけないので、私個人の考えで決めるわけにはいかないかなというふうに思いますが、いずれにしても、病院の前の景色は変わるのではないかというふうに私は思っています。

    門内薬局の容認をにおわす一方で、身近な所のかかりつけ薬局への移行というのはなんか変ですね。

    どうなんでしょうね? 厚労省の本気度は?

  5. 全てが中途半端ですよね。OTCも売らないといけないから「薬剤師法人」はできない。よって、いつまでも「営利企業」であって、「医療施設」にはなれない。
    我々は「法」の順守を厳しく求められるが、薬剤師以外は「法規制を受けない」立場なので、好き勝手やって、それこそ法に明記してない事はどんどん自由にやって利益を上げていく。
    そして、本来薬剤師免許の独占事業であるべきものが、どんどん皆力尽きて行く。

    時々「薬剤師免許」って何なのかなあって思いますね。

    厚労省は結局財務省や規制改革委員会等へのパフォーマンスと日薬へのメッセージではないでしょうか?
    かかりつけ薬局の実現は難しいですが・・・・日薬の動きが思うようなものでなければ規制緩和されて「院内薬局」を認めるのかも、ですね。